視察を繰り返して問題点を抽出。与えたヒント5箇条とは? 反町GMが乗り出した清水アカデミー改革の全貌(後編)

 アルビレックス新潟、北京五輪代表、湘南ベルマーレ、松本山雅FCで足掛け20年間、現場で指揮を執り、成果を挙げてきた清水エスパルスの反町康治GM兼サッカー事業本部長。そういう経歴の持ち主だけに、7月10日に実施した「サッカー事業本部研修会」では、パフォーマンス向上の具体策にも踏み込んでいる。

「清水が目ざすスタイルは『アクションフットボール』。常に相手より先に考え、先にアクションを起こすことを目ざしています。

『攻守にインテンシティの高い躍動感あるサッカー』をトップチームが実践し、強い集団になっていくためにも、アカデミーからのコンセプトを共有していく必要がある。トップの土台がアカデミーにあることを忘れてはいけないと思います」と反町GMは強調する。

 育成年代の選手たちがパフォーマンスを引き上げていくためには一体、何をすればいいのか。反町GMは約2か月間、試合と練習の視察を繰り返し、現状を把握して問題点を抽出。方向性を見出したという。

「自分が考えたヒント5箇条は、①ハンドシグナル、②フックコントロール、③フェイクショット、④攻撃時の加速、⑤コンタクトスキルの5つです。

 見慣れない言葉もあるかもしれませんけど、まず1つ目のハンドシグナルというのは、パスを促すコミュニケーションツール。ボール保持者に対し、受け手がどこでパスを受けたいかを手を使ってしっかりと要求することを指します。

 ユースやジュニアユースの試合を見ていると、残念ながら足もとなのかスペースなのか、左足なのか右足なのか、どこにパスが欲しいかを示せない選手が目立ちました。そしてアクションどころか、パスが出てから動き出すという選手もたくさんいました。

 逆にトップの乾貴士や北川航也は自分からアクションを起こし、その際にはしっかりシグナルを出している。チャンピオンズリーグで上位進出したチームの選手も当たり前のようにやっている。そういう基本的なところから徹底しないといけないんです」と反町GMは説明する。

 確かに小さなことかもしれないが、細部を一つひとつ徹底することから改善は始まる。そういう認識を持たせたかったのだろう。
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「2つ目のフックコントロールというのは、後ろや横からのグラウンダーのボールを受けて、次のプレーにすぐ移れるようにする足もとのトラップ技術のこと。2タッチ、3タッチしているうちに敵に寄せられ、詰まってしまうケースも少なくない。その1つの技術でスペースのない状況をかいくぐれるし、プレーのスピードアップもできる。これも意識的にやるべきですね。

 先日の8月10日の清水エスパルス対ザスパ群馬戦で、乾のアシストからカルリーニョスが先取点を決めましたが、後方からのパスを受けた乾はまさにそのフックコントロールが生きた瞬間です。

 3つ目のフェイクショットというのは、いわゆるキックフェイント。ボール保持者に激しくプレッシングしてくる相手に対し、キックやシュートをするふりをして切り返し、有利な状況に持っていくこと。特にゴール前でスライディングタックルしてくる相手にそれができれば、ゴールにつながる可能性は高まります。

 これもチャンピオンズリーグの上位チームに多く見られた事象です。もちろん選手によってはできている時もありますけど、まだまだ足りない。育成年代から相手の状況を見たうえで確実に身につけてほしいプレーだと捉えています。

 4つ目の攻撃時の加速というのは文字通りで、局面で数的優位を作ったり、スペースに走り込んで決定的チャンスを数多く作り出すために必要不可欠。今は『オーバーラップ』『ポケットラン』とかいろんな言葉が飛び交っていますけど、全て加速がなければ成立しない。クロスに入っていく選手も加速して、相手を外して入る必要があります。そこは強調したいところです。

 そして最後のコンタクトスキルというのは、勝敗に直結する点。デュエルの勝利が試合の勝利につながると言っても過言ではないでしょう。うまく身体を使ってファウルをせずにマイボールにする技術に、身長・体重などサイズの大小は関係ない。

 遠藤航を見ても、屈強な外国人選手より小さいのに、あれだけボールを奪うスキルに長けていますよね。育成年代から取り組んでいけば、磨ける部分なんです。こうしたヒントに対して、指導者がゴールデンエイジから取り組んでいけば、間違いなく選手個人とチームのパフォーマンスは上がります」
 
 反町GMがピックアップしたポイントは、日本サッカー協会(JFA)の技術委員長時代にチェックした年代別世界大会でも「日本人に足りない」と感じたところだという。

 日本は2023年U-17ワールドカップでベスト16敗退、同年のU-20ワールドカップではグループステージ敗退の憂き目に遭っているが、上位進出国と比べると、攻撃時の加速やコンタクトスキルなどでは確かに見劣りした印象が否めなかった。

「清水がチャレンジすることが、日本のチャレンジにつながり、ひいては年代別世界大会や五輪、ワールドカップの結果につながっていくと思っています。これまではJFAの一員という立場でレベルアップを考えていましたが、今は一クラブの人間として底上げを図っていく立場。だからこそ、あえて今回、研修会を実施して、アカデミーコーチの認識を高めたいと思ったんです。

 10月には第2弾として清水、駿東、藤枝などのスクールコーチを集めた研修会を開催する予定です。アカデミーコーチにもさらなるアクションを起こしたいとも考えています。そうやって土台作りがうまくいけば、自ずと成績も上がるでしょうし、アカデミーからトップに昇格し、より高いレベルに飛躍していく選手も多くなるはず。そうなるようにできることを考えていくつもりです」
 
“サッカー王国・清水”の再建に強い意欲を示す反町GM。これまでも清水のアカデミーからは毎年のように年代別代表のプレーヤーが出ているが、残念ながら全てがトップに定着し、活躍しているとは言い難いものがある。

 日本サッカー界には「ポストユース」という難しい課題があるが、清水の場合はその傾向が顕著だ。10代の時点で輝いていても、トップ昇格後に伸び悩むという例を減らし、タレントがグングン成長していくようになれば理想的である。

 そのためにも、今回のようなピッチ内の取り組みと並行して、ピッチ外の人間教育を取り入れる必要があるのかもしれない。反町GMはそれも含めて、今後の有効な策を講じていくはずだ。

 故郷に戻った百戦錬磨の男が放つ二の矢、三の矢を楽しみに待ちたいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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