フランスに3ー1逆転勝利のイタリア代表、醜態のEUROから復調した理由は「チームモデルを22ー23のナポリから、23ー24のインテルに切り替えた」【現地発コラム】

 一度も説得力のある試合を見せられないまま、ラウンド・オブ16でスイスに手も足も出ない完敗を喫してEURO2024の舞台を去ってから2か月。UEFAネーションズリーグの初戦で強豪フランスと対戦したイタリアが、見違えるような戦いぶりを見せた。敵地パルク・デ・プランスで3ー1の逆転勝利を挙げ、復活を力強くアピールした。

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 試合開始からわずか14秒で、3CBの右に入ったジョバンニ・ディ・ロレンツォの緩慢なプレーからボールを奪われ、ブラッドレー・バルコラに先制ゴールを叩き込まれた時には、初戦の開始23秒にまったく同じような失点を喫して始まったEURO2024の悪夢が蘇ったかのようにも思われた。しかも今度の相手は格下のアルバニアではなく強豪フランスである。
 
 しかしイタリアは、そのアルバニア戦でもそうだったように、ショックを引きずることなく態勢を立て直した。30分にサンドロ・トナーリとのワンツーで裏に抜け出した左WBフェデリコ・ディマルコが芸術的なボレーシュートを叩き込んで同点に追いつくと、後半開始間もない51分に、敵陣でボールを奪ってのショートカウンターから、CFマテオ・レテギのクロスをダビデ・フラッテージが決めて逆転に成功。さらに74分には途中出場のジャコモ・ラスパドーリが駄目押しの3点目をねじ込んで試合を決定づけた。

 フランス戦はイタリアにとって、EUROでの不甲斐ない早期敗退で結束と自信を失ったチームを立て直し、2年後の北米W杯に向けて正しい軌道に乗せるうえで、そして何よりも大きな失望を味わったイタリア国民の支持と信頼を取り戻すうえで、きわめて重要な一戦だった。
  それを誰よりもよく知るルチャーノ・スパレッティ監督は、このネーションズリーグに臨むに当たって、EUROの反省を踏まえた大きな方針転換に踏み切った。それが、3バックへのシステム固定による戦術の簡素化である。

 スパレッティは就任からEUROまでの1年間を通して、22ー23シーズンのナポリにスクデットをもたらした守備時は4バック、攻撃時は3バックの可変システムの導入を目論んできた。しかし、現在のセリエAでは主流とは言えないうえに、可変のメカニズムやポジションバランスなどの面で難易度が高く、浸透・定着に時間を要するこの戦術を、年に数回の招集機会しかない代表に適用するのは簡単ではなかった。
 
 EUROでの不甲斐ない戦いぶりを前にして、それを改めて痛感したであろう指揮官が下したのが、インテル、アタランタをはじめ昨シーズンまでのユベントスやローマなど多くのチームが採用し、多くの選手にとって馴染みがある3バックを基本に据える決断だった。
 
 最も簡単な言い方をすれば、イタリア代表のモデルを22ー23シーズンのナポリから、23ー24シーズンのインテルに切り替えた、ということになるだろうか。すでにEUROの期間中に、チームの内部でそれを望む声が出ていたという報道があったことを考えれば、この決断を多くの選手がポジティブに受け入れた可能性は高い。何よりもこのフランス戦の戦いぶりは、それをはっきりと表わすものだった。
  イタリアのスタメン11人(3ー5ー1ー1)は以下のような構成だった。

GK:ジャンルイジ・ドンナルンマ(パリSG)
DF:ディ・ロレンツォ(ナポリ)、アレッサンドロ・バストーニ(インテル)、リッカルド・カラフィオーリ(アーセナル)
MF:アンドレア・カンビアーゾ(ユベントス)、フラッテージ(インテル)、サムエレ・リッチ(トリノ)、トナーリ(ニューカッスル)、ディマルコ(インテル)
トップ下:ロレンツォ・ペッレグリーニ(ローマ)
CF:レテギ(アタランタ)

 ほぼ全員がクラブチームで慣れ親しんでいる(少なくとも十分な経験のある)ポジションで起用されており、その意味でEUROでの選手起用と比べてより適材適所。それもあって個々のプレーヤー、そしてチームとしての振る舞いはより「自然」で、かつ自信に満ちたものだった。そこは、戸惑いや混乱が明らかに見て取れたEURO(とりわけスイス戦)とは明らかに違っていた。

 戦術的には、システムだけでなく攻守のメカニズムという観点からも、インテルとの共通点が少なくない。最も特徴的だったのは、ビルドアップの流れの中で左CBのカラフィオーリが中盤にポジションを上げてMF的に振る舞い、入れ替わりにアンカーのリッチが最終ラインに落ちる「縦のポジションチェンジ」、そして左右のウイングバックが1レーン内側に入り、インサイドハーフが大外レーンに開く「横のポジションチェンジ」が頻繁に見られたこと。

 この流動的なポジションチェンジによって相手に守備の基準点を与えず、マークを逃れてフリーで前を向いた選手からの大きなサイドチェンジで局面を一気に前に進め、外からのコンビネーションやクロスで決定機を作り出すというのが、この試合でイタリアが見せた攻撃のメカニズムだった。
  6分に初めて作り出したビッグチャンス(フラッテージのヘディングシュートがクロスバーに嫌われ、そのこぼれ球に合わせたレテギのヘディングは枠を外す)に始まり、30分にディマルコが決めた同点ゴール、そして74分の3点目と、明確な決定機はいずれもサイドチェンジが起点となって生まれたもの。そのいずれにも、大外からゴール前に入ってきたウイングバック(カンビアーゾ、ディマルコ)が絡んでいるところも含めて、いい意味で「インテル風味」の強いサッカーになったと言うことができる。

 個に焦点を当てれば、中盤に進出する頻度が大きく高まるなどますます攻撃への貢献度を高めているカラフィオーリ、これが代表初スタメンながらそのカラフィオーリと絶妙な連携を見せてゲームメーカーの役割を担ったリッチ、違法賭博による長期の出場停止明けにもかかわらず90分を通して攻守両局面で獅子奮迅の活躍を見せたトナーリ、そしてすでに言及した両ウイングバックのパフォーマンスがとりわけ際立っていた。とはいえピッチに立ったほぼ全員が本来の持ち味を発揮しており、及第点を下回った選手はいなかったと言っていい。これは「適材適所」がもたらした大きな成果と言えるだろう。
 
 まだ最初の1試合に過ぎないが、EUROであれだけ酷い戦いぶりしか見せられなかったチームが、フランスを相手に敵地でこれだけのパフォーマンスを見せたうえで結果を残したこと、そして何よりチームとしての自然な振る舞いを取り戻し、明確なアイデンティティーの確立に向けたポジティブな一歩を踏み出したことは、大いに喜ぶべきだろう。
 
 フランスに加えてベルギー、イスラエルと同居しているこのネーションズリーグでは、リーグA各グループの上位2チームにW杯予選で第1シード(ポット1)が保証される。2大会連続で出場権を逃しているイタリアにとっては、その意味でも非常に重要な戦いだ。政治的な理由から中立地のブダペストで行なわれる次のイスラエル戦でも、しっかり勝点3を確保したい。

文●片野道郎

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