大事なプレゼンの前夜には眠れず、休日はだらだら寝てしまい、いつも二度寝してしまって朝はバタバタ――。睡眠に関する悩みは多いものです。
日本ショートスリーパー育成協会の堀大輔さんは、1日45分が平均睡眠という超短眠生活を15年継続しています。世の中で言われる「睡眠の定説」に疑問を持ち、自らの実践で睡眠メソッドを開発したそうです。
堀さんはどのように睡眠をコントロールしているのでしょうか。
やりたいことをやるためにショートスリーパーになった
──堀さんはショートスリーパーでいらっしゃいます。どのように睡眠をコントロールしているのですか?
前提として、睡眠時間を短くすること自体を目的にするのではなく、「起きている時間を充実させたい」という動機で睡眠をコントロールしています。
その上で私が追求しているのは、「効率的に睡眠を取ること」です。よく睡眠の深さや質が議論になりますが、私はあくまで起きている間に知覚できる「入眠」「途中覚醒」「起床」、そして「活動時間中の眠気」の4つに注目しました。
この4つをトレーニングによってコントロールしています。たとえば、なかなか寝付けず入眠に30分かかっていたら、その時間を短くすることを目指すのです。
──なるほど、睡眠を徹底的に効率化する、と。具体的にどのようなトレーニングをするのですか?
「入眠」「途中覚醒」「起床」「活動時間中の眠気」の4つについて、①問題の原因を探し、②対策を実践し、③振り返り修正する。この3ステップを繰り返します。
たとえば「入眠」をスムーズにするために、日中に「太陽を浴びる」「適度な運動をする」といった対処法を行います。
原因や対策は人それぞれです。このステップを毎日繰り返し、自分にとって最適な睡眠パターンをつくります。
──堀さんはなぜショートスリーパーを目指されたのですか。
私はもともとプロミュージシャンを志していました。当時、寝る間を惜しんで曲づくりや練習をしたいと思いながらも、8時間眠らないとパフォーマンスが出ないことに悩んでいました。
しかし、ドラマーの友人は3時間睡眠で、自分よりも活動的。しかも、彼はもともと私より長時間寝ていたのにもかかわらず、後天的にショートスリーパーになった。「彼ができるなら自分もできるはず」と考え、彼の行動から仮説を立てて実践し、反応を記録するようになりました。
わけあってミュージシャンの夢は頓挫してしまいましたが、凝り性なこともあり、睡眠コントロールの探究は続けました。私は自分の身体を実験台にして、「何をしたら身体がどういう反応をするのか」を観察するのが好きなんです。
そこで自分の体感や生理現象を観察しながら、効率よく睡眠を取る方法を体系化しました。試行錯誤の中で失敗もしたのですが、7年間をかけて睡眠3時間ほどのショートスリーパーに。15年経った今では、1日45分程度の睡眠と、1日15分×2回ほどのパワーナップ(昼寝)で、活発に活動できる体を手に入れたというわけです。
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”常識”にとらわれず、自分の心と体を見つめる
──堀さんをはじめ、ショートスリーパーの例が多くあるとはいえ、健康への悪影響が心配です。問題ないのでしょうか?
私が「睡眠の最大の敵」と考えているのが、「睡眠を長時間取らなければ、病気になったりパフォーマンスが落ちたりする」という強迫観念にも似た「定説や常識」です。
そこにとらわれている人は、入眠が上手くいかずにイライラしたり、高級な枕をとっかえひっかえしたり、迷走している印象があります。自分の心身と向き合わずに、誰かから言われた「良い睡眠」を実践しようとして、かえって睡眠をコントロールできず、メンタルや生活も危うくなってしまう。それは本末転倒としか言いようがありません。
現代は24時間社会で、夜中にはたらく人が大事な役割を担っていますよね。そこで「夜何時に寝ないと健康に悪い」と言うのはナンセンスだと思うんです。社会のあり方に柔軟に合わせられる、優しい睡眠スタイルを探していくべき。そこで、「安心してください、無理して眠らなくてもいいんですよ」と肩の荷をおろしてあげるわけですね。
私も、以前は「睡眠をたくさんとらないといけない」という発想を持ったままショートスリーパーを目指していたんです。すると睡眠時間を「削る」というネガティブな考え方になって、これが良くない形で体にも表れてしまっていました。
しかし試行錯誤の末に、「睡眠時間はトレーニング次第で変えられる」という自分なりの結論にたどり着きました。もちろんトレーニングはスポーツと同じように工夫すべきポイントがあり、自己流では健康を損ねる可能性もあります。そこはぜひとも気を付けてほしいですね。
──ご自身の身体と向き合って、原因や対処法を見つけているのですね。
そもそも、なんとなく睡眠に不満を抱えているだけでは課題は見えてきません。「入眠」「途中覚醒」「起床」「活動時間中の眠気」のどれに問題があるのか、まずはこの4つの状況を整理するだけでも、発見があるんです。
たとえば「活動時間中の眠気」に関して、細かい状況を振り返ってみると、いつ、どんなときに眠くなるのか、パターンが見えてきます。
私は7年間の研究の中で、自分の生活を録音・録画して、あらゆるシチュエーションでの自分の状態、どこにいて、どういう姿勢だったのかなどをまとめていました。すると、パターンが見えたんですね。たとえば、「同じ時間でも、家では眠気が出たけど、喫茶店にいたら眠くない」といったことが分かってきた。そうしたらしめたもので、「環境を変える」という対処法を実践し、フィードバックを繰り返していけばいいのです。
──なるほど。ほかにも心がけていることはありますか?
二度寝をせず、起床時間は変えないようにしています。ただ、どうしても決まった時間の起床が難しい場合は、食事のタイミングを工夫します。早く起きる場合は、その前日その分早い時間帯に夕飯を食べるという具合で、海外に行くときに、機内食で体内時計を調整するのと同じです。
また、日中の不快感や、集中力が途切れるのを何とかしたいとき、一番効くのが「昼寝」です。海外の企業などでは、生産性を上げるために昼寝が推奨されていることもあります。
さらに、寝室は「寝るだけの空間」にして、活動する空間と分けています。寝室の扉を開ければスイッチが睡眠モードに切り替わるようにしているのです。リモートで仕事をするときは、家ではなくシェアラウンジなどを活用して仕事モードをオンにする。環境を自分のモードを切り替えるトリガーにしています。