生物学賞:牛の背に立っている猫の横で紙袋を爆発させる研究

最後に紹介するのは「牛の背に立っている猫の横で紙袋を爆発させる」研究です。

その目的はミルクの噴出量を調べるためでした。

全ての哺乳類において母乳分泌は種の存続にかかわる重要な機能です。

そこで1939年の研究者たちは、母乳が分泌されなくなる条件に恐怖が含まれるかどうかを調べることにしました。

現在では牛でも人間でも安定した精神が母乳分泌において重要であることが常識になっていますが、1939年の段階では学術的な情報が不足していました。

そこで研究者たちは「牛の上に猫を立たせ、紙袋の破裂音を2分10秒ごとに繰り返し聞かせる」という方法で牛に対して恐怖を与えることにしました。


Credit:Canva . 川勝康弘

結果、怯えた牛たちはミルクの出が悪くなることが判明しました。

また研究を続けるなかで猫の存在は不要だと判断され処分されました。

牛や猫に対する扱いが酷いと思うかもしれませんが、当時の動物愛護意識はまだ低く、研究者自身が冷酷だったわけではありません。

それに研究の是非を未来人の目から判断することは決して褒められたことではありません。

現在研究者たちが真面目に行っている動物研究の中にも、未来の人々からみて「牛の上に猫を立たせて紙袋を爆発させる」と同レベルと判断されるものが出てくるかもしれないからです。

逆に現代の知識では半分ネタに思われていた研究が、未来では大きな評価を受ける可能性もあります。

もしかしたら近い将来、イグノーベル賞から本物のノーベル賞が選出されるかもしれません。

参考文献

The 2024 Ig Nobel Prize Winners
https://improbable.com/ig/winners/

元論文

How Side Effects Can Improve Treatment Efficacy: A Randomized Trial
https://doi.org/10.1093/brain/awae132

Pigeons in a pelican.
https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/h0045345

Boquila trifoliolata Mimics Leaves of an Artificial Plastic Host Plant
https://doi.org/10.1080/15592324.2021.1977530

Mammalian Enteral Ventilation Ameliorates Respiratory Failure
https://doi.org/10.1016/j.medj.2021.04.004

Factors Involved in the Ejection of Milk
https://doi.org/10.1093/ansci/1939.1.80

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部