9月1日、横浜ビー・コルセアーズは、フランス人パワーフォワード(PF)のダミアン・イングリスとの契約を発表した。
203cm、109kgの立派な体躯を誇るイングリスは、フランスの海外県である仏領ギアナの生まれ。幼少期はサッカーに夢中だったが、バスケットボールで頭角を現すと、トニー・パーカーやロニー・トゥリアフら、数々のスター選手を世に送り出したフランスのエリート養成所、INSEPへ入所する。
家族と離れてのフランス本土での暮らしは精神的にもタフだったと、当時のインタビューで語っているが、INSEPではチームの主力として活躍。国内のプロクラブからの引き抜き合戦ののち、18歳の誕生日を迎えた2週間後に国内のトップリーグにいたロアンヌとプロ契約を結んだ。
その頃からNBAスカウトも注目する存在となり、2014年4月にポートランドで行われたNIKEフープサミットに参加後、NBAドラフトへのエントリーを発表する。
アンドリュー・ウィギンズやジョエル・エンビード、ニコラ・ヨキッチらを輩出した14年のドラフトで、イングリスは2巡目31位でミルウォーキー・バックスから指名を受け、NBA入りを実現させた。
ただ、不運だったのは、ドラフト前に参加したオクラホマシティでのワークアウト中に足首を負傷してしまったこと。バックスとは3年契約を勝ち取ったものの、プレシーズンのトレーニングには不参加で開幕にも間に合わず。その後も思うように回復が進まないことから手術に踏み切り、ルーキーイヤーは全休した。
翌シーズンの開幕戦で晴れてNBAデビューを飾り、当時3年目のヤニス・アデトクンボとも共闘したが、出場機会は限定的でローテーション入りは叶わず。20試合で平均1.8点、1.6リバウンド、0.5アシストに終わると、オフに解雇。16年10月にニューヨーク・ニックスに拾われるも、開幕前に放出された。
しかし、17-18シーズンにヨーロッパに戻ってから、彼のキャリアは好転する。
自国フランスとスペインの複数の球団でプレーする中で、21年にASモナコ、23年にはグラン・カナリアでユーロカップ(ユーロリーグのアンダーカテゴリー)優勝を経験。
昨季はスペインのバレンシアでユーロリーグにも参戦し、主力メンバーとしてコンスタントに2桁得点をマーク。18節のアナドルー・エフェス戦では、14得点、10リバウンドとダブルダブルを記録したのをはじめ、32試合で平均8.2点、4.7リバウンド、1.7アシストを残した。
U-16時代から招集されているフランス代表でも、昨年のワールドカップ予選を皮切りにA代表に招集され、今年2月にも来年のユーロバスケットの欧州予選に参戦するなど、地位を固めつつある。
彼のキャリアは、まさに尻上がり状態にある。今季から横浜BCを率いるフィンランド人指揮官のラッシ・トゥオビは、イングリスがフランスのストラスブールに在籍していた時代にアシスタントコーチを務めていた。
トゥオビHC(ヘッドコーチ)はフランスメディアに対し、「彼は我々が求めていたすべての要素のリストにチェックが入る選手だった。ハイレベルな戦いも知っているし、行く先々のクラブに順応でき、優れたゲーム頭脳を持っている。経験豊富な彼にはリーダー的な役割も期待している」と語っている。
イングリスは、強靭な体躯を生かしたゴール下でのパワープレーだけでなく、ミドルジャンパー、リバウンドにアシストと、オールラウンドなプレーを得意とする。トゥオビHCとは、昨年のユーロリーグの試合で偶然再会したそうで、そこから話が進んだ模様だ。
「彼が承諾してくれて本当に嬉しく思う。ただ、日本に来るよう説得する必要はまったくなかったよ。ここでの状況を話し、彼がいかに戦力となれるかを説明しただけで、快諾してくれたんだ。そもそも、日本のリーグが活気づいていることは今では誰もが知るところだからね」(トゥオビHC)
彼の発言にあるように、ヨーロッパの選手たちにとってBリーグの人気が急上昇中であるというのは、欧州でもたびたび話題になっている。
29歳のフランス代表PFの爆発を、横浜BCのブースターだけでなく、日本のバスケファンも楽しみにしていることだろう。
文●小川由紀子
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