パリ五輪が終わって早1週間。4年後のロス五輪に向けて、戦いはすでに始まっている。
トレーニングパートナーとしてU-23日本代表の活動に大会直前まで帯同し、フランスとの親善試合にも出場した技巧派MF佐藤龍之介(FC東京)、すでにヨーロッパで研鑽を積んでいる191センチの大型FW後藤啓介(アンデルレヒト)などが攻撃陣で注目を集めるなか、守備陣にも大きな期待を背負う逸材がいる。大宮アルディージャでプレーするCB市原吏音だ。
187センチ・81キロ。19歳とは思えないほど身体はがっちりしており、恵まれた体躯を活かした空中戦や対人プレーの強さは抜群。足もとの技術も持ち合わせており、ボランチでもプレーできるほどのパスセンスや推進力など、そのポテンシャルはロス世代で頭ひとつ抜きん出ている。
クラブからの期待値も高い。U18チームに所属していた22年の2月に2種登録されると、高校3年生となった23年の6月に天皇杯の3回戦(対セレッソ大阪、1-3)でトップデビューを飾った。
翌月からはリーグ戦でも起用されるようになり、7月16日の栃木戦(0-0)でJ初出場。チームをJ2残留に導けなかったが、最終節までフル出場を続けて17試合でピッチに立った。
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U18チームを卒団して迎えた今季は本格的にプロキャリアがスタートし、開幕からレギュラーとして活躍。背番号4を与えられたことはもちろん、さらにはプロ1年目のシーズンに副キャプテンを任された点でも市原に対する期待の大きさが見て取れる。その期待に応えるように市原は開幕から3バックの中央で最終ラインを統率。日を追うごとにプレーの安定感も増している。
8月17日に行なわれたJ3・第24節の金沢戦(2-0)。いつものようにスタートからピッチに立つと、高さと強さで相手FWを封じつつ、攻撃時には正確なビルドアップや持ち運びで起点となった。
自陣ゴール前では相手に身体を入れ替わられるシーンが一度あったが、それ以外は大きなミスもなく、仲間に対する声かけも含めて、立ち振る舞いからは風格すら感じさせた。
U18チームの先輩で今季から大宮でプレーしているCB村上陽介も、市原の存在に刺激を受けていると話す。
「(大卒と高卒で異なるけど)リオンがやっているからこそ、大卒1年目だからと言って言い訳にできない。良い存在でもあるし、良い相棒でもある。本当に良い選手」
ただ、市原本人は至って冷静。リーダーシップには手応えを感じているが、言葉からは現状に満足していない様子がうかがえた。
「自分自身で成長できているかを決めるわけではない。周りの評価の方が大事。自分は1日1日を大事にプレーしていくだけ。何が成長しているかというのは自分で評価しにくいけど、一つ言うならリーダーシップの部分。去年以上に責任感があるし、プロ1年目にもかかわらずに副キャプテンを任せてもらっているので、なんとしてでもチームを勝たせないといけない。昇格させて今までの恩を返したいと思っている」
日本サッカー界の歴史を振り返っても、高校3年生でCBのポジションを掴んだケースは数えるほどしかない。思い起こされるのは冨安健洋(アーセナル)。アビスパ福岡に席を置いていた高校3年生の夏から定位置を掴み、瞬く間にステップアップを果たしている。市原も偉大な日本代表のCBと同じように近い将来、海を渡る可能性は決して小さくない。
「自分の代なので中心としてやらないといけない。本当はパリ五輪世代にも食い込んで行きたかったけど、終わってしまったので次のロスやA代表を視野に入れていきたい。現実的には来年のU-20ワールドカップがある。ただ、まずはクラブでやることが大事。代表のことを考えるのではなく、まずはチームで結果を残したい」
ロス五輪まであと4年。9月末には、来年のU-20ワールドカップの1次予選を兼ねたU-20アジアカップ予選がキルギスで幕を開ける。五輪までに残された時間は長いようで短い。ここから大宮の有望株が、どのような成長を遂げていくのか注目だ。
取材・文●松尾祐希(サッカーライター)
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