富士山より高く、新幹線よりも速い超巨大竜巻が群れになって襲来する米オクラホマ州を舞台に、知識も性格もバラバラな寄せ集めチームが竜巻に立ち向かう姿を描いた、リー・アイザック・チョン監督のアクションアドベンチャー超大作『ツイスターズ』が、8月1日から全国公開される。本作の日本語吹き替え版で、デイジー・エドガー=ジョーンズが演じたケイトとグレン・パウエルが演じたタイラーの吹き替えを担当した小芝風花と津田健次郎に話を聞いた。
-まず、自分が吹き替えを担当したデイジー・エドガー=ジョーンズとグレン・パウエルの演技や、ケイトとタイラーのキャラクターについてどう思いましたか。また、今回吹き替えをするに当たって心掛けたことがあれば教えてください。
小芝 デイジーさんのお芝居ですてきだなと思ったのが、正義のヒーローというか、ただの強い人ではなくて、竜巻に対して過去のトラウマがあり、竜巻に立ち向かっていくときに、恐怖の感情がちゃんと残っているところでした。竜巻が好きというのもあるけれど、同時に、どれだけ恐ろしいのかということも全て把握した上で、怖いながらも立ち向かっていく姿にすごく引き込まれました。
まだ吹き替えの経験が少ないので、とにかくがむしゃらにというのはあったんですけど、ケイトは普通の顔をして冗談を言ったり、タイラーにもうそをついて翻弄(ほんろう)しようとしたりとか、そういうちゃめっ気がある人だなと思ったので、これは本気なのかうそなのか分からないみたいなところを楽しくできたらいいなと思って演じました。
これまでのタイラーは、自分が巻き込んでいくタイプだったと思うんですけど、きっとケイトはうまく巻き込めない人なんだろうなと。そんな感じにタイラーがケイトに興味を持つというか、ケイトに引かれるところでもあるのかなと思ったので、そういう空気感は大事にしたいと思いました。
津田 パウエルさんは、嫌なやつを演じるのが非常に達者で、この映画の冒頭もほんとに嫌なやつなんですよ。そこから徐々に彼の本質が見えてくる。そのギャップの出し方みたいなところがタイラーの魅力かなと思いました。ワイルドでイケイケな男かと思いきや、意外に繊細なところもあるみたいな。
これはちょっと難しいなと思ったのは、特に冒頭なんですけど、ケイトとの距離感でした。2人はライバルの状態で出会うので、けん制し合っているんですけど、どこかお互いに興味も持っている。でもなかなか距離が縮まらずみたいな。その辺の微妙な距離感が一番難しかったです。確かにケイトは巻き込めない感じですね。だからタイラーもいつも通りいかないことに調子が狂う感じがあって、それが見えるような見えないような、見せたくないみたいな。そこらへんがすごく人間っぽかったです。
-小芝さんは、今回が2回目の吹き替えでしたが、最初にこのオファーがきた時にどんなふうに思いましたか。
小芝 いろんなお芝居の形がある中で、吹き替えにも挑戦したいという気持ちはあったので、最初はうれしくて、「やりたいです」となったんですけど、いざ収録が近づいてくると「どんな感じでやったらいいんだっけ…」と思って(笑)。それで『ツイスター』(96)の吹き替え版を見て、海外の俳優さんのお芝居や表情に対する声の当て方を参考にして、「こういう感じで1回やってみよう」という気持ちで臨みました。
-では、実際にやってみていかがでしたか。
小芝 やっぱり難しかったです。私が収録した段階では、津田さんの声だけが入っている状態だったので、道しるべになりました。特にタイラーとの掛け合いが多かったので、彼の声が入っているのがとてもありがたいと思いました。他の人の声は英語だったので、テンションの具合とかも分からない中で作っていかなければならなかったので、まずタイラーとのシーンで雰囲気をつかんだ後で、最初から通してやらせていただきました。
全員の声が入った完成版を見た時に、自分の中では反省点などもありましたが、音やせりふの声が全部入るとこうなるんだ、スクリーンで見るとこんなに迫力がある作品なんだと改めて思いました。引いて見ると、ここはもっとこういうふうにすればよかったなと気付くこともたくさんありました。すごく勉強になりました。
-津田さんはこういうタイプの役柄は珍しいのではないですか。
津田 あまりやってこなかったタイプのキャラなので、珍しい役だと思って楽しみではありました。
-実際にやってみていかがでしたか。
津田 最初は難しかったです。特に冒頭はすごく難しかったです。途中から落ち着いて、2人でダイアローグをやるところまで来ると、互いに本音が出てきている感じだったので、そこからはすごくやりやすかったですけど、タイラーに関するある種のフェイクが入っている段階はすごく難しかったです。タイラーはちょっとおばかなキャラクターと言いますか、前半は「イエーイ」という感じのシーンが多くて、後半になると、今度は「ギャー」というシーンが多くて、という具合にテンションの高いシーンが多かったので、そこらへんはもう振り切ってやっていこうと思いました。
-小芝さん、普段の演技と吹き替えとでは大きく違いますか。
小芝 自分が台本を読んで演じる時と、人が演じたものに声を入れるのとでは全く違うので。今回は収録に入る前にアフレコの経験がある役者さんと共演させていただいたので、「何かコツはありますか」と聞いたら、「とにかく自分を消すこと。その人のお芝居に寄せた方がいい」と言われました。でも、日本の方のお芝居と海外の方の話し方の間やテンポは違うので難しかったです。このせりふをこの秒数で入れなければならないとか、感情的にはいきたいけれどちょっと収まっていないとか、「もうちょっとゆっくりしてください」とか、「こう伸ばしてください」ということもあって。全部が感情のままではいけないので、自分を客観的に見ていなければならないし、同時に女優さんのお芝居もちゃんと見なければならないのはすごく難しいと思いました。
-映画を見た感想とお薦めポイントをお願いします。
小芝 もう本当に大迫力で、大きなスクリーンで見ていただきたいなと思いました。アフレコの時は小さな画面で、それでもこんな大きな竜巻が襲ってきたら怖いだろうなと思いながらやっていたのですが、完成作を大きなスクリーンで見た時に、音もすごかったけど、4DXではないのにちょっと揺れたんじゃないかと思うぐらいの迫力がありました。なので、アトラクション感があって、お子さんも多分好きだと思うし、特に男性が好きなんじゃないかなと思いました。先ほど、4DXを体験させていただいて、本当にすごくて、見ながら普通に声が出ちゃうし、吸い込まれてしまうんじゃないかというぐらいの臨場感があってアトラクションのようで楽しかったです。夏にぴったりの映画だなと思いました。
津田 『ミナリ』(20)の監督さんなのに全然違う。どちらかというとおとなしい、静かな映画を撮る人だと思っていたので、幅が広いなと思いました。映画好きとしては、今のデジタル時代に、非常にデジタル向きの題材を頑張って35ミリのアナログでやったのが、逆に迫力につながっていると思いました。それプラス、ケイトとタイラー以外のキャラクターにも結構ちゃんとしたドラマがあります。ケイトのお母さんも謎があってすごくいいんですよ。もちろん、竜巻の描写は、本当にすさまじい迫力ですし、そういう意味ではいろんな面があって、小芝さんもおっしゃっていましたけど、子どもからお年寄りまで楽しめる夏休み映画という感じの作品です。これを劇場で見ないで何を見るんですかっていうぐらいの映画なので、劇場で見ていただければうれしいです。
(取材・文・写真/田中雄二)