「みかん缶のシロップを、思う存分飲んでみたい」
子どものころの憧れを叶えてくれる清涼飲料水『あの日飲みたかった みかん缶シロップ』。2024年2月※に全国(沖縄を除く)の一部コンビニエンスストアで発売されるや否や、予想を上回る反響があったそうです。企画・開発を手掛けたのは、『ピルクル』や『十勝のむヨーグルト』で有名なはっ酵乳・乳酸菌飲料メーカー、日清ヨーク マーケティング部に所属する小林古都さんです。
驚くことに小林さんは、開発当時、新卒入社1年目。斬新なアイデアを実際に商品化し、それが話題となるまでにはどのような経緯があったのでしょうか?新卒入社1年目ならではの不安や葛藤についても伺いました。
※2024年3月末で出荷終了
入社2カ月で提案。プレッシャーは大きかった
——なぜ、入社したばかりで商品開発をゼロから行うことになったのですか。
日清ヨークでは、年齢やキャリアにかかわらず、だれでも挑戦できる環境が整っています。また、弊社のマーケティング部は『新卒社員であっても、担当する領域では第一人者たれ』という考えがあります。
入社翌月の5月ごろ、上司からマーケティング部の新卒者に向けて、「紙パック飲料の商品の企画を考えてみてほしい」と話があったので、挑戦してみようと思ったんです。
——入社直後で右も左も分からない中、不安はありませんでしたか?
社会人としての経験がほとんどない状態でしたので、不安はすごくありました。大学でマーケティングを専攻していたので、商品企画の知識は多少なりとはあったものの、実際に世の中に出ていくものの企画を考えるのは初めてでしたし、自身のアイデアから生まれた商品が会社名を冠して発売される……と思うと、「ありきたりなアイデアではだめだ」という緊張感もありました。
上司は「サポートするから楽しみながら考えてね」と優しい言葉をかけてくれましたが、「いい案が浮かばなければ迷惑をかけてしまうかもしれない」と、自分なりにプレッシャーや責任を感じていました。
——「みかん缶のシロップを飲料にする」というアイデアは、どのようなシチュエーションで閃いたのですか。
さまざまな案を考えたのですが、すでに世の中にあるものや、現実的に商品化できないものばかりでした。
そこで諦めず、仕事が終わった後の時間でも「自分がお客さまの立場なら、手に取りたくなる商品ってどんなものだろう?」などと、とにかく考え続けたんです。“みかん缶”の案を思いついたのは、入浴中だったと思います。
(写真はイメージ)
小さいころ、母がみかん缶を家族に取り分けてくれる時に、「私の分はシロップを多めにしてほしい!」と思っていたこと。みかんを食べるよりシロップを飲むのが楽しみだったこと……。
「あのシロップを思う存分飲めたらどんなにうれしいだろう……!」という閃きから、この商品を思いついたんです。
上司へのプレゼンで提案したところ、「ターゲットとしている年代の方だけでなく、老若男女問わず幅広い年代の方に刺さるかもしれない」と採用してもらえました。
——商品名の「あの日飲みたかった」というフレーズも絶妙だと思いました。
ネーミングもプレゼンの段階ですでに決めていました。「みかん缶のシロップを飲みたかった方に届けたい」という企画のコンセプトが、シンプルに伝わるようなフレーズを選定しました。その後、実際に“みかん缶を懐かしく感じる方”がどのくらい存在するのか?といった調査を進めました。
——どのように調査されたのでしょうか。
「シロップを思う存分飲みたい」という思いをもつ人がいることの裏付けを取るために、SNSや検索サイトを使って調査しました。すると、「みかん缶のシロップって飲めるのでしょうか?」というSNSの投稿や、多くのみかん缶シロップのアレンジレシピが載っているレシピ投稿サイトを発見し、「同じ思いを持つ方がいるんだ」と確信を得ました。
社内でもヒアリングを実施したところ、「熱が出た時に飲ませてもらった思い出がある」という声も挙がるなど、“みかん缶”にまつわる思い出のエピソードを持っている方が多くいることが分かりました。そこからコンセプトを整理し、上司から5〜6回ほどフィードバックを受けた後、発売に向けて試作を進めていきました。
パッケージデザインも味わいも「懐かしさ」を意識した
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「理想の味」の言語化が難しかった
——開発段階での一番のハードルはなんでしたか。
難しかったのは“味わいづくり”です。開発担当者に試作品をつくってもらう際、理想の味を上手に言語化することができず、イメージと異なる味になってしまうことが多々ありました。
それでも、コミュニケーションを密に取り、細かな調整を重ねながら、協力して何度も試作を繰り返しました。
——試作をつくり直してもらう時、伝えにくくありませんでしたか。
ある程度の年数勤めていれば信頼関係もできてくると思うのですが、新卒入社1年目の私の要望を、開発担当者に納得して聞き入れてもらうためにはどうしたらよいのかを考えて、こちらの意図を丁寧に伝えるようにしました。
方向性が変わった時も、「今までこのようにお願いしていたのですが、◯◯という理由で変更することになったので変えていただきたいです」と、すぐに共有するようにしました。
——なぜ、プレッシャーに耐え、心を強く持ち続けることができたのでしょうか。
自身が「こんな商品があったら絶対に飲みたい」と思えた企画だったからです。
心が折れそうになったときはその原点に立ち返り、「みかん缶のシロップをごくごくたくさん飲みたい。同じ思いを持つ方がいるはずだ」という自分軸を見失わないようにしました。
もともと、「自分でつくり上げた商品を世の中に出したい」という夢があってマーケティング職に就いたので、それを実現できるタイミングだと思うと頑張れました。大変でしたが、ワクワクする気持ちのほうが大きかったです。
パッケージに大きくみかん缶を描いたデザインも小林さんの案。「紙パック飲料のコーナーになぜみかん缶があるの?」と思ってもらえる、いい意味での“違和感”を目指したという
——ちなみに、小林さんの“理想の味”とはどんなものだったのですか?
目指したかったのは、皆さんの記憶の中にある懐かしい味を再現しつつ、清涼飲料水としても美味しく飲める味です。「じゃあ、懐かしさを感じる味って、どんな味だろう?」と突き詰めて考え、「もうみかん缶を見たくない」と思ってしまうほど、何度もみかん缶を試飲しました(笑)。
その結果、“口の中がキュッとなる酸味”が“理想の味”に近づくポイントだと気付いたのですが、その酸味が、普通のみかんジュースとどう違うのか?を考えなければならず……。
その違いを上手く言語化できても、技術的に実現できないこともありました。“理想の味”とコスト、そして技術の限界点のギャップを、限られた期間内に埋められるのだろうか?と、常に焦りやプレッシャーを感じていました。