【BTSのJIN効果も】韓国の若い女性にテニスが爆発的人気の理由「カワイイ」「テニススクールはおしゃれなバーやカフェみたい」「ファッションも楽しめる」一方日本は……

雑居ビルの中にテニスコート

日本にも韓国での人気に目をつけ、活動している人物がいる。元プロ選手でもあり、現在はテニスインフルエンサーの宇野真彩さんに話を聞いた。

「韓国のスポーツショップに行くと、こんなに可愛いウェアやアクセサリーがいっぱいあるんですよ!」

そう言うと身を乗り出し、宇野さんはスマホ内の写真を次々にスクロールした。映し出されるのは、パステルカラーのポロシャツや、ギンガムチェックのスコートなどをまとったマネキンたち。ショップのディスプレイもテニスコートがコンセプトで、韓国でのテニス人気の高さが一目で伺えた。

9歳の頃にテニスに出合い、18歳から国内ツアーを転戦するも20歳で引退した宇野さんは、「自分にしかできないテニスの普及活動」をすべく、2018年に『テニス女子サークル』を立ち上げた。「テニスをオシャレに楽しく」をコンセプトに活動している。

そのような活動に取り組むなかで耳にしたのが、「韓国でテニス人気が高まっている」との情報。そこで3年前に実際に韓国を訪れ、衝撃を受けたという。

「韓国では、雑居ビルの中にもテニススクールがありました。それも、カラフルなネオンや照明があって、おしゃれなバーやカフェみたいなんです。インストラクターたちも、男性も女性も美容師さんみたいにスタイリッシュ。

わたしが日本で見てきたテニススクールでは、女性は日焼けを気にしてロングスリーブにレギンスが多いし、夜は会社帰りの男性が中心。テニスコートに若い人が少ないのに、韓国のテニスコートには若くてオシャレな女の子たちがたくさん居るんです。『これは何でだろう⁉』と驚いたし、日本でもこういう写真をインスタに投稿したら、そういうのが好きな子がいっぱい集まるんじゃないかなと思ったんです」(宇野真彩さん)

その後も韓国に足を運ぶたび、宇野さんはテニス人気の高まりを感じてきたという。

「現地でテニスをしていく中で、どんどん人脈が広がっていったんです。その中には、元プロ選手や有名な俳優さんもいました。

新しく雑居ビルにスクールをオープンした人にも会ったのですが、オーナーは私と同じくらいの年齢の子なんです。テニスコートは半面で、ゴルフの打ちっぱなしのような感じ。基本はマンツーマンレッスンで、きれいなフォームで打てるようになりたい人たちが来るので、そんなに広いスペースは必要ないんです」(宇野真彩さん)

この方式ならスクールのオープン資金も安く済むし、レッスンを受けるほうにしても、気軽に通うことができる。日焼けも人目も気にせずに、好きなファッションで伸び伸びとボールが打てるのも利点。そんな好循環が巡りに巡り、韓国ではテニスブームが生まれているようなのだ。

(広告の後にも続きます)

BTSとSNS 

では何がきっかけで、テニス人気に火がついたのか?

理由はいくつかあるが、一つは、著名人にテニス好きがいたことが大きいようだ。特に世界的人気アイドルグループBTSのメンバーで、パリ・オリンピックの聖火ランナーもつとめたJINのテニス好きは有名。

彼が、ルイヴィトンのスポーツウェアを着てテニスする姿をSNSにあげたことなども、若い女性の間で話題になった。

この例にも見られるように、若者間での人気上昇にファッションが果たした役割は大きい。本社が韓国にあるFILAは、次々に女性向けのテニスラインをリリース。ヨネックスの韓国代理店は、本社とは異なるデザイナーと契約し、韓国限定のウェアやアイテムを販売している。

加えてコロナ禍が追い風になる。テニスは壁打ちなら一人でできるし、ソーシャルディスタンスを維持して試合もできるからだ。

さらには、テニスに先んじて人気を博したゴルフのプレイ料金が、物価高によりあまりに高騰したために(韓国では週末のラウンドは4~5万円かかるそう)、若い人たちがテニスに流れてきたともいわれている。テニスなら遠出の必要もないし、ゴルフに比べれば用具代も安く済む。

それら一連の人気拡散の一翼を担うのが、韓国のSNSカルチャー。昨年まで韓国のトッププロであるパク・ソヒョンのツアーコーチを勤めていた西岡靖雄氏は、「韓国の選手は見られることへの意識が高い」と証言する。

「SNSにあげる写真も、表情やポージング、構図にも拘っています。コートに行っても、練習前にまずは写真撮影タイム。僕が撮っても何度もダメ出しされました」と、西岡氏は苦笑した。

2010年代後半からドラマや音楽、ファッション、コスメなど韓国発信のブームは日本に到来してきた。特に若い女性たちがそれらに惹きつけられてきたことはもはや語るまでもないだろう。

「テニスといえば、かわいい、おしゃれ、そして楽しい!」というイメージが日本に輸入される日もそう遠くないかもしれない。そしてその先にきっと、老若男女問わず楽しめる、テニス本来の姿の実現がある。

取材・文/内田暁