『超時空要塞マクロス』といえば「ガンダム」と並ぶ知名度を誇るロボットアニメの有名シリーズです。しかし記念すべき初代『マクロス』の最終回は意外と話題に上りません。そこには相応の理由がありました。



『マクロス』主役機のひとつ「VF-1J バルキリー」。画像は2023年7月「石ノ森萬画館」(宮城県石巻市)にて開催された「超時空要塞マクロス展」のポスター

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『超時空要塞マクロス』は映画版を観ておけばいい!?

『機動戦士ガンダム』のTV放送終了後から3年後に登場した『超時空要塞マクロス』(以下、初代『マクロス』)は、可変戦闘機「バルキリー」の斬新なデザインや、戦争と歌、恋愛を絡めた展開で大人気になりました。

 ところがその最終回の話となると、視聴したはずの人同士でも、どうにも噛み合わないことがあります。なぜそのようなことになっているのでしょうか、初代『マクロス』の終盤の展開について振り返ります。

第27話が事実上の最終回?

「マクロス」シリーズといえば、三角関係と歌、バルキリーによるド派手なドッグファイトが欠かせません。初代『マクロス』では、バルキリーを駆る軍人の「一条輝」と、その上司「早瀬未沙」、アイドル「リン・ミンメイ」の三角関係に加え、ミンメイの従兄妹である「リン・カイフン」がいわゆるトレンディ・ドラマのようなすれ違いを繰り返していました。

 第27話「愛は流れる」で、戦争の行方と恋愛関係に明確な決着がつきます。今まで戦っていたゼントラーディ軍の一部と統合軍(地球人類側)が協力して激戦の末、ついに400万隻という大軍団を擁していた「ボドル基幹艦隊」の司令長官「ボドルザー」を撃破したのです。

 その最終決戦に入る直前、輝はミンメイに「僕、君のこと好きだった、カイフンさんとお幸せに」と敬礼し、ミンメイも「お友達としか思っていなかったから……私」「やっぱりカイフンのこと……」と告げます。輝は未沙を選び、ミンメイはカイフンを選んだのです。ここで最終回を迎えてもおかしくない展開だったといえるでしょう。

 ところが、後に「第二部」と呼ばれるようになる第28話から最終回の第36話までは、解決したはずの問題が再燃します。

第28話以降は何が起きていたのか?

 第28話「マイ・アルバム」は、ボドルザーとの決戦から「およそ2年の月日が流れた」とのナレーションで始まります。差し迫った危険はなさそうですが、平和になじめないゼントラーディ人の暴動が発生するなど、不穏な空気が漂います。そして遂に「味方殺し」の異名で知られるゼントラーディのエースパイロット「カムジン」が、平和に耐えかねて反乱を起こしました。

 一方、ミンメイはカイフンとの関係が進展しないまま、そのアイドル人気に陰りが見えはじめます。ミンメイの専属マネージャーでもあるカイフンは酒浸りになり、軍人嫌いが先鋭化していきました。やがてミンメイのもとを離れ去っていきます。

 ミンメイの心もまたカイフンから離れ、再び輝に接近しはじめました。輝はいつもの優柔不断ぶりを発揮して、自宅を訪ねてきたミンメイを突き放すことが出来ず、なし崩し的に泊めてしまいます。そのようなふたりのやり取りを玄関の隙間から耳にした未沙は、その場を走り去り、バーで深酒して二日酔いで出勤します。

 このように、戦後は主要登場人物みんなの関係性が後退してしまっています。第27話の大決戦の後に待っているのが、だらしない輝と二日酔いになるまでひとりで呑む美沙、歌うのを止めようとしているミンメイだなんて、認めたくないと思ったファンも多いのではないでしょうか。

 そして最終回となる第36話「やさしさサヨナラ」ではカムジンが、修理した戦艦で「マクロス」に攻撃を仕掛け戦死します。平和な生き方ができないカムジンには、これ以外の道はなかったのでしょう。

 最後の戦闘が終わった後、お互いの無事を確かめ合う輝と美沙の姿を見たミンメイは身を引きます。どこか知らない街に行ってもう一度歌ってみると告げ、去っていくミンメイの姿を輝と美沙が見送るシーンで、初代『マクロス』は完結となります。



TV版のノベライズ電子復刻版「超時空要塞マクロス【TV版】(中)」著:井上敏樹/原作:スタジオぬえ/原作協力:アートランド/イラスト:美樹本晴彦 (小学館)

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第27話以降の印象が薄い理由

 戦後編の展開をざっとまとめましたが、多くのファンからなかったことにされていたり、蛇足といわれていたりするのも理解できる内容かもしれません。しばらくぶりに観直したところ、静止画を何度もズームしたり、過去シーンを重ねたりと、クオリティに疑問があるシーンも散見されます。第28話以降のエピソードがまるっきりなかったとしても、初代『マクロス』の魅力は少しも損なわれないでしょう。

 そのせいか、映画の『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』では、第27話までの展開が大幅にアレンジされて、ハイクオリティな作品に仕上がっています。

 劇場版はTV版と基本的な設定が大きく異なっており、はじめから輝が軍人であったり、カイフンがミンメイの実兄であったり、ボドルザーが軌道要塞と一体化した異形の大巨人「ゴル・ボドルザー」であったりします。もっとも大きな変更は、男性だけの「ゼントラーディ軍」と、女性だけの「メルトランディ軍」が銀河規模で争っているという背景設定でしょうか。

 ほかにも細部の違いはあるのですが、こういった改変は明らかに作画だけでなく、設定やシナリオのクオリティアップを目的としたものでしょう。そのため、この劇場版を観てから、TVアニメの初代『マクロス』を観ると、その違いに驚かされます。

 やはりTVアニメの第27話までの展開が素晴らしかった点、その第27話までの展開を大幅にアレンジしつつクオリティアップした劇場版が神がかった名作であった点が、第28話以降のいまいちパっとしない展開を塗りつぶしてしまったように思えます。

 名作と名高い初代『マクロス』の最終回の印象が薄いのは、実質的な最終回の後日談だったから、といってもよいのではないでしょうか。

 なお、2007年から2008年3月にかけTBSにて再放送された際には、第27話をもって終了しています。そもそも観た「最終回」そのものが違うのですから、この再放送しか観ていない人と話が食い違うのは当然であり、そして第28話以降については印象が薄いどころか「観ていなかった」というオチでした。