“欠けている“ということは“ある”ということ
浅井はなかなか試合が決まらなかったこと、体が小さく適正階級がなかったことなどを踏まえ、2023年にK-1からプロボクシングに転向した。現在3戦3勝で新人王トーナメントを勝ち進んでいる。
とはいえ、那須川天心や武居由樹のようなキックボクシング界の大物選手が鳴り物入りでプロボクシングに転向したわけではない。「トーナメントの下馬評では他に優勝候補が何人もいて、自分は大穴とみられています」と笑う。
ただ、デビュー戦の勝利者インタビューで、浅井は堂々と決意を語っている。
「同じような障害を持つ人たちに、勇気を与えられる存在になりたいと話しました。同じ障害を持つ人が、嫌なことを言われたり、落ち込んだりしている話は時々耳にするんで。それに、自分は別に障害といってもそんな大きな障害でもないですし。
これはお父さんに言われたことでもあるんですけど、身体的なものや精神的なこととか、程度の差はあっても、誰かしら何か一つは完璧じゃないところがあるじゃないですか。だから、自分だけが特別じゃないし、誰だって乗り越えられるってことをみんなに訴えていければいいなって思ってます」
そう話す表情には曇りがない。だからこそ、自分の障害を憎んだことはないか、つい意地悪な質問をしてしまった。
「憎んだことっていうのは、ないですねえ……。それに、体の一部が“欠けている”っていうのは、他の人にはない個性が“ある”っていうことですから。どんどん自分の個性だと思って、自分にこの障害があることも知ってほしい」
そう言って、自分の手の先を見つめる。
取材・撮影・文/田中雅大