一億総クレーマー社会、初動の「謝罪」と「理解」を誤ると炎上する理由。

怒れるクレーマーと談笑?上司の対応で意識が変わった

──クレーム対応に追われて一時は出社拒否にもなった谷さんが、「怒りを笑いに変える」方法に辿り着いたきっかけはなんだったのでしょうか?

会社員時代の上司の影響が大きいです。当時のぼくは、旅行予約サービスのカスタマーサポートを担当していました。

ある日、他社の競合サービスを使用したお客さまから、クレームの電話を受けたことがあって。お客さまが勘違いしたまま話し続けていることを理不尽に感じ、つい「お客さまがご利用されているサービスは弊社のものではありません」と言い返してしまったんです。

お客さまは恥をかかされた気分になり「お前らも同じような仕事しているから、あえて言ってんねん!」とさらに怒ってしまい……。とうとう上司に電話を代わってもらいました。

すると、電話を変わってから2分後には、その上司がお客さまと笑いながら話していたんです。さっきまでお客さまはめちゃくちゃ怒っていたのに!

──たった2分で。当時、その上司のかたがどんな言葉をかけたのかは気になります。

「お話を聞いてよく分かりました。これは業界全体の問題ですね」。

たったのそれだけでした。それだけで、電話口の相手は「分かってくれたらそれでええねん」と怒りを鎮め、電話を切ってくれたんです。

上司はぼくに「どんな状況でもお客さまの良き理解者になれ。有益な批判があると思って、宝探しのように話を聞け」と説いてくれました。まさに意識が変わった瞬間でしたね。

──それ以降、谷さんのクレーム対応はどのように変化しましたか?

どれだけ理不尽なクレームであっても、冷静に対応できるようになりました。

たとえば「温泉宿の露天風呂がぬるい」というクレームが入ったときのこと。そこの宿は源泉かけ流しで、「熱すぎる」という意見が多かったから、不思議に思ったんです。話を聞いてみると、電話口の相手は露天風呂の脇にある池を浴槽と勘違いしているようでした。

昔のぼくなら「それは池だと思います」と伝えてしまったでしょう。でも「ご満足いただけなかったようで申し訳ございません。せっかくの露天風呂を楽しめなかったこと、残念でなりません」と伝えたところ、お客さまは怒りをおさめてくれました。

──まさに「まずは謝罪」の実践例ですね。

しかも、宿の支配人に電話して「露天風呂と池を見間違えないように目印を立ててください」と伝えたところ「実はそれまでも同様のクレームがあった」と(笑)。支配人やスタッフは「まさか見間違えるわけがない」と思っていたそうです。

この一件を機に宿の支配人も「クレームはお客さまからのアドバイス」とマインドが変わり、お客さまの意見を真摯に受け止めるようになったと聞きました。

──クレームを攻撃だと捉えていると自分のメンタルも辛くなってくるし、有益なアドバイスも拾えなくなる。マインドチェンジの重要性が分かりました。

先ほどお伝えした通り、現在はあらゆる企業がカスタマーサービス部門を強化しています。今後、クレームに対応する人が増えるほど、クレーマーに疲弊して会社を辞めたり、心を病んでしまったりする人も増えてくると思います。でも「良質なクレーマーをファンに変える方法」を知っていれば、ストレスも軽減されるし、サービスや商品の質も向上します。

何より、怒ってる人を笑わせることができるのって、お笑いタレントさんよりもすごいことだと思うんですよね。それに気付いてから、ぼくはクレーム対応を極め、このノウハウをもっと多くの人に知ってもらいたいと考えるようになりました。

良質な意見を反映してサービスが向上すれば、クレームは自ずと減っていく。笑顔で溢れる社会になっていくと思うんです。生意気なことを言えば、ぼくはそうやって将来の日本の社会に貢献したいです。

(文:岡田果子 写真:鈴木渉)