宇宙は137億歳なのに観測可能な宇宙の直径が930億光年である理由とは? / Credit:Canva . 川勝康弘
少なくない人々が「宇宙が137億年前に誕生したのならば、宇宙の半径も137億光年なのではないか?」と間違った考えを持っています。
興味深いことに、この誤解は根強く、現在においても世界各国の科学雑誌や科学ニュースサイトでも、しばしば見受けられます。
今回は「地球の全周」や「銀河団の直径」からはじめて、観測可能な宇宙の直径、そしてその外に広がる宇宙全体の直径まで順に述べて解説しつつ、誤解の原因に迫りたいと思います。
目次
地球の直径から太陽系の直径まで隣の恒星や銀河団の大きさ観測可能な宇宙の直径と全宇宙の直径
地球の直径から太陽系の直径まで
まずは地球や太陽系の大きさをみてみよう / Credit:Canva . 川勝康弘
かつて古代ギリシャの賢者たちは、世界各地の井戸に差し込む光を同じ月の同じ日に比べることで、地球の全周を3万9690kmだと概算しました。
この数値はかなり正確であり、現在の機器で測定された全周4万8kmとの誤差は3%ほどとなっています。
古代の人々にとっても、自分たちがいる大地がどれだけの大きさを持っているかは、大きな興味の対称だったことがわかります。
また月への距離も同時期のギリシャの哲学者、ヒッパルコスによって35万4000kmだと概算されました。
こちらも割と正確であり、現在の測定値38万4400kmとの誤差は8%ほどとなっています。
しかし残念なことに、古代ギリシャの高度な知識は後の世に十分に伝わらず、やがて地球平面説が優勢になっていきます。
自由な思想や世界の秘密を探ろうとする試みは、中世世界では神への反逆とみなされたからです。
しかしルネサンス期を経て科学的思考が復活すると、人類は再びさまざまな距離を測るようになりました。
人類の科学を測る物差は様々ですが「距離の測定能力」はかなり正確な指標となるでしょう。
科学が発展するにつれて、測定可能な距離はどんどん伸びていき、太陽までの距離(約1億5000万km)や現在の地球から冥王星までの距離(約40億km)もわかりました。
ただ距離が伸びるにつれて、扱う数字の桁数も伸びていきます。
そこで天文学では地球と太陽の距離を新たに1天文単位(1AU)と定義し、物差しを使いやすい形に変更しました。
天文単位を使えば、太陽と他の惑星の長半径もスッキリとしたものになります。
たとえば水星まで0.39AU、金星までが0.72AU、木星までが5.20AU、冥王星までが39.5AUと距離関係もわかりやすくなります。
天文単位は太陽系内部で距離感を感じるのに適しています / Credit: 川勝康弘
しかしそれより遠い距離では再び桁数が伸び始めます。
たとえば太陽からカイパーベルトと呼ばれる天体の密集領域までは100AUほど、さらに太陽系の外縁と考えられるオールトの雲までは約1万AUとなっています。
この場合、太陽系の直径は2万AUとなります。
さらに太陽の重力が及ぶ範囲に至っては12万5000AUとなり、再びイメージしにくくなってきいました。
特に太陽系の外、つまり宇宙の星系間の距離を示すには、地球‐太陽間の距離を基準にしてもあまり意味がありません。
そこで登場するのが光年です。
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隣の恒星や銀河団の大きさ
オリオン腕は主要な2本の腕の支流となっています / Credit:Wikipedia
ここからは距離がいっきにインフレして、光が1年間に進む距離「光年」や1パーセク(3.26光年)が基準になります。
太陽系から最も近いアルファ・ケンタウリまでの距離はおおよそ4.2光年(1.3パーセク)と言われています。
ざっとまとめると「1光年=27万AU=9.46兆km=0.306601パーセク」となります。
また太陽系が属するオリオン腕の長さはおよそ1万光年であり、天の川銀河系の直径は約15万光年となっています。
天の川銀河とアンドロメダ銀河は局所銀河団の2大銀河です / Credit:Wikimedia
またさらに視野を拡大すると、天の川銀河団とアンドロメダ銀河団という2つの大きな銀河の塊がみえてきます。
この2つの銀河団はダンベルのように2つがセットとなって局所銀河群(ローカルグループ)と呼ばれるより大きなグループを形成しています。
このローカルグループの直径はおよそ326万光年(3メガパーセク)となっています。
天の川銀河の属する局所銀河団も点のようなサイズになってしまいます / Credit:Wikimedia
またローカルグループはおとめ座銀河団は1500万光年(4.6メガパーセク)の一部であり、さらにおとめ座銀河団はラニアケア超銀河団(右の黄色い部分)の一部となっています。
ラニアケア超銀河団の直径は5億2000万光年(153メガパーセク)と推定されています。
このあたりから観測可能な宇宙の限界がみえはじめます / Credit:Wikipedia
そしてラニアケア超銀河団は宇宙の大規模構造を形成する網の1本「ヘラクレス座・かんむり座グレートウォール」の一部となっています。
この「ヘラクレス座・かんむり座グレートウォール」の長さはおよそ100億光年となっており、観測可能な宇宙の10.7%の長さに達していると考えられます。
100億光年の長さを持つ「ヘラクレス座・かんむり座グレートウォール」が10.7%に過ぎないとすれば、観測可能な宇宙の大きさはその9倍以上大きくなければなりません。