自民党総裁選のポスターを見て愕然とした。目立つ位置に田中角栄と安倍晋三の写真が使われている。田中は金権政治の代名詞。安倍は政治資金パーティー問題の火元となった派閥の領袖。こんな写真を恥ずかしげもなく使うとは、呆れて物がいえない。そもそも岸田文雄が退任に追い込まれた理由は裏金問題を解決できないからではないか。自民党には反省も改善する気もまったくないことがよくわかる。
今般の政治とカネの問題に火をつけ、岸田文雄を退陣に追い込んだのが、法学者の上脇博之神戸学院大学教授である。自民党の5派閥が政治資金パーティーの収入を過小報告しているとして東京地検に告発したのが幕開けであった。本書は、なぜ政治とカネの問題が起きるのかを、上脇教授がわかりやすく解説している。
政治家のカネの出入りは政治資金規正法によって透明化されているはず。ところが、この法律はとんだザル法で、いろいろと抜け道がある。例えば、収支の流れの公開などが義務づけられているのは政治家個人ではなく政治団体であること。政治団体もいろいろ。政党、政治資金団体、資金管理団体、国会議員関係政治団体、その他いろいろあって、政治団体によって求められる透明度が違う。この透明度の違いを悪用しながら、政治団体と政治家の間でカネを動かすというのがカラクリだ。
典型が政治資金パーティー。パーティー券購入は寄付ではないので企業も購入できるし、年間限度額もない。しかも透明度の緩い「その他の政治団体」が開催すれば問題が発覚しにくい。そのパーティーもコストを下げれば利益率が上がる。つまり、名目はパーティーだが、実質は寄付集めというのが政治資金パーティーなのである。
なぜ企業はそんなパー券を買うのか。買わないと不利益をこうむるかもしれないと怖れるからだ。その政治家の思想や政策に共鳴していなくても「パー券を断ったら、次の工事の入札で落とされるかもしれない」という恐怖心がパー券を買わせる。まるでヤクザのみかじめ料だ。
政治家にとって政治資金パーティーは美味しくてやめられない。企業にとっても、パー券購入ならカネを出したことが世間にバレなくていい。そんな感じなのだろう。
なぜこんなことになったのか。源流は90年代の政治改革にある。リクルート事件や佐川急便事件で政治とカネの問題が指摘され、93年に誕生したのが非自民・非共産8党派連立の細川政権だった。この時、政治資金規正法を厳しく改正すればよかったのに、いつのまにか話は選挙制度の問題にすり替えられ、衆議院に小選挙区制が導入、政党には政党助成金が交付されることになった。政治家どもは疑獄事件でかえって焼け太りしたのである。
こんどの総裁選、そしてその後に予想される総選挙では、政治家一人一人の裏金問題に対する姿勢をよーく観察しよう。
永江朗(ながえ・あきら):書評家・コラムニスト 58年、北海道生まれ。洋書輸入販売会社に勤務したのち、「宝島」などの編集者・ライターを経て93年よりライターに専念。「ダ・ヴィンチ」をはじめ、多くのメディアで連載中。