攻守の重要局面となる「バイタルエリア」で輝く選手たちのサッカー観に迫る連載インタビューシリーズ「バイタルエリアの仕事人」。第43回は、東京ヴェルディのMF森田晃樹だ。
前編では、昨季のJ1昇格やヴェルディのアカデミー時代について、クラブへの想いを語ってもらった。後編となる本稿ではまず、バイタルエリアを攻略するうえで意識していることや自身の武器を訊いた。
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試合前の準備の段階では、自然体でいることに努めています。もちろん戦う気持ちを持つのは当たり前なのですが、ゲームに集中するためにキックオフの笛が鳴るまでは、ぎりぎりまで、とにかくリラックスした状態でいるようにしています。短い時間ですが、湯船に浸かって何も考えない時間を取ったりもしています。
試合中、自分がボールを持っていない時には、常に状況に応じた最適解を出せるようにといろんなことを考えています。今は自分がボールを受けに行くべきだと思った時には、ピックアップするために動きますし、繋ぐのにリスクがある時は相手の背後に走ったり、ロングボールに対してセカンドボールを拾う意識を持っています。
逆にボールを持った時は、ほとんど何も考えていなくて、感覚でプレーしているかもしれません。でもバイタルエリアに入った時は、よりチャンスが増えるのでシュートの意識は上がっています。
僕みたいなタイプの選手は、自分の武器を訊かれた時にぱっと出てこないんですよね。スピードや高さがある選手はすぐ答えられるかもしれないですが、そういうのがないのでいつも悩みます。明確に言葉にするのが難しいですが、一つ言えるとすれば、全てのプレーを高いレベルでこなせるのは長所かもしれないです。
あとトップチームに上がってからは考え方が少し変わりました。プロになって気づくことはたくさんあって、フィジカルも大事なんだなと。身体の動かし方や怪我をしないような身体作りも学ばなければいけない。プロ1年目の時は今よりも全然細かったですが、フィジカルの面でもより成長できています。
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森田は華麗なテクニックや類まれなサッカーセンスで見る人を魅了するプレースタイルから、たびたび“天才”と称される。
スピードやフィジカルが重視される現代サッカーにおいて、ファンタジスタは減少傾向にあるなか、思い描く理想の選手像とはーー。
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ユース時代にトップチームで天皇杯に出場した時に「天才 森田晃樹」という横断幕を掲げてくれていて、そこからそんな感じで呼んでいただくことはありますが、“天才”というのは少し恥ずかしいです。(笑)でも自分にキャッチフレーズのようなものがあるのは嬉しいですし、自信にもなります。
もちろん現代サッカーには遅れを取りたくないですが、自分のアイデンティティであるテクニックを駆使したプレーも貫いていきたいです。フィジカルやスピードも併せ持ったハイブリッドのような選手が理想です。
サッカーの魅力の一つでもあるエンタテインメントの部分は大事にしています。実際に僕も、ロナウジーニョのようなわくわくするプレーに魅了されてきたので、その要素は忘れたくない。毎回そんなプレーをするわけではなくて、何気ないトラップやパス、ドリブルの中で上手く取り入れていきたいですね。そうすると、見ている方に楽しいと感じてもらえるのかなと思います。
それで言うと(アンドレス・)イニエスタのプレーも参考にしています。難しいことをさりげなく、簡単にできるのは彼の凄さですよね。イニエスタがいた頃のバルセロナの試合は見ることが多いです。
また、先日のブライトンとの試合でも、ボールを大事にするサッカーをする中での状況判断や、ポジショニング、パスの質はとてもレベルが高かったので、刺激を受けました。
これまで対戦して選手で一番凄かったのは香川真司選手です。ベテランと言われる年齢だと思うのですが、動けるし、走れる。ボールの置き所も絶妙で、うかつに飛び込めない雰囲気がめちゃくちゃありました。チームが上手くいってない時にプレーの判断やポジショニングを変えられる対応力もすごかったです。
最後には今後の目標や日本代表への想いを語ってもらった。また、プライベートの過ごし方も訊くと、ルーキー時代からの変化が垣間見えた。
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まずチームとしては、J1残留を目標にしながら、できるだけ高い順位でシーズンを終えることです。個人としては、今は怪我明けなので、早くトップフォームに戻して、とにかく試合に出ること。あとは得点のところです。ある程度、その他のプレーでは手応えを掴めていて、アシストもいくつかできているので、より結果を意識したいです。数字を残さないと選手としての価値は上がっていかないかなと思います。
Jリーグで実績を積みながらにはなりますが、将来的には海外でプレーすることも視野に入れたいです。自分はバルセロナを見て育っているので、スペインでプレーできたらいいなと思っています。今の日本代表を見ても、レベルが上がってきていて、海外組の方が招集されている人数は多いですし、それを考えても挑戦したいです。
代表への気持ちはずっと持っていますが、現実的に自分を客観視した時に、これまでは実績も実力もまだまだ足りないので、その立場にないと感じていました。ただJ1に上がってきて、今後、着実にステップアップしていくなかで可能性はあると思っています。
中村敬斗選手や菅原由勢選手など同世代の選手たちも海外に行って、代表に入っているのも刺激になります。
オフの日は、極力サッカーからは離れています。基本はインドアなので、漫画やゲームは好きですが、キャンプもそうですし、服も好きなので、買い物にも行ったりします。
プロになって1年目の頃は、あえて高価なものを買って自分にプレッシャーをかけるようなことをしていましたが、今はそのマインドはありません(笑)。別の方法で自分に発破をかけられるようになっていて、家族やファン・サポーターなど周りの人たちからの言葉をモチベーションにできています。
※このシリーズ了
取材・構成●中川翼(サッカーダイジェストWeb編集部)
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