「TVゲーム」という呼称は一般的によく使われていますが、長きにわたって「ビデオゲーム」とも呼ばれてきました。この両者にどんな違いがあるのでしょうか。



ファミコンの外箱には「家庭用カセット式ビデオゲーム」と記載があった。「ビデオゲーム」という呼称が、古くから使われてきたことがわかる。(マグミクス編集部撮影)

【画像】えっ、懐かし過ぎ! こちらが昭和の名作レトロゲームです(5枚)

いま遊んでるゲームは、TVゲーム? ビデオゲーム?

 個々の作品ではなく全体をまとめて呼びたい時、その呼称に悩む場合はありませんか? 例えば、いまやほとんどの日本人が日常的に「スマホ」を使っていますが、スマホゲームの呼び方も作りや形態によって呼び名が分かれます。

 例えば、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を介して遊ぶゲームは「ソーシャルゲーム」、本編自体は無料でアイテム販売などの課金要素のあるものは「基本無料ゲーム」や「課金型ゲーム」、リアルマネーを払って購入するゲームを「買い切り型」など、ざっと振り返るだけでもさまざまなカテゴリーと呼び方に分けられます。

 しかも、「基本無料のソーシャルゲーム」、「買い切り型だけどアイテム販売もある」といった具合に複数の要素を併せ持つことも多く、いま遊んでいるゲームはどのカテゴリーに入るのか、適切な表現がパッと思いつかない場合も少なくありません。

 では、スマホ以外のゲームはどんな呼ばれ方をしているのでしょうか。家庭用向けゲームに絞ってみると、カテゴライズとして良く目にするのは「TVゲーム」という呼び方でしょう。大手通販サイトのAmazonも、検索内のカテゴリーで「TVゲーム」と表記しています。

 一方で、「ビデオゲーム」という呼び方も長く使われており、一部のゲームファンの間でも定着しています。「TVゲーム」と「ビデオゲーム」のどちらがより正しいのか、もしくは使い分けが異なるのか。このふたつの呼び方について、紐解いていきます。

1980年代に広まった「TVゲーム」

「TVゲーム」という呼び方は、その字面からも分かる通り、TVにつないで遊ぶゲームを指す言葉として生まれました。こうしたゲームは1970年代にもありましたが、1980年代に登場した「カセットビジョン」や「ファミリーコンピュータ」あたりから、一般的に広まっていきます。

 当時の家庭用向けゲームは、「ゲーム&ウオッチ」のような携帯機を除けば、TVにつなぐものが主流でした。そのため、カセットビジョンやファミコン、PCエンジン、メガドライブなどを総称して、「TVゲーム」と呼ぶようになります。

「TVゲーム」と呼ばず、単に「ゲーム」と呼ぶ人も少なくありませんでしたが、区別をつける必要性もありました。当時のゲームは家庭用向けだけでなく、ゲームセンターや一部の施設(ボーリング場やデパート、駄菓子屋等)に置かれている「アーケードゲーム」も強い存在感を放っていたからです。

 娯楽としての広がりは「アーケードゲーム」のほうが古く、ファミコンやカセットビジョンよりも前から活躍していました。一大ブームを巻き起こした『スペースインベーダー』ですら、そのデビューは1978年なので、カセットビジョンよりもさらに昔です。

 文脈や使い方次第で意味は通じるものの、「ゲーム」という単語だけでは、「TVゲーム」なのか「アーケードゲーム」なのか、分かりづらいこともあります。また、古くは「ゲーム&ウオッチ」など、1989年以降は「ゲームボーイ」や「ゲームギア」といった「携帯ゲーム」もありました。混同を避ける意味でも「TVゲーム」という呼び方が多用され、今日に至るまで長く使われ続けています。

「ゲーム」のカテゴリーは、すでに当時から多種多彩

「アーケードゲーム」や「携帯ゲーム」との区別する必要もあり、「TVゲーム」という呼び方が広まりました。このほかにも「ゲーム」に属する存在がもうひとつありました。それは、「PCゲーム」です。

 当時のパソコンは、「マイコン」という呼び方が主流でした。こちらも歴史を辿(たど)るとかなりさかのぼれますが、一般的に知られるようになったのは、1979年に発売された「PC-8001」あたりからでしょう。

「PC-8001」の価格は16万8千円で、当時の物価を踏まえて考えると高額ですが、この時のマイコン事情としてはかなりリーズナブルでした。その価格設定がヒットの一因となり、日本におけるマイコン市場の広がりへとつながります。

 とはいえ、ファミコンなどの「TVゲーム」や、ゲーセンで「アーケードゲーム」を楽しんでいた小・中学生や高校生にとって、16万8千円は途方もない金額です。呼ぶうえでカテゴリーを分ける必要性こそあったものの、日常的に触れていた人は限られており、「憧れを寄せる高嶺の花」的な存在でした。



駄菓子屋で「アーケードゲーム」を楽しんだ少年少女も多かった。(2006年、佐藤勝撮影)

(広告の後にも続きます)

実は範疇が異なる!? 「TVゲーム」と「ビデオゲーム」

PCゲームをTVに出力したら、「TVゲーム」なの?

「ゲーム」と一口に言っても、「アーケードゲーム」に「携帯ゲーム」、そしてマイコンなどの存在もあったため、TVにつないで遊ぶ家庭用向けのゲームを総じて「TVゲーム」と呼ぶ習慣が一般化しました。

 その流れはいまも変わりませんが、厳密に考えると、実態とは少々異なる面もあるかもしれません。デスクトップパソコンの画面を出力する「モニター」(当時は「ディスプレイ」と呼ばれることが多かった)が、幅広い入力に対応するようになり、時代を経て家庭用ゲーム機との接続も可能になりました。

 HDMIの普及もあって、いまでは家庭用ゲーム機をモニターに出力したり、逆にPCの画面をTVに出力することも簡単にできます。しかし、PCとTVを接続しても、PCで遊ぶゲームのことを「TVゲーム」とは呼びません。逆も同様で、家庭用ゲーム機とモニターをつなげても、呼び方は「TVゲーム」のままです。

 かつては表示の形式から「TVゲーム」と呼ばれていましたが、現代ではカテゴライズや概念が先に立ち、以前よりもやや広い範疇で「TVゲーム」という言葉が使われています。

世界的には「ビデオゲーム」、しかし意味合い異なる面も

「ビデオゲーム」という呼び方も、長年使われています。しかし、聞きなじみのない人も多いことと思います。昨今では「TVゲーム」を耳にする機会のほうが断然多く、特にカジュアルなユーザー層だと「ビデオゲーム」というワード自体が初耳でもおかしくありません。

 ただしそれは、日本に限った話でもあります。そもそも、家庭用ゲーム機を示す意味での「TVゲーム」という言葉は、和製英語に過ぎません。そして、英語圏で実際に使われてる言い回しは、そのものずばり「ビデオゲーム」なのです。

 しかし、日本における「TVゲーム」と、英語圏の「ビデオゲーム」が完全に同じ意味かと聞かれれば、その答えはNOです。日本の「TVゲーム」は、「アーケードゲーム」「携帯ゲーム」「PCゲーム」などを含まず、対象を家庭用ゲーム機に絞っています。けれども、英語圏の「ビデオゲーム」は、そのいずれも含んでおり、より広い範疇のゲーム全般を内包する言葉として用いられています。

 多少乱暴な例えになりますが、コンピュータで制御し、出力された映像にゲーム性があるものは、全て「ビデオゲーム」にくくられます。TVやモニター、筐体、一体型の携帯画面など、映像の出力先が異なってもカテゴライズから外れることは基本的にありません。VRのように専用のゴーグルに表示するゲームも、「ビデオゲーム」に含まれます。

「TVゲーム」の場合は、TVおよびモニターに接続して遊ぶ形が基本なので、「ビデオゲーム」ほど広い対象を含みません。そのため、「TVゲーム」と「ビデオゲーム」は、どちらかが正しいのではなく、対象範囲の違いで使い分ける呼び方なのです。

 コンピューターゲーム全般を指す「ビデオゲーム」という呼び方が大枠にあり、そのなかに「アーケードゲーム」や「携帯ゲーム」などが個別に細分化されており、「TVゲーム」はその小枠のひとつと考えれば、分かりやすいかもしれません。

 同枠の言い回しとして捉えると、混乱を招きかねない「TVゲーム」と「ビデオゲーム」。話題の内容や対象に合わせ、上手く使い分けるのがベターといえるでしょう。