東京で働くみなさん、現在の職場環境に満足していますか?
たび重なる時間外労働、上司からの圧力、同僚との競争、部下からの評価など……。日々疲弊している方は多くいらっしゃるかと思います。思い切って転職を考えたとしても、かなりのエネルギーとリスクを覚悟しなければいけません。「できることなら現状維持でいきたい、いやしかし……」。そんなジレンマに陥り不満は募るばかり。
そんな現在、東京都は“誰もが活躍できる持続可能な社会の実現”に向けて「東京の未来の働き方推進事業」を実施しています。先日、都内にて「未来の働き方推進フォーラム」が開催され、現状の日本の働き方の問題点や今後我々がすべきことは何なのかが語られました。
モーリー・ロバートソン氏が考える「未来の働き方」とは?
モーリー・ロバートソン氏
コメンテーターやタレントとして幅広く活躍するモーリー・ロバートソン氏による「東京の未来の働き方」についての講演が行われました。
まずモーリー氏は「生き残っていくためには、多様な働き方が求められている」と切り出します。
しかしながら現状においては「労働者にとってそのための適切な対応がなされてないという側面があり、キャリアの形成途上で環境が不安定になっている。この傾向は一向に収まっていない感がある」と問題提起。その原因について次のように持論を展開します。
「いまトップの役職についている人たちがバブル世代というのが挙げられます。かつての成功体験をひきずったまま現在に至っているため、若い世代は働き方改革を提案しづらい。ハンコ文化や出社主義文化など、世界的に見て日本はデジタル化が遅れているのもこれが一因だと考えます。イノベーション(革新)はリスクを伴うものですが、このような現状では若者たちにツケがまわってくるだけ」
また、ジェンダー問題にも触れ「女性の労働力は増えたが、バブル世代からはいまだに“質が低い”と思われがち」と指摘。
そして「今の若者は差別しないのが当たり前になっている。なので、それに合わせて多様に対応すべき」と、トップに立つべきものの意識の持ち方について啓蒙しました。
それでは、未来を担う若者たちは今後どう働きかけるべきなのでしょう? モーリー氏は次のように語ります。
「定年まで働いていてもリスクフリーな環境はない。どこかで脱落することがあると思います。しかし、なるべく早いうちに小さな失敗を重ねていくことで免疫がつく。失敗を知らずに出世すると、いざピンチに陥った時にメンタルがやられてしまいますから。キャリアを積むにおいて大切なのは、国際情勢を知り、想像力を培うこと。そして何に対しても常に“プランB”を用意しておける柔軟性を身につけるのが重要です」
企業と労働者を「相思相愛」の関係に
はたらき方研究所 代表取締役 平田美緒氏
はたらき方研究所で代表をつとめる平田美緒氏は、働く人と企業もともに笑顔になれる未来を創るためには何が必要なのかを語りました。
平田氏はまず、現状についての問題点について次のように指摘します。
「SNSの台頭で、現代社会は人間関係が希薄になっています。また、セルフレジやロボットの導入により、スーパーやファミレスから人がいなくなった環境が浸透してきました。このままでは分離・分断が起こり、自分たちの世界にこりかたまってしまう世の中になる恐れがあります。それにより、パワハラやセクハラなどの“○○ハラ”をおそれて注意できない、会話がない、相手が何を考えているかわからないといった弊害がもたらされるのです」
では、そんな現状を打破するために企業側はどのような取り組みをすべきなのでしょう。平田氏はこう続けます。 「職場内での垣根をなくし、互いを尊重して伸ばしあう“相思相愛な風土”が理想です。そのためにはお互いの思い・感情・考えを聴いて話す“対話”が重要。心理的安全性が高まることにより、離職率を下げ、自発性の向上がもたらされると考えます。さらに他者から刺激されて新しい発想が生まれることも期待できます」
「未来の働き方」について企業側は?
実際に「未来の働き方」に積極的に取り組んでいる企業はどのようなことを実践しているのでしょうか。
エコアティア株式会社
エコアティア株式会社 代表取締役 多澤信城氏
土壌汚染対策の調査・設計・施工・管理を手がけるエコアティア株式会社では、次のような取り組みを行っているといいます。 「目の前にある社内の小さなストレスの改善を図るため、スケジュールの共有やチャット、Web決済の導入を行いました。そこに至るまでにはトライ&エラーを繰り返す“行き当たりばったり方式”。ですがこの理念をもとに、今後も社内全体“全員経営”の姿勢で、安心して働ける会社を作り上げていきたいです」(多澤氏)
社会福祉法人げんき
社会福祉法人げんき 業務執行理事 伊藤 美佐氏
障がいのある人たちへの就労支援・生活支援・事業主支援に携わる、社会福祉法人げんきではどうでしょうか。
「福祉の現場では、支援する側が常にニコニコしているのが業務の第一前提。そのため、取得期間の制限がない短時間制職員制度の導入、合理化のためのICT(情報通信技術)の活用など、従業員が安心して働き続けられる環境づくりを心がけています。また、連絡・報告事項や保護者連絡、そして出退勤管理をIT化することで、より合理化した働き方を実現しています」(伊藤氏)
多摩冶金株式会社
多摩冶金株式会社 代表取締役副社長 山田真輔氏
航空部品などの金属熱処理を手がけている多摩冶金株式会社は創業73年。山田氏は祖父の代から事業を受け継ぎ、現在は社長の兄とともに経営に携わっています。
「リーマンショックにより、一時期は社内人事が荒れていたことがありました。しかし“100年企業”という世紀を超えて成長し続ける意思を社内に宣言。そのためには人材の確保が必要となります。専門知識や経験を必要とする事業ですが、’16年より新卒採用を決断。経営者側としては採用力と定着率が問われます。人材集めの工夫として、企業ロゴや制服、社内デザインの変更などの社内ブランディングを行っています」(山田氏)
日本の未来を形成する「笑顔になれる働き方」
仕事内容には不満はないけれども人間関係や社内環境でモチベーションは左右されるもの。未来の働き方は、働く側と経営者側の相互理解が重要視されているようです。
“誰もが活躍できる持続可能な社会の実現”を理念とする「未来の働き方推進事業」。今こそあらためて「働き方」について考えるきっかけとなるでしょう。
東京の未来の働き方推進事業
URL:https://mirai-hatarakikata.metro.tokyo.lg.jp
<取材・文/櫻井れき>