『アシスタント』の監督キティ・グリーン&主演ジュリア・ガーナ―が再タッグを組んだフェミニスト・スリラー『ロイヤルホテル』(配給:アンプラグド)が全国公開中です。
本作は、オーストラリアの荒野にたたずむ「ロイヤルホテル」という名のさびれたパブを舞台に、ワーキング・ホリデーに来た女性2人に襲い掛かる身の毛もよだつ悪夢を描いた新感覚のフェミニスト・スリラー。2016年に『Hotel Coolgardie(原題)』としてドキュメンタリー映画化された、オーストラリアに実在するパブがモデルとなっています。このドキュメンタリーは、フィンランドの女性バックパッカー2人が住み込みで働く中でハラスメントを受ける様子を詳細に記録したもの。
本作を手掛けた監督のキティ・グリーンさんに作品へのこだわりについて、お話を伺いました。
――本作とても楽しく拝見させていただきました。制作について「韓国映画、オーストラリアの名作を鑑賞し、ビジュアルスタイルやトーンを確立した」という資料を読んだのですが、どんな作品をご覧になったのですか?
本作は女性2人のロードムービー的な要素があるので、『テルマ&ルイーズ』の様な雰囲気を感じるかもしれませんが、1番大きな影響を受けたのは『荒野の千鳥足』(原題:WAKE IN FRIGHT)という70年代のオーストラリアの映画です。しばらく忘れられていたのですが、最近になって新しくプリントされてたくさんの人が鑑賞をしました。ある男の人が田舎町に入ったら、アルコール中毒の人に囲まれて出られない…という映画なのですが、本作でも視覚的にそういう雰囲気が欲しかったんですね。
韓国映画の『パラサイト』にもたくさんのことを学びました。本当に素晴らしい撮影がなされていて緊張感が素晴らしい作品ですよね。『パラサイト』を何度も観たのですが、本作において「ロイヤルホテル」という寂れたパブが登場人物的な役割も果たしているのですが、「建物も登場人物である」ということは『パラサイト』に影響を受けているかもしれません。
――ドキュメンタリーにインスパイアされているということですが、スリラーテイストにしたのはエンターテイメントとして見せるためだったのでしょうか?
スリラーだからワクワクするっていうことはなくって、今まで映画で描かれたことがなかったような事柄に出会った時にワクワクするのです。本作を作るきっかけとなったドキュメンタリー『Hotel Coolgardie(原題)』を見た時に、今までに無いテーマだなと感じました。ジャンルとしてスリラーになったのはその後なんです。異なる文化の衝突は、飲酒文化や「ジェンダー・ダイナミクス」という広範囲な議論を交わすのに効果的な方法だと感じました。
――本作を観ているだけでも不安でモヤモヤしたのに、ドキュメンタリーに一部始終が残っていたとなると、想像するだけで怖いですね。
そうです。ドキュメンタリー自体がすごく怖いんですね。『Hotel Coolgardie(原題)』を観終わるとすごく不幸になるというか、惨めな気持ちになるんです。その記録自体がすでにスリラーなのです。ドキュメンタリーっぽい演出も入れていますが、フィクションにすることでよりうるさくなり、怖いところはもっと怖くなり、色々な部分が拡張されていると思います。そして、観終わった後に塞ぎ込むのではなく、「やった!」という気持ちになってほしいと思ったので結末などの展開は大きく変えています。
男たちの振る舞いはフィクションで描いてるものの方がひどいんですね。なので映画をご覧になった方は、一体これってジョークなの?それとも怖がった方がいいの?と戸惑う人もいるかもしれませんが、それも狙いです。ドキュメンタリーの方はもっと陰湿で、大きなことが起こらなくてもとても暴力的なのです。
――パブで飲んでる男たちが女性2人に下品な振る舞いをしますが、その居心地の悪さ、怖さ、嫌さが凄かったです。
おかしなことに、15人ぐらいの男の人をあバーの空間に入れて、若い女の子をカウンターに入れるだけで、ああいう怖い雰囲気っていうのが出てしまうんですよね。1人1人はとてもいい人たちなんですけれども、カメラが回り始めて、みんながお酒を飲み始めたり、大きな声で喋ったりすると、本当にあっという間に怖い感じになってしまうんです。もちろん劇伴や照明、セットや衣装がその雰囲気を助けてくれている部分もあるのですが。
実際にバーとかパブなので働いたことのある女性に話を聞くと「同じ様な経験をしました」、「まさにあれは私です」と言ってくれる人が多いんです。一方で、男の人が見ると「彼らは何にもしていないのに、なんであんなに女の子は怖がっているの?」と言うんですね。観る人の立場によっての感じ方、ジェンダーの違いがハッキリ出る所が非常に興味深かったです。
――監督が手がけられた『アシスタント』(19)では職場におけるハラスメント問題を題材にしていますが、日本でもとても大きな話題となりました。これまで黙認されていた様な社会問題を描いてくださって、
私がいつも自分の映画でやろうとしていることは、「観客を主人公の立場に立たせる」ということなんですね。『アシスタント』であれば、彼女の立場になって物事を見せるっていうことで、マイクロアグレッション(自覚なき差別)というものが、どれだけその人に悪影響を与えるかということを見せたいと思いました。本作を観てくださった男性が「主人公がクレイジーだよ。オーバーすぎる」「お姫様かよ」という反応をすることもあったのですが、そういった反応も含めてこの映画を作るべきだったのだと思えました。日本の方の反応もすごく楽しみにしています。
――今日は素敵なお話をありがとうございました。
【STORY】ハンナ(ジュリア・ガーナー)とリブ(ジェシカ・ヘンウィック)の親友2人。旅行で訪れたオーストラリアでお金に困り、荒れ果てた田舎にある古いパブ「ロイヤルホテル」に滞在し、バーテンダーとしてワーキング・ホリデーをすることに。単なる接客バイトかと思いきや、彼女たちを待ち受けていたのは、飲んだくれの店長(ヒューゴ・ウィーヴィング)や荒々しい客たちが起こすパワハラやセクハラ、女性差別の連続だった。楽観的なリブは次第に店に溶け込んでいくが、真面目なハンナは孤立し精神的に追い込まれ、2 人の友情は徐々に崩壊していく……。
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