『風の谷のナウシカ』の原作マンガでは主人公のナウシカと、敵役であるクシャナの性格に大きな違いがありました。では、映画版と、どれほど違うのでしょうか?
ナウシカとクシャナが描かれた『風の谷のナウシカ』静止画 (C)1984 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, H
【画像】えっ、笑ってたっけ? こちらは普段は怖い、クシャナの笑顔です(5枚)
環境の過酷さによって性格が変化した?
2024年3月に劇場公開40周年を迎えた映画『風の谷のナウシカ』は、多くのファンに愛され続ける名作です。本作にはヒロインである「ナウシカ」と、映画のなかでは悪役として立場で登場する「クシャナ」、ふたりの対照的な女性が描かれています。しかし、このふたりは、同名の原作マンガではかなり違った性格で描かれていました。
映画版でも原作でも、主人公のナウシカは「風の谷」の長である「ジル」の娘、という設定は変わりません。ジルは子だくさんでしたが、子供たちはみな早くに亡くなってしまい、唯一生き残ったのがナウシカでした。原作では、ナウシカがジルから後継ぎとしての役目を背負わされている描写がたくさん登場します。
例えば、ナウシカは女性でありながら、ジルの後継ぎとして戦場に出征させられることになります。また、ときに男性のような言葉遣いをしたり、敵からの攻撃を止めるために人質を取ったりするなど、「心優しい少女」として描かれていた映画版よりも、勇ましく好戦的な人物でした。
一方、映画版でナウシカたちの住む「風の谷」を侵略した「トルメキア軍」の将軍として登場するクシャナは、原作で生い立ちが深掘りされます。実は彼女は「トルメキア」の「皇女」であり、先王の血を引く唯一の存在でした。このことから、実の父で現トルメキア王の「ヴ王」にうとまれていたのです。
ヴ王はクシャナを邪魔者扱いし、彼女が少女の頃に「心を狂わせる」毒を飲ませようとします。その際に、クシャナをかばった王妃(クシャナの母)が代わりに毒を飲み、母は廃人状態になってしまいました。そのような悲しい過去のためか、原作のクシャナは多くの部下に慕われる、心優しき武将として描かれています。
原作のナウシカは、「僧正」と呼ばれる老人に「やさしさと猛々しさが混然として奥深い」と評され、クシャナの方は側近である「クロトワ」に「全トルメキア軍の中でもこれほど兵に支持される奴はひとりもいねえ」と言われています。
このような評価からも、映画版のどんな生き物にも優しいナウシカと、目的のためなら武力行使もいとわないクシャナとは、ずいぶん違った印象を受けるのではないでしょうか?
映画版は原作マンガの第2巻までを中心に映像化されました。その一方で原作のマンガは全7巻を通してずっと戦争が繰り広げられており、ときには血なまぐさい場面や残酷な描写も見受けられます。ナウシカとクシャナをとりまく環境は映画版よりもずっと過酷であり、映画版と原作マンガで異なる性格が描かれたのも不思議ではないのかもしれません。