常に100%の力で仕事と活動を両立させる必要はないと気付いた
──フラッグフットボールの練習やトレーニングと会社員生活を両立させるとなると、時間の使い方が大変なのではないかと思います。普段はどのようなスケジュールで練習と仕事に取り組んでいるのですか?
今は、平日は週5で9時から18時ぐらいまではたらき、退社後にジムで筋力強化などのトレーニングをしています。土日は基本的に1日中チームで練習していますね。フラッグフットボールは作戦が重要なので、攻撃や守備のパターンを何通りもシミュレーションします。そう言うと、「両立が大変では?」とよく聞かれるんですが、自分としてはあまりそう感じていないんです。むしろ、頭を使う仕事のあとにトレーニングで体を動かすとリフレッシュできて、次の日も元気な状態で朝からはたらけるので、意外といいリズムで両立できているのかなと。
……たださすがに、会社員1年目のころはちょっと大変でした。今までろくにアルバイトもしてこなかったので、1日8時間はたらいてしかも座りっぱなし、という状況が本当にきつくて(笑)。最近はできるだけ残業をしないようにしているのですが、新入社員のころは慣れない仕事を前に遅くまで業務を続けてしまうこともあったので、トレーニングに一度も行けない週も多かったんです。そうなると土日の練習で体が思うように動かなくて、しんどかったですね。
──その壁は、どのように乗り越えたんでしょうか?
業務自体に慣れたことも大きいのですが、あるとき、自分が仕事もフラッグもどちらも100%でやろうとしていたことに気づいたんです。
最初のころは自分の体力的なキャパシティが分からなくて、仕事が忙しくてもトレーニングや練習を調整せず100%の力でやっていた。その無理がたたったのかよく高熱が出るようになってしまって……。そんな経験から、常に100%の力を出し続けるのは無理なんだなと気づきました。
当初は、仕事にかけられる時間が80%、フラッグにかけられる時間が20%の週があったりするとナイーブになってしまっていたのですが、いまはそういう週があってもいいから、自分の体調も見ながら調整していこうと考えられるようになりました。
──2022年にはお仕事を続けながら、Blue Roses(ブルーローゼズ)というご自身のチームも立ち上げられていますよね。
そうですね。フラッグはまだまだマイナースポーツで、新しいチームがほとんど出てこないことが課題でもあるので、フラッグ全体を盛り上げたいという気持ちからチームを立ち上げたんです。
フラッグやバスケなどの経験者や、私と同じタイミングで上京した友人たちを誘って始めたのですが、やっぱり社会人が多いと日々の仕事もありますし、フラッグに対するモチベーションも人それぞれなので、チームをまとめるのがなかなか大変でした。
今もその点には悩んでいるのですが、最近はチームに高校生も増え、アンダー17(17歳以下)の日本代表やオリンピックを目指している子たちも入ってきてくれたので、高い目標を追いかけて頑張ることを楽しめるチームになりつつあると感じています。
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日本代表としても、会社員としてもグローバルな視点で「挑戦」を続けたい
──先ほど、ワークとライフをあまり切り分けていない、というお話もありましたが、近江さんがはたくことや生きることにおいて大切にしている考え方はありますか?
勝つこと、周囲の人たちに感謝すること、挑戦し続けることの3つです。勝つことには子どものころからこだわっていますね。やるならなんでも一番を目指そうという環境で育ってきたので、小学校の運動会のかけっこですら絶対に負けたくなくて、公園で練習していたのを覚えています(笑)。
社会人1年目のときも、絶対に新人賞をとりたいという強い気持ちで頑張って、結果的に賞をいただけたのが大きなモチベーションになりました。「負けたくない」という気持ちは仕事の提案においても役立つと思うので、これからも持ち続けたいと思っています。
周りへの感謝も常に忘れないようにしています。仕事の中では大手企業の社長や執行役員の方々に提案をすることも多いのですが、そんな大先輩が社会人歴数年の自分に相談をしてくださるなんてすごいことだなと常々思うんです。そういった意味でも感謝の気持ちは持ち続けたいな、と。
それから、挑戦し続けることの大切さは、初めて日本代表として世界大会に出たときに強く感じました。フラッグの強豪国であるアメリカと戦ったんですが、結果的に20点差という大きな点差で負けてしまったんです。でも、国内の試合では味わえないような海外の選手のスピードや身体能力を感じることができたのが本当に楽しくて。体格差はありつつ、戦略・戦術次第では得点できることを実感できた試合でもあったので、大きな自信につながりました。
──「挑戦すること」を怖がらず、むしろ楽しめるのは、近江さんならではの強みだと感じます。そういったマインドを持つための秘訣は何かありますか?
意外に思われるかもしれませんが、私はもともと小心者で、幼少期は本当に恥ずかしがり屋だったんです。何かをやりたいと思っても手を上げる勇気が出ないことが多くて。でも、そういった経験を通じて、結局「やらなかった」という記憶が一番後悔すると気付いたんです。
それからは、とにかく挑戦してみることを心がけるようになりました。そのうち、できないことがあっても挑戦し続けているうちにどうにかなることは多いし、やってみた結果の失敗はむしろプラスになると思えるようになりました。
──ロサンゼルスオリンピックを前に、ますますのご活躍を期待しています。最後に、近江さんのこれからの挑戦について教えてください。
オリンピック出場権の獲得に向けて、今の自分に一番必要なのは海外挑戦だと思っています。やっぱり今はまだアメリカやメキシコ代表のほうが断然強いので、そういった海外のチームから学ぶことが、自分が成長する上での一番の近道かなと。
その上で、仕事においてもグローバルな視野を持ちたいと思っています。現在フラッグフットボールのために海外に行っているときは、会社にサポートしてもらい、休暇ではなく「みなし勤務」の扱いで活動しています。今後は、海外遠征のときも自分で収益を得られるようなスキルを身につけていきたいですね。
現状、フラッグフットボールはまだまだ知名度の低いスポーツで、スポンサーがついてプロ選手として活動ができる環境ではありません。だからこそ収益のことを考えざるを得ない部分もあるのですが、自分としても会社の仕事での学びをフラッグに、フラッグでの学びを会社の仕事に活かすことはできると思っているので、挑みがいのある目標だと感じています。
(文:生湯葉シホ 写真:鈴木渉)