『仮面ライダー』と並ぶ、漫画家・石ノ森章太郎氏の代表作『サイボーグ009』は、2024年で生誕60年を迎えました。1968年に放映されたTVアニメの第1シリーズがYouTubeで無料配信されるなど、再評価が高まっています。終戦記念日が近いこの時期、ぜひチェックしておきたいTVアニメの名作エピソード「太平洋の亡霊」を紹介します。
息子の無念を晴らそうとするマッドサインティスト
旧日本海軍を現代に甦らせたのは、超心理学を専門とする平博士でした。平博士にはひとり息子がいたのですが、太平洋戦争の末期に特攻隊員として亡くなりました。息子の無念を晴らすために、平博士は頭のなかでイメージしたものを物体化させるマシンを発明し、米国への報復をもくろんだのです。
平博士がこの事件にからんでいることを察知した009たちは、平博士のいる研究所へと急行します。平博士はマシンを操作している真っ最中でした。そして009たちに「かつて日本は多くの若い命を犠牲にしてしまった。そのとき我々は彼らの魂になんと誓った?」と語ります。日本だけでなく、米国をはじめとする各国が軍事拡張、兵器の開発を進めていることに平博士は激怒していたのです。
009が憎しみをさらに広げる行為はやめるように呼びかけても、平博士は聞き入れません。ですが、そこにひとりの人物が現れ、事件は意外な展開をみせていきます。
海底に沈んでいた「大和」が甦り、その勇姿を見せるシーンはモノクロ映像ながら息を呑みます。人気アニメ『宇宙戦艦ヤマト』(日本テレビ系)のTV放映は1974年10月からなので、6年早い大和の復活劇でした。また、スティーヴン・スピルバーグ監督は、三船敏郎さん率いる旧日本軍の潜水艦が米国の西海岸に出没する戦争パニック映画『1941』を1979年に公開しています。それよりも、ずいぶんと早い作品でした。
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レジェンド作家・辻真先氏が込めた祈り
放送時間23分ほどの短いエピソードですが、「太平洋の亡霊」はとても濃密な物語です。上映時間3時間の大作映画『オッペンハイマー』(2023年)を難しく感じた人も、「太平洋の亡霊」はドキドキハラハラしながら、いろいろと考えることができるはずです。
TVアニメのオリジナルとなる本作のシナリオを担当したのは、現在92歳となる辻真先氏です。辻氏は、『鉄腕アトム』や『レインボー戦隊ロビン』など、TVアニメを黎明期から手がけてきた超ベテラン脚本家です。今も現役のミステリ作家として活躍中で、先述した『サイボーグ009 トリビュート』にも参加しています。
辻氏が中学生のときに、日本は太平洋戦争に敗れ、全面降伏しました。玉音放送が流れた1945年8月15日の正午をきっかけに、世界が一変するのを、辻氏は体感したそうです。
辻氏は「敗戦」ではなく「終戦」という言葉が使われていることにも、違和感があるそうです。戦時中、日本では「撤退」のことを「転進」、「全滅」のことを「玉砕」と言い換えていました。自分たちの都合のいい言葉に置き換えるという日本人の体質は、敗戦を経験した後も変わっていないのかもしれません。
石ノ森氏や辻氏ら、戦争体験者たちの平和への祈りが込められたTVアニメ『サイボーグ009』は、YouTubeで視聴できるほか、石ノ森氏のアシスタントだった早瀬マサト氏の作画によるTVアニメのコミカライズ『サイボーグ009 太平洋の亡霊』が秋田書店のWebサイト「チャンピオンクロス」にて配信中です。8月20日(火)には単行本化される予定となっています。
平博士の凶行を思いとどまらせたのは、いったい何だったのか? ぜひ、「太平洋の亡霊」の結末を確かめてみて下さい。