岐阜県は日本の「海なし県」の一つとして知られていますが、その自然には豊かな川や山があり、海洋と密接に関わる生態系が存在しています。そんな岐阜県で、次世代を担う子どもたちに海洋環境の重要性を学んでもらおうと、一般社団法人海と日本プロジェクト岐阜は、2024年8月8日(木)・9日(金)に「サツキマスから学ぶ海の今と未来~シンボルフィッシュとたどる清流長良川の旅~」を開催しました。
このイベントは、子どもたちが自然のつながりを体感し、未来の海を守るためのアクションを考えるきっかけを提供するものです。
サツキマスは、岐阜県の長良川に生息し、その美しい銀色の体で知られる幻の魚です。かつては川を遡上する姿がよく見られましたが、環境の変化や人間の活動の影響でその数は激減しています。岐阜県の子どもたちがこのサツキマスを通じて、自然環境のつながりとその脆さを学ぶ姿は、私たち大人にも多くの示唆を与えてくれます。今回のツアーでは、川と海の関係を実際に目で見て、体験することで、子どもたちがどのように自然と向き合い、未来を考えていくのか、その一端が垣間見えました。
サツキマスと川・海のつながりを学ぶ
写真右(サツキマス):世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふ提供
子どもたちは世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふを訪れ、長良川に生息するサツキマスについて学びました。この水族館は、分水嶺を模した展示が特徴で、川の源流から海までのつながりを視覚的に理解することができます。サツキマスは川で生まれ、伊勢湾で成長し、再び川へ戻る回遊魚です。その数が減少している背景には、河川環境の変化や外来種の影響、さらには海洋の汚染が影響していることがわかりました。
長良川漁業協同組合の飯田哲夫さんは、子どもたちにサツキマスの見分け方や、その生態について説明。「川と海はつながっており、私たちが川や海を守るためには、ゴミを捨てないことが大切だ」と語りかけました。子どもたちは、サツキマスの銀色に輝く姿に目を輝かせながら、その生態系がいかに脆弱であるかを学びました。
干潟の豊かさと危機を体験
子どもたちは三重県の高松干潟を訪れました。干潟は多くの生物が生息し、自然の豊かさを象徴する「命のゆりかご」として知られています。しかし、現地を訪れた子どもたちは、その豊かな生態系とともに、砂浜に散乱する大量のゴミも目にしました。「高松干潟を守ろう会」の水谷いずみ会長の案内で、生物の観察を行いながら、ゴミが環境に与える影響についても考えさせられる一日となりました。
子どもたちは、カニや貝を見つけては喜び、干潟の生態系がいかに多様であるかを実感しましたが、一方で、ゴミが生物に与える脅威も目の当たりにしました。ペットボトルや缶など、いたるところに散乱するゴミを拾い集める中で、子どもたちは自然を守ることの重要性を改めて感じたようです。
サツキマスのエサとなるイカナゴについて学ぶ
愛知県水産試験場漁業生産研究所で、同研究所海洋資源グループ主任研究員の今泉哲さんと愛知県ぱっち網漁業者組合の磯部治男組合長から、サツキマスのエサであるイカナゴについて学びました。かつては大量に漁獲されていたイカナゴですが、近年はその数が激減し、9年間も禁漁が続いています。イカナゴは冷たい水を好む魚であり、海水温の上昇や他の魚に捕食されることが増えたことが原因で減少しているとされています。
研究者たちは、資源管理の重要性を説き、現在行われているカタクチイワシの漁でも、漁獲量の調整が行われていることを紹介しました。子どもたちは、海洋環境がどのように変化しているのか、その影響を真剣に考えるきっかけを得たようです。漁師の磯部治男さんは、かつてイカナゴが大漁だったころの話をし、海なし県の人たちに取り組んでもらいたいこととして「木を植えて育ててほしい。山の栄養が川を下り、海を豊かにする」と、自然保護の重要性を訴えました。
サップ体験で海を満喫し、学びを集大成
ツアー2日目、子どもたちは愛知県の山海海岸でサップ体験を楽しみました。初めての海でのアクティビティに、子どもたちは最初こそ緊張していましたが、徐々にサップの操作に慣れ、波に乗る楽しさを味わうことができました。海の広がりや自然の力強さを感じるこの体験は、これまで学んできた川と海のつながりを再確認する場となりました。
SURFER’S TOY 代表でインストラクターの河合繁輝さんは「山、川、海はつながっている。人が捨てたごみは自然に消えることはなく海にたまり、魚が食べて死んでしまう」と話し、海の課題も伝えました。
サップ体験を通じて、子どもたちは自然の一部としての自分を実感し、体験後の砂浜でのゴミ拾いでは、環境保護への意識をさらに高めました。
ツアーの最後、子どもたちは岐阜市橋本町の岐阜放送本社で、海洋環境を守るためのCM制作に挑戦しました。これは、ツアーを通じて得た知識や体験を映像として形にする貴重な機会であり、子どもたちの創造力と表現力が試されました。
グループごとに分かれた子どもたちは、どのようなメッセージを伝えるか話し合い、自分たちでナレーションのセリフを考えたり、絵コンテを描いたりして、自分たちの思いを視覚的に表現することに挑戦しました。カメラの前で役割を分担しながら、サツキマスを守るために「川や海をきれいに保つことの大切さ」や「ごみ拾いの重要性」といったメッセージを、一生懸命伝えました。 完成したCMは岐阜放送やバスの車内サイネージ、JR岐阜駅前の大型ビジョンでも放映される予定で、子どもたちにとって自分たちの声が広く伝わることに大きな達成感を感じました。この経験を通じて、彼らは自分たちの学びが社会に影響を与える力を持っていることを実感し、その責任感も強く感じたようです。
イベントを通じて学んだこと、そして未来への一歩
この2日間にわたる体験を通じて、参加した子どもたちは自然環境のつながりを肌で感じ、海洋環境の課題について深く学びました。「サツキマスのような生物が減ることで、他の生態系全体に影響が及ぶ」という認識は、今後の環境保護への意識を高める大きなきっかけとなるでしょう。子どもたちが未来の海を守るために、自分たちにできる行動を考え、実行していくことが、私たち大人にとっても非常に重要なテーマです。
こうした体験学習が子どもたちに与える影響はとても大きいものだと感じました。彼らが自らの手で自然を感じ、守るためのアクションを考える姿勢は、私たち大人にも新たな気づきを与えてくれます。岐阜という「海なし県」であっても、川や山を通じて海とのつながりを学ぶことができる。このような教育が全国に広まり、多くの子どもたちが環境保護への意識を高め、未来の地球を守る力となっていくことでしょう。