スーパー戦隊シリーズは、時代のトレンドをうまく取り入れて、子供たちに愛され続け2025年で50周年を迎えます。その50作近い作品のなかには、現在では使えないであろう設定がいくつもありました。



「スーパー戦隊 Official Mook 20世紀 1990 地球戦隊ファイブマン」(講談社)

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子供が受け入れ拒否? 5人が全員教師の「地球戦隊ファイブマン」

 2025年に誕生50周年を迎えるスーパー戦隊シリーズが長く愛され続けているのは、時代を経ても変わらない定番の流れを繰り返すことや、時代の潮流を読み取って流行りものをいち早く取り入れてきた、「伝統と革新」にあるといえるでしょう。

 そのなかでも、失敗を怖れずに挑戦した設定や流行を取り入れたために、今では使われなくなってしまった設定もあります。

 たとえば1990年から放送された『地球戦隊ファイブマン』は、5人全員が小学校の教師という設定でした。前作『高速戦隊ターボレンジャー』が全員高校生という設定だったので、その逆張りを狙ったと考えられます。

 当時、同時代に田原俊彦さん主演で大ヒットした『教師びんびん物語』の影響もあったのでしょう。しかし、視聴者の反応はあまり良くなかったようです。未就学児童が多い視聴者にとって、学校の先生は近くにいながら遠い存在なのかもしれません。

 東映プロデューサー鈴木武幸氏の著書『夢を追い続ける男』(講談社)によると、『ファイブマン』は「おそらくスーパー戦隊シリーズ中、もっとも厳しい状況に陥っていた」といいます。

 シリーズは『ターボレンジャー』から放送曜日と時間帯を変更したため、もともと視聴率が下降傾向にありました。『ファイブマン』の場合、てこ入れを行った施策がことごとく裏目に出たようです。教師の設定の評判が良くなかったのは、その後のシリーズに教師のメンバーが一切出てこないことが物語っています。

 逆に『ターボレンジャー』の高校生設定は、その後1997年『電磁戦隊メガレンジャー』に引き継がれ、一部のメンバーが高校生という設定が使われるようになりました。

 ちなみに『ファイブマン』は強力な敵キャラ「シュバリエ」の登場が話題となり、視聴率をV字回復させ、戦隊シリーズ終了の危機は免れます。

 また『ファイブマン』にはもうひとつ重要な設定がありました。それはメンバー全員が「兄弟(妹)」であることで、兄弟設定は1999年『救急戦隊ゴーゴーファイブ』、2005年『魔法戦隊マジレンジャー』に引き継がれています。

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潜在能力は無限大? 超能力やオーラの力が過剰に信じられていた時代

 また、80年代前半の戦隊シリーズでは1983年『科学戦隊ダイナマン』、1984年『超電子バイオマン』に象徴されるように、「科学万能主義」をベースに戦隊の設定が行われていました。現在よりも科学技術の可能性に、期待が持たれていた時代だったのです。

  しかし、80年代後半になると科学万能説に疑問が持たれるようになったのか、人間の内なる可能性に関心が集まり、ヨガや気功が流行します。雑誌「ムー」などで展開された超能力、怪奇現象、超科学が話題となり、「潜在能力を開発すれば、人間はどんなことも可能になる」と、過剰にヨガや瞑想の効果を煽るような風潮がありました。

 そのような時代を反映したのが、1987年『光戦隊マスクマン』でした。彼らは、人間に秘められた潜在能力「オーラパワー」を開発し、パワーアップしていきます。番組は長官の「姿三十郎」が、座禅をして空中浮遊している姿から始まりました。

 また、1993年『五星戦隊ダイレンジャー』では、中国拳法を題材にしており、ダイレンジャーたちは大自然の力「気力」によって転身します。気を体内に養えば、病気を治癒できたり、大きな岩を砕くような力を得たりと、「気の力」を過剰に強調していました。

 その後、1995年「地下鉄サリン事件」や、1999年「法輪功事件」など、ヨガや気功を宗教と結びつける団体が起こした犯罪によって、気功、ヨガブームは急速に終焉します。その後、スーパー戦隊の力のベースとなるパワーはあくまでも架空のエネルギーで、現実とは結びつかない設定になりました。

 そして、さらに特殊でその後見られない設定があったのが、1979年から放送された『バトルフィーバーJ』です。本作には、各国の「ダンス」の要素が取り入れられていました。タイトルに「フィーバー」の名がつく通り、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』が日本でも1978年に公開され、世は空前のディスコブームでした。また「フィーバー」という言葉がひとり歩きして、流行語にもなっています。

 ただ、作中では、メンバーが各々名乗りをあげるときのポーズにダンスの要素があったものの、バトルには特にダンスは取り入れられていません。実は企画段階では、ダンスの動きが闘いやアクションの源という、もっとダンスとバトルが融合した作品になる予定だったようです。

番組プロデューサー平山亨氏の著書『泣き虫プロデューサーの遺言状』(講談社)によると、当初、東映テレビ事業部部長だった渡邊亮徳氏は、戦隊メンバーがそれぞれの国のダンスを踊って出てきて、ダンスがアクションの源になることに納得していました。

 しかし、その後について同書では、「初号試写の時、亮徳さんが『踊りってのは何ごとだ。そんな軟弱なもの』と怒りだした。『ダンスの名手ってのは強いんだ』と説明したが、『俺は気にいらねえ」』。(中略)仕方なく踊りの部分をカット。その結果、ポーズの意味が判らなくなってしまい残念。頑張っていれば踊りからくる新しいアクションの可能性が開けたかもしれない」と語られています。渡邊氏の一言で、ダンスでバトルする斬新な設定を、活かしきることができなかったようです。

 ちなみに、2024年パリオリンピック「ブレイキン女子」では、湯浅亜実選手が金メダルを獲得しました。日本がダンスでも世界のトップレベルになった今こそ、「ダンスでバトル」というモチーフを復活させてもいいタイミングなのかもしれません。

 いろいろと想像を広げながら、次のスーパー戦隊のモチーフを予測するのも、スーパー戦隊シリーズの楽しみ方のひとつなのではないでしょうか。