任天堂が今回陥った「減収減益」には、いくつかの理由があります。数字だけで「不調」や「低迷」と語る前に、背景を知り現状へ近づき、本当に見極めるべき時期を見極めましょう。



ハード・ソフトともに売れ行きが落ち込んでいるNintendo Switch。その背景には、いくつかの理由が潜んでいる。

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任天堂の「減収減益」を読み解く3つのポイント

 任天堂は、2024年8月5日に2025年3月期 第1四半期の決算を発表しました。前年同期比で、売上高は-46.5%(2466億3800万円)、営業利益は-70.6%(545億1000万円)、経常利益(1134億6900万円)と四半期純利益(809億5400万円)も-55.3%と、厳しい数字が並んでいます。

 大幅な減収減益を受け、インターネット上では任天堂の不調や低迷を懸念する声もあがっています。しかし、前期比を含めた決算の数字だけを見て、「任天堂は低迷している」と決めつけるのは性急です。

 減収減益は決して軽い問題ではありませんが、重要なのはどのような経緯でこの数字になったのかということです。その過程を知ることで、任天堂が置かれている現状に近づくことができます。

スイッチ本体の売り上げ減退は「スイッチ離れ」にあらず

 減収減益となった理由は、任天堂の主戦力ともいえるNintendo Switch(以下、スイッチ)の減退にあります。まず、スイッチ自体の売れ行きは、有機ELモデルやLiteも合算したうえで、今期は210万台でした。

 前年同期の販売状況は391万で、比較してみると46.3%ほど下がっています。この落ち込みを見ると、「スイッチの人気がなくなった」と判断する人がいてもおかしくありません。

 しかし、ここでスイッチの累計販売台数を確認してみましょう。2017年に発売されたスイッチは、7年ほど経過した2024年6月末時点で、1億4342万台も販売されています。同社のゲーム機と比べてみると、Wii(1億163万台)を大きく超えており、最も販売台数が多いニンテンドーDS(1億5402万台)に迫る勢いです。

 一社だけの比較だと偏りかねないため、ライバルと称されることも多いソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)のゲーム機とも照らし合わせてみます。SIEが公開しているビジネス経緯によれば、PlayStationシリーズで最も売れているPlayStation 2(以下、PS2)の販売台数は、1億5500万台以上と記載されています。

 PS2は、大ヒットした初代PlayStationの後継機として関心を集めるとともに、性能の高さもあいまって、初代のユーザーをうまく引き込みました。また、DVD再生機としても注目されて新規層の開拓にも成功し、1億5500万台という大成功を収めます。

 SIEのPS2と任天堂のDSはいずれも1億5000万台を記録しており、このあたりが「ゲーム機を購入する一定層」を示すひとつの指標といえるでしょう。この数字に迫りつつあるスイッチは、「欲しいユーザー層におおむね行き渡った」と考えることができます。

 もちろん、PS2やDSが活躍した頃といまでは時代が大きく違います。しかし、少子化の加速やスマホの普及といった点を考慮すると、むしろ今の時代の方がゲーム機を売るのは難しいと見る向きもあります。

 ゲーム機における販売台数の上限を1億5000万台程度と考えるならば、スイッチの売り上げが減少している理由は「人気がなくなった」のではなく、その上限に近づいたためと考えられます。販売台数の低下は必然で、これ自体は嘆(なげ)く理由に当たりません。



今年の11月に4周年を迎えるPlayStation 5。2024年3月31日時点の販売台数は、5920万台以上とのこと。あと3年ほどでいまのスイッチの台数に追いつけるのか、注目が集まる。

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ソフトウェアの売り上げが減退した背景とは

今期の減収減益は、大ヒット作の反動が響く結果に

 減収減益の原因は、スイッチ本体の販売台数以外にも理由があります。任天堂は自社ソフトも高い人気を誇っており、100万本を超えるミリオンセラーどころか、1000万本台を記録するタイトルも複数抱えています。

 前年同期を振り返ると、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下、ゼルダの伝説 ティアキン)の躍進が特に目立っています。スイッチを力強くけん引した『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の続編となる本作は、期待に応える完成度で世界的な大ヒットを記録しました。

 この『ゼルダの伝説 ティアキン』が発売された2024年3月期 第1四半期の決算資料を紐解くと、本作の販売本数は1851万本で、この期に販売した任天堂ソフトウェアのうち約半数を占めていたと記載されています。

 前年同期と今期におけるソフトウェアの販売状況を比較すると、昨年は5221万本、今年は3064万本なので、その差は約1200万本です。今期は『ゼルダの伝説 ティアキン』クラスのヒット作がなかったため、その分が丸々(正確には2/3ほど)響いているといえるでしょう。

 約1200万本の差を埋めるゲームを出せなかったという意味では、今期は調子を落としたと表現しても間違いではありません。ただし、ゲームを販売するうえで本当に深刻なのは、「時間と高額な開発費をかけたゲームが売れない」「出すべきゲームを計画通り出せない」などの問題が発生することです。こういった状況こそ、まさしく不調というべき事態です。

『ゼルダの伝説 ティアキン』の分を埋める作品を用意できなかったのは事実ですが、このレベルの大作を毎年リリースし続けるのはどんなメーカーでも至難の業です。また、今期に「ヒットを狙った大作がコケた」といったアクシンデントはなく、ラインナップに見合った結果を十分出しています。

 今期が減収減益になった理由のひとつは、大ヒット作があった昨年の反動……という面も大きく、これだけで「任天堂の不調」と語るのはやや乱暴に感じます。

任天堂が「不調」かどうか、見極めるべき時期とは

 任天堂の減収減益を考えるうえで、ここまで説明した背景は無視できるものではありません。ただし、スイッチ本体がこれ以上売りにくいのは事実ですし、「出すべきゲームが本当に出ているのか?」という疑問が出てくるのも当然です。

『ゼルダの伝説 ティアキン』以降発売された任天堂の自社ソフトは、手堅いものが多い印象を受けます。『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』の1344万本は見事ですが、そのほかは『ピクミン4』348万本に『スーパーマリオRPG』331万本、『プリンセスピーチ Showtime!』122万本、『マリオvs.ドンキーコング』112万本といった結果です(※2023年4月1日~2024年3月31日まで)。

 いずれもミリオンを超えてるヒット作ですが、「マリオ」関連が多く、もっと他の作品や大作が欲しいと思う人もいることでしょう。しかし、この点についても推察する余地が残っています。それは、正式な発表が控えている「スイッチ後継機」の存在です。

 まだ詳細は明かされていませんが、遅くとも2025年3月までにはスイッチ後継機のアナウンスが行われる模様です。発売時期なども不明ですが、アナウンスの予定が決まっているため、本体だけでなく対応ソフトの開発も進んでいるものと思われます。

 ゲーム開発のリソースには限りがあるため、仮に後継機向けのソフトに注力しているとすれば、スイッチ向けに傾ける分はシーソーのように反比例して少なくなるはず。現状のラインナップが弱いのは、今後に向けたリソース配分による影響かもしれません。

「出すべきゲームが本当に出ているのか?」を真剣に問うならば、スイッチ後継機の初期ラインナップが答えになります。後継機向けの任天堂タイトルが充実していれば、現状は嵐の前の静けさに過ぎなかったのだといえるでしょう。

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 減収減益は喜ばしい事態とはいえませんが、数字だけでは見えない背景があります。スイッチ本体の伸び悩みは十分に普及した結果といえますし、前年の大ヒットによる反動という一面もあります。

 出すべき時期に求められているゲームを出し、それが着実に売れること。その命題を、スイッチ後継機の立ち上がりに果たせるかどうか。そこが、本当に不調かどうかを問うタイミングとなるでしょう。

 なお、今後の注目作として、『Pokemon LEGENDS Z-A』と『メトロイドプライム4 ビヨンド』が、2025年に発売される予定です。現状ではスイッチ向けと発表されていますが、仮にスイッチ後継機とのマルチプラットフォームとなれば、さらに盛り上がること間違いなし。こうした朗報が訪れるかどうかも、これから注視したいところです。