「ガンダム」シリーズでは、味方側のやられ役ポジションとして有名な「ジム」ながら、バリエーションの中にはエース用の高性能機もありました。そしてエースが乗ることで、時には「ガンダム」に匹敵する性能も発揮します。
手にしているのは「L-3スナイパー・ビーム・ライフル」。「MG 1/100 RGM-79SC ジム・スナイパーカスタム (テネス・A・ユング機)」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
意外と知らない人も多い「スナイパー」の意味
「RGM-79 ジム」は、「宇宙世紀」の「地球連邦軍」において、長年に渡り運用された主力MS(モビルスーツ)です。「ガンダム」シリーズでは引き立て役に甘んじることの多いMSながら、その多彩なバリエーションのなかには「ガンダム」に匹敵する性能を持った機体もありました。
ジムは、後に「一年戦争」と呼ばれる大戦では3800機が生産されたそうです。これはジオン公国軍の主力MS「MS-06 ザクII」の4000機に次ぐ生産数でした。しかもザクIIのほとんどが一年戦争中に破壊された一方、ジムは半数近くが稼働状態で終戦を迎えたそうです。
この生きのびたジムのなかには、バリエーション機も含まれていました。そのバリエーションもザクIIに匹敵するほどの数があり、各用途、各戦場に適応したもののほかに、エースパイロットの要求に応えた高い性能を持つ機体も生産されています。
そのなかでもファンにもっとも知られた機体といえば、「RGM-79SC ジム・スナイパーカスタム」でしょうか。メカニックデザイン企画「MSV(モビルスーツバリエーション)」が初出です。
もともとジムは、一刻も早く大量生産に漕ぎ着くことを前提に開発されたMSで、性能としては決して高いスペックは持ち合わせていません。これに不満を抱いた一部のパイロットの要求に応えたのが、本機ジム・スナイパーカスタムでした。その性能は「RX-78 ガンダム」に匹敵するといわれています。
このジム・スナイパーカスタムで多大な戦果を挙げたといわれているパイロットが、「テネス・A・ユング」でした。一年戦争中にMS149機、艦船3隻を撃破しており、そのスコアは「アムロ・レイ」を抜いて堂々の連邦軍トップエースとなります。もっとも書籍由来の設定ですから、公式とはいえないかもしれません。
さらにジム・スナイパーカスタムのコンセプトを、後に生産された「RGM-79G ジム・コマンド」系列機で再現したスペックアップ機が「RGM-79SP ジム・スナイパーII」です。OVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』が初出、ゲーム『機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で…』では主役機ともいえるポジションの機体でした。
その性能はガンダムをも凌駕するという記述もあり、一年戦争では最強のジムといえるかもしれません。もっともカタログスペック上の数字ですから、絶対というわけでもないでしょう。
ちなみにジム・スナイパーカスタムの「スナイパー」の意味を、勘違いしている人も多いかもしれません。なぜならスナイパーは「狙撃手」を意味するものととらえがちだからです。
しかし、ジム・スナイパーカスタムは狙撃特化型というよりも、全体的な性能向上型といえます。純粋な狙撃型ならば、機体の追加装甲や、近接用のボックスタイプ・ビーム・サーベルユニットといった近接用の装備は必要ありません。
実はここでいう「スナイパー」は、アメリカンフットボールなどの球技で使う用語由来です。そのため、由来を同じくする「RGM-79HC ジム・ガードカスタム」や、「RGM-79KC ジム・インターセプトカスタム」が、当初「MSV」に文字設定だけがありました。後にこの2機も、大河原邦男さんによりデザインされています。
初出は『0083』。「MG 1/100 RGM-79N ジムカスタム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
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ジムの性能を生かし切ったエースたちの実力
一年戦争後に新世代の高性能なジムを開発する目的で設計されたのが、「RGM-79N ジム・カスタム」でした。初出はOVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』です。
設計のベースとなったのは、一年戦争中にオーガスタ基地で開発された「RX-78NT-1 ガンダムNT-1」(アレックス)でした。もともとNT-1は量産を視野に入れていた機体だったため、戦後に未組み立てのユニットがいくつか残されていたことも選定された理由であるようです。
完成したジム・カスタムは高性能機でしたが、これといった特徴のないMSに仕上がりました。それゆえに「特長がないのが特徴」という評価をされることになります。これを欠点がないととらえるか、突出した能力がなく凡庸ととるかはパイロット次第というところでしょうか。
もっとも、優秀な機体だったことには間違いないようで、後に地球連邦を牛耳ろうと画策した「ティターンズ」によってプロジェクトや生産ラインは切り替えられ、その初期の主力MSとなる「RGM-79Q ジム・クゥエル」のベースとなりました。
作品中で「ジム・カスタム」は「不死身の第四小隊」で運用され、「サウス・バニング」、「アルファ・A・ベイト」、「ベルナルド・モンシア」が搭乗しています。
ジムのなかでもっとも後の時代まで運用された高性能機といえば、やはり「RGM-79V ジム・ナイトシーカー」でしょうか。メカニックデザイン企画「MSV-R」で登場しました。
本来は地上拠点の奪還を目的として開発されたMSで、高高度からの強襲や奇襲を目的にスラスターを増設した機体です。そのため前述したようなエースパイロット専用機というわけではありません。
マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』(著:Ark Performance/メカニックデザイン:大河原邦男/原作:富野由悠季/原案:矢立肇)に登場した機体は、本来のジムではなく戦後に改修された「RGM-79R/RMS-179 ジムII」をベースにしていました。さらに運用していた特務部隊「ナイトイェーガー隊」隊長である「ヴァースキ・バジャック」の機体は、より性能が底上げされた「RGM-86R ジムIII」がベースです。
後に宇宙戦用に改修した際には、「RGM-89 ジェガン」のパーツが使われており、ジム系のMSとしては最新のアップデートが行われていました。ヴァースキからは「単なる継ぎ接ぎのおもちゃ」といわれましたが、「シャア・アズナブル」の乗る「MSK-008 シャア専用ディジェ」と交戦し、圧倒されるものの、生還しています。
ちなみにヴァースキとは「ヤザン・ゲーブル」の偽名でした。そのためか彼の乗るジム・ナイトシーカーは、「グリプス戦役」での愛機「RX-139 ハンブラビ」が持っていた「フェダーインライフル」と「海ヘビ」を装備しています。
MSの性能を生かすのはパイロットの技量によるところが大きいもの。その点でいえば、エース用に開発された高性能なジムを生かし切ることができたのも、優秀なパイロットがいたからでしょうか。