『巨人の星』や『あしたのジョー』などで知られる梶原一騎原作マンガは、TVアニメ化や実写映画化された作品が多く、幅広い世代に愛され続けています。その一方、衝撃的なエンディングだった作品が少なくありません。TVアニメと原作マンガで、異なる結末を迎えた『タイガーマスク』のふたつの最終回を検証します。
TVアニメと思えないほど陰惨だった最終回
1981年にはアントニオ猪木選手率いる「新日本プロレス」のリングに、アニメさながらの四次元殺法を繰り出す「タイガーマスク」が現れ、大ブームを巻き起こしました。梶原一騎作品には、現実と虚構(フィクション)が交差する面白さがありました。一方、TVアニメと原作マンガの『タイガーマスク』は、それぞれ異なるフィクションならではの衝撃的な最終回となっていました。
TVアニメ版の最終回「去りゆく虎」は、「虎の穴」のボスである「タイガー・ザ・グレート」との一騎打ちでした。技、力、反則の3つの要素を極めたタイガー・ザ・グレートは圧倒的な強さを誇り、フェアプレーに徹するタイガーマスクは劣勢を強いられます。
タイガー・ザ・グレートの凶器攻撃によって、タイガーマスクの覆面は破れ、伊達直人としての素顔がテレビカメラの前で明かされるのでした。ついに顔バレしてしまい、タイガーマスク、いや伊達直人は泣きながら笑います。そして「虎の穴」で仕込まれた反則技の数々を見舞い、タイガー・ザ・グレートを血祭りにするのでした。夜7時というゴールデンタイムの放送とは思えないほど、陰惨な試合展開となっていきます。
伊達直人はタイガー・ザ・グレートには勝ったものの、「ちびっこハウス」の子供たちがテレビ観戦している前で、反則技を使ったことを恥じ、そのまま海外へと旅立っていきます。「ちびっこハウス」でただひとり、タイガーマスクの正体を知っていた若月ルリ子さんにさえ、ひと言もなく去っていきます。ヒーローものとしては、とても苦い終わり方でした。
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『あしたのジョー』とは対照的な結末
さらに悲劇的だったのは、原作マンガの最終回でした。TVアニメ版と違い、タイガーマスクが最後に闘う相手は、実在のプロレスラーであるドリー・ファンク・ジュニアでした。正統派レスラーとして認められたタイガーマスクは、ドリーが保持していた世界王座への挑戦が叶います。第1戦はドリーの反則行為でタイガーマスクが勝利したものの、反則ではベルトは移動せず、第2戦に命運が掛かることになります。
試合会場に向かう途中、伊達直人はトラックに轢かれそうな男の子に気づき、自分の身を犠牲にして男の子を救います。死の間際、伊達直人は上着のポケットにタイガーマスクの覆面を入れていたことを思い出し、近くのドブ川に覆面を捨て、そこで息が絶えるのでした。ルリ子さんにも正体を伝えないままの、あっけない最期でした。
原作マンガを読んだときは、あまりのバッドエンドに言葉を失ってしまいました。しかし、大人になって改めて読み返してみると、人知れず誰かの役に立ちたいという生き方を主人公が最後まで貫いたことに胸を打たれます。伊達直人にとっては、チャンピオンベルトよりも名前も知らぬ男の子の命のほうが大切だったのです。
同じく梶原一騎原作である『あしたのジョー』の感動的な最終回に比べ、ドブ川のほとりで絶命した『タイガーマスク』は超バッドエンディングに思えますが、伊達直人本人は自分の生き方に悔いはなかったはずです。梶原一騎作品らしさが、『あしたのジョー』以上に感じられる最終回だったのではないでしょうか。