渋野日向子の“復調のワケ”とは…?米ツアー経験のある有村智恵が解説

国内通算14勝を挙げ、今年4月に双子の男の子を出産した有村智恵プロ。国内ツアーだけでなく、米ツアーにも挑戦した経験のある彼女に、ゴルフに関するあれこれを語ってもらう連載をスタートします。

今回は、長いスランプから突如抜け出し復調した印象の渋野日向子選手について聞きました。有村プロはプライベートでも親交があるとのことで、ここでしか聞けない話が盛りだくさんです。

渋野選手は自信を失ってはいなかった


4月に出産したばかりのお子さんの鳴き声がとなりから聞こえ思わず笑う有村智恵プロ

ーー渋野選手が全米女子オープンで2位になりましたが、プレーを見た印象は?

有村:実はそれまでほとんどプレーを見ていなかったんですけど、どこが不調だったのかわからないくらいでした。

ーー内容もよかったですよね?

有村:そうなんです。少しショットの不安は残っているようには見受けられましたが悪くなかったですし、パッティングもしっかり打てていました。ほんとに ”どこが不調だったの?“ って感じでしたね。

ーー成績が出ない時期が長く続いていましたよね?

有村:そうですね。アメリカでは移動が多くて家に帰る暇がありません。シーズン中ずっとゴルフのことしか考えざるを得ないので、成績が出ないとメンタル的にかなり追い込まれます。

ーーリフレッシュが難しい?

有村:正直、できないといってもいいくらいです。日本だったら美容室行ったりネイル行ったり、食事も日本食が美味しいですし。何より日本語で話せる仲間がたくさんいます。

ーー有村選手もアメリカ参戦されていましたが、マネージャーさんなど帯同されていたのですか?

有村:1年目はサポートしてくれる方がいたのですが、2年目からは完全に1人でした。当時は、宮里藍さんがいたので、よく話を聞いてもらっていました。

ーーアメリカ生活では、何が一番大変でしたか?

有村:やっぱり移動ですね。日本だと試合が終わったら宅急便で次の会場へ送ってしまえるのでカバンだけ持っていけばいいんですけど。アメリカだと、ホテルをチェックアウトしたらレンタカー返して飛行機の搭乗手続き、飛行機を降りたら、またレンタカーかりてホテルのチェックイン、これを1人でゴルフバッグとスーツケース持ちながら毎週ですからね。何回ギックリ腰やったことか(笑)

ーーその点、渋野選手はマネージャーさんがいらっしゃいますよね?

有村:はい。それはとても大きいことだと思います。

ーー全米女子オープンからは、そのマネージャーさんがキャディーをつとめましたが、復調と関係が?

有村:直接、聞いたわけではないですが、メンタル的には大きかったかもしれません。普段から一番信頼している人がずっと横にいるわけですから。それから、友達も増えてきたと言っていましたから、プレー内容以上にメンタル的にアメリカ生活へ慣れてきたタイミングだったのかもしれません。

ーー以前、渋野選手がアメリカで自分が一番下手だとおっしゃっていたようですが?

有村:対人で見ちゃうと、そういう局面はあるかもしれません。特に今シーズンのネリー(ネリー・コルダ選手)とか一緒に回ったら、すべて劣っているように感じると思います。レベルの高い選手が多いですから尚更かもしれません。

ーー自信を失っていたのでしょうか?

有村:いえ、「対コースならどう感じる? トップのスコアとか見て、そのスコアが出せないと感じるの?」と彼女に聞いたことがあるんです。そうしたら、「いや、それは感じない。自分がいいプレーをできさえすれば、出せる範囲だと思う」って言っていました。彼女は自信を失っていなかったですし、通用している実感があったのだと思います。

ーー有村プロはどうでしたか?

有村:私は、「どうやったら、このコースでそんなスコア出せるの?」って思うことがよくありました。その点、私は通用していなかったところがあったんだと思うので、彼女はすごいと思います。

最後に有村プロに渋野日向子選手のスイングを解説してもらいました。

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「彼女は間違いなくパワーヒッター」

有村:彼女のスイングからは、やっぱりパワーを感じます。低いトップからあそこまで一気に出力をあげれて、インパクトのときに左サイドでがっちり受け止められるのは体の強さがあってこそ。

普通の女子プロだともう少し左サイドが開いたりしますし、力がないので遠心力を利用して飛ばしたいんです。私も、左肩が右の頬につくんじゃないかってくらい深く捻じって、それをパワーに変えていました。渋野選手は、まるで砲丸投げのように腕を自由に使ってクラブを返していけるリストの強さも魅力です。アメリカの粘っこい芝にも負けないと思います。

ーー最後に、日本の選手がアメリカツアーで成功するために一番大切なことは何だと思いますか?

有村:「アメリカでのゴルフ漬けの日々を楽しめるか?」だと思います。技術的には日本ツアーで通用している選手ならば十分戦えると思います。さっきも言ったように、試合を戦いながらゴルフ場とホテルの往復が毎日続くだけの日々ですからね。ただ、ゴルフを磨く環境はとてもいいので、「ゴルフさえできれば幸せ!」っていう選手は全く問題ないと思いますね。

復活を印象づけた今年の全米女子オープン。“持ってるシブコ”が自信を確信に変える瞬間が待ち遠しい。

有村 智恵

●ありむら・ちえ/1987年生まれ、熊本県出身。159cm。通算14勝(メジャー1勝)4月に双子の男の子を出産。

構成=岡田豪太
写真=田中宏幸
協力=取手国際ゴルフ倶楽部