『サザエさん』や『ドラえもん』などの国民的アニメから、深夜に放送される作品に至るまで、アニメの放送枠は基本30分です。実写ドラマは1時間なのになぜ?
『ドラえもん』のような国民的アニメから、ハイティーン層向けの深夜アニメまで、TVアニメは基本的に1話30分の枠で放送されている。画像はアニメ『ドラえもん』主題歌「夢をかなえてドラえもん」(日本コロムビア)
【画像】えっ、長っ! こちらが異例の「長尺放送」を行ったTVアニメたちです(5枚)
『鉄腕アトム』時代から「30分」が変わらない背景
みなさんが普段見ているTVアニメの放送枠は、『サザエさん』や『ドラえもん』など国民的に知られた作品から、深夜に放送される作品に至るまで、多くが1話30分の枠で放送されています。もちろん、5分枠の短いアニメや朝の情報番組内のショートアニメなどもありますが、「TVアニメは基本30分」という認識が定着しており、そのことをアニメファンのみなさんも疑問に思うことは少ないでしょう。
しかし、同じように毎週放送の物語であるTVドラマには1時間の作品が多く、こちらは「ドラマは基本1時間」と認識されています。こちらも30分ドラマもあれば15分のドラマもあるので一概にはいえないのですが、どうしてこんなに放送時間が違うんだろうと、ふと疑問に思ったことはないでしょうか。
TVアニメが「30分枠」で定着した経緯
日本初の本格的な連続TVアニメは(『インスタントヒストリー』のような短尺のものを除く)、1963年の『鉄腕アトム』であり、この作品がすでに30分の番組として制作されていました。
『鉄腕アトム』放送以前には、海外製のアニメーション作品が放送されており、そのなかにはより短い作品もありました。しかし「スラップスティック・コメディ」のような作品が多く、手塚治虫はそれらとは一線を画すストーリー性のある作品作りを目指していました。また、当時子供向けの番組枠は30分と定着していたこともあって、『鉄腕アトム』は少ない予算にもかかわらず30分アニメとして制作されることになったと『アニメ大国 建国記 1963-1973 テレビアニメを築いた先駆者たち』(集英社)に中川右介氏は書いています(同著P113)。
この作品の成功を受けて、TVアニメは増加します。同年には、『鉄人28号』や『狼少年ケン』、『エイトマン』などが放送開始、翌年には国産のTVアニメの本数が海外製の数を上回るようになります(参照:『1960年代日本アニメーションにおける児童観客・視聴者の受容動向』渡邉大輔)。次第に7時台のプライムタイムにまでアニメは進出していきましたが、その多くは『鉄腕アトム』の成功を受けて、30分の枠で放送されていました(参照:『テレビ視聴の50年』NHK放送文化研究所、P42)。
アニメは子供向けだからドラマより短い?
ちなみに、TVの黎明期には1時間番組は極めて少なく、TVドラマも30分の放送枠が多かったのです。しかし、ドラマの方はアニメとは異なり、60分と長くなったほか、逆に短く15分を毎日放送という形態、さらには単発の2時間ドラマなど、物語や視聴者層に合わせて多様に進化していきました。
もし、アニメがストーリーをじっくりと描きたいというなら、ドラマのように1時間にする選択肢もあってもよさそうなものです。
しかし、アニメは1時間にはなりませんでした。なぜなら、アニメは子供向けの番組として認識されていたからです。基本的に、子供の集中が持続する時間は大人よりも短いですから、長い番組は子供向けには適さなかったと考えられます。
一般に子供の集中力が続く時間は、「年齢×2、3分」と言われています(参考:Brain Balance「Normal Attention Span Expectations By Age 」)。10歳前後で集中力の持続時間がようやく30分になろうかというくらいですから、子供向けの番組は短い方が適しているため、アニメは基本的に30分の構成となったと思われます。実際に、実写作品であっても子供が主な視聴者である特撮番組は、ほとんど30分の枠で構成されています。
初回90分という変則放送を行ったアニメ『【推しの子】』キービジュアル (C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
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1時間の長尺放送も? 例外的なアニメたち
しかし、現在のアニメは子供向けとは限らず、現に多くの作品が子供が寝ている深夜に放送されています。ならば、1話30分以上の作品があってもおかしくないのではないでしょうか。
実際に、過去には1時間アニメというのは存在しました。1977年に放送された水原勇気原作の『野球狂の詩』は単発のスペシャル番組として1時間放送され人気を博し、その後にひと月に1回、1時間で放送する変則的な展開が数か月続いた後、週刊放送へと切り替わりました。
2000年代に入ると、アニメ専門チャンネルAT-X初のオリジナルアニメ『フィギュア17 つばさ&ヒカル』(2001年)が全13話をひと月に1時間ずつ放送されています。AT-Xはその後『Project BLUE 地球SOS』(2006年)や『Mnemosyne-ムネモシュネの娘たち-』(2008年)を1時間番組として放送。しかし、このふたつは全6話と短く、実質1クール30分のアニメと同じ分量といえます。
その他、フジテレビのノイタミナ枠で『刀語』(2010年)をやはりひと月に1回1時間で放送していますし、『PSYCHO-PASS 3』(2019年)全8話が1時間の枠で放送されました。
これらの作品は、有料放送の加入者増を狙って地上波とは異なる手法をとり、イベント的な盛り上がりや無料地上波との差別化という戦略の一環と思われます。
昨今増加しているネット配信には放送時間という概念がないので、各話の尺も自由度が増えます。浦沢直樹原作の『PLUTO』は55分のエピソードもあれば71分のものもあるなど、配信の自由を活かした作りになっています。
しかし、1時間のアニメは30分に比べて、当然倍の労力がかかります。アニメは実写と比べても制作時間がかかりますから、長い尺の作品作りはどうしても不利であり、業界全体の人材不足を考えると、1時間の連続TVアニメを作るのは困難が多いと考えられます。
それでも、最近ではTVアニメ『【推しの子】』(2023年)など初回90分で重要なところまで一気に1話で見せる作品も登場しています。アニメ市場が拡大した結果、さまざまな試みが出てきていることは確かで、労働環境や人材という現実と折り合いをつけつつ、作品ごとに適切な時間のあり方が模索されることになるでしょう。