クラブNXT(クラブ・ブルージュのリザーブチーム)が初めてベルギー2部リーグに挑戦した2020−21シーズン、彼らは8チーム中最下位に終わった。
一方で、彼らが得たものはとてつもなく大きかった。トップチームにGKミニョレが君臨するなか、若手GKラメンス(当時18歳/現アントワープ)とシントン(当時20歳/現ベールスホット)は互いにライバルとして高め合いながら、前者は13試合、後者は15試合に出場した。
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何と言っても出世頭はマキシム・デ・カウパーだろう。サイドバック、MF、ウイングとして左サイドを任されていた当時の19歳は22-23シーズンから2年間、ウェステルローに貸し出されたことで成長に拍車がかかり、テデスコ監督に見初められてベルギー代表デビュー。現在はクラブ・ブルージュの主力として左SBで活躍している。
試験的な意味合いを含んだクラブNXTの2部リーグ参入は、若手選手たちに貴重な成長を与える場として注目された。こうしてベルギーの上位クラブはこぞってリザーブチームが2部リーグで戦うことを希望するようになり、今季はクラブNXT、RSCAフューチャーズ(アンデルレヒト)、ヨング・ヘンクの3チームが2部リーグ(16チームで構成)で凌ぎを削っている。
リザーブチームはU-23のカテゴリーに相当するが、実際は20歳以下の選手で構成されることが多い。そんなティーンエイジャーたちにとって、ベルギー2部リーグはカテゴリーが2つ、3つ違うもの。試合中、フィジカルで圧倒されて消耗しながら、知恵と技術で対抗していくうちに彼らもまた、プロで通用するフィジカルを身に着けていく。「トップクラブにとって、リザーブリームの2部リーグ参戦は得することばかりで損はない」とベルギーで言われている。
今年1月、ジュビロ磐田からアンデルレヒトに1年間の期限付きで移籍した後藤啓介(19歳)はRSCAフューチャーズの一員としてベルギー2部リーグで戦っている。1月13日のベールスホット戦(1-1)ではPKでデビューゴールを決めた。その後、しばらくゴールから遠ざかった後藤だったが、2月25日のデンダー戦(2-1)で再びPKでゴールを決めると波に乗り、7試合で5得点という固め取りを披露した。
3月17日のロンメル戦(1-3)で右からのクロスを、同31日のフランクス・ボラン戦(3-3)では左からのクロスを豪快にヘッドで合わせてゴールネットを揺らし、4月13日のリールセ戦(1-1)ではCBからのロングパスを軽やかにジャンプしながら右足でトラップし、左足のロビングでゴラッソを決めた。
ベルギー2部リーグでのタフな戦いのなかで揉まれていくうちに、どんどん得点感覚を研ぎ澄ませていった192cmの長身ストライカーは、半年で6ゴール・1アシストの数字を残した。これはスコットランド人CFロビー・ウレ(20歳)の5ゴールを上回る、チーム最多ゴールだ。
後藤は8月31日、第3節の対ラ・ルビエール戦(1-2)で今季初ゴールを決めた。10分、最後尾から左サイドに展開したRSCAフューチャーズはガシムー・シラ(16歳)がGKと1対1になりシュート。このこぼれ球を後藤が左足でゴール右隅に先制弾を蹴り込んだ。
シラは開幕から2戦連続途中出場で2ゴールを決めている伸び盛り。ラ・ルビエール戦では初めて先発しトップ下を務めた。
「ラ・ルビエールの5枚(DF)と3枚(MF)に対し、“57番(シラの背番号)”と俺が2人で走ったり、俺がタイミングを見て(中盤に)落ちたりする(練習)を今週、ずっとやってました。(ゴールシーンは)俺が落ちて彼が前に走ってごちゃごちゃって(混戦に)なってくれて、いいところにボールが来ました。あとは流し込むだけでしたね。プラン通りの(ゴール)と言えばプラン通りでした」(ラ・ルビエール戦後の後藤)
RSCAフューチャーズは前半の試合をコントロール。後藤も調子が良く、相手のDFラインの背後を突いた走り込みからパスを引き出してゴールに迫ったり、中盤のスペースに落ちてから味方を使ったり、いいリズムでプレーしていた。とりわけCBアマンド・ラパージ(19歳)は後藤のフリーランニングをよく見ており、息の合った縦パスを供給していた。
「昨季の試合(リールセ戦)で、俺が後ろから来たボールを止めて浮かしてゴールを決めたときも、彼がパスを出してくれたんです。彼は常に俺を見てくれているので動き出しはしやすい。彼は本当にやりやすいですね」
前半の後藤を止めることができなかったラ・ルビエールのCBの姿は後半のピッチになかった。しかし後半、全員10代のリザーブチームと、経験豊富なプロ選手の集団の違いが顕になる。セットプレーの精度とフィジカルの差は埋めようがなく、徐々にRSCAフューチャーズは疲弊し押し込まれていく。終わってみれば1-2で敗れ去った。ラ・ルビエールは勝点7でデインズ、RWDMと首位集団を構成。RSCAフューチャーズはセラン、ロケレンと共に勝点ゼロのままだ。
「(前半のように)プランAでできても、プランB、プランCを持ってないから(後半のように)ああなっちゃう」
RSCAフューチャーズで2季目とはいえ、後藤自身はベルギーに来てまだ8か月だ。
「最初はスピード感とフィジカル、サッカーの違いに慣れるのが難しく、最初のPKを決めてからゴールが1か月空いちゃいましたけど、今はスピード感といいフィジカルといい、慣れてきました。いかに早くトップチームに入ってそのレベルでやっていけるか、そこが次の課題ですね」
半年で6ゴール・1アシストという数字に手応えを掴んだのでは?
「そうですね。手応えしかないです。今日も“73番(ラパージ)”のクリアボールから前に運んで斜めにスルーパスを出せた。日本だと『味方が上がるのを待て』と言われるんですが、こっちでは『行け! 縦に行け!』って言われるんです。それに慣れてきた証拠かなと思います」
後藤が中盤に降りてパスを受け、前にポジションを取る味方に縦パスを入れ、自らスプリントで敵ゴール前に迫るシーンが幾度もあった。逆も然り。後半、ラ・ルビエールが左サイドを執拗に攻め、最後はバイタルエリアから仕留めようとした。「あ、危ない!」と思ったそのとき、いつの間にか後藤が帰陣して相手のシュートをスライディングでブロックした。
「ディフェンスするのにポジションは関係ないですから。失点しないことが大事」
今季の目標は?
「結果を残し続けないとトップチームに上がれないんで、チャレンジャーリーグ(ベルギー2部リーグのこと)で2桁ゴールを取りたい。あと5アシスト。『2桁・2桁』がベストですけれど」
開幕節(デインズ戦/1-4)では慣れない右ウイングを任されてやり辛さを感じたものの、CFに戻った第2節のペトロ・アイスデン戦(1-3)では「プレー自体は完璧で、あとは決めるだけだった」という出来だった。そしてラ・ルビエール戦で待望の今季初ゴール。長いリーチを活かし、身体より遠いところにあるボールをピタリと止めてから、次のモーションに移るプレーはしなやかで美しい。
シュート、チャンスメイク、ゲームメイクと三拍子揃う長身ストライカーの後藤は、成熟したプロチーム相手にたくましく戦いながら、個のチカラを伸ばしている。
取材・文●中田 徹
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