ヘタフェをホームに迎えた第5節に今シーズン初勝利(1-0)を挙げたセビージャで、独壇場を演じたのがベテラン右サイドバックのヘスス・ナバスだ。
右サイドから果敢に仕掛けて相手に脅威を与え続け、23分に決勝点となったゴラッソを叩き込み、67分にベンチに下がった後はピッチへ声援を送り、勝利を見届けると涙を流した。本人によると、この日は腰痛を抱えながらのプレーだったという。試合の2日前は練習を欠席したが、前日の練習で状態の良さをアピールし、スタメンの座を勝ち取っていた。
ナバスはこの腰痛が原因で、今年12月での引退を表明している。ヘタフェ戦で示したように、まだまだチームにとって重要な戦力で、しかもこの1年の間にフェルナンド、イバン・ラキティッチ、セルヒオ・ラモスといった同世代の選手が次々に退団し、次世代リーダーの育成が急務のセビージャでは、より一層重宝される存在になっている。
セビージャのガルシア・ピミエンタ監督はヘタフェ戦後、「シーズン最後までプレーしてもらえるよう全員で説得したい」と言及したが、これはチームメイト、ファンの総意である。
スペイン代表からは先月、一足先に引退した。今夏のEUROで優勝し、有終の美を飾っていたナバスは、現代表監督のルイス・デ・ラ・フエンテとは、セビージャのカンテラ時代に指導を受けて以来の旧知の間柄にある。8月に代表引退を正式に発表した後でデ・ラ・フエンテ監督は、「コーチングスタッフを構成する我々ファミリーに多くのものをもたらしてくれた。私は彼が駆け出しの頃からの知り合いで、当時から目をかけてあげたくなる選手だった。今はただおめでとう、幸運を祈っているとしか言えない」と感慨深げに語った。
セビージャ前監督のキケ・フローレスもナバスにぞっこんのひとり。「ヘススのような人間に成長することは、父親にとって最高の喜びだろう。善良で、謙虚で、仕事において責任感があり、自己犠牲精神に溢れる。こんな人間はなかなかいない。ましてやヘススは超一流のキャリアの持ち主だ。我々みんながヘスス・ナバスになりたいのだ」と惜しみない賛辞を送っている。 プレーだけではない。人間性も含めて周りの人間はナバスに魅了されており、それはもちろんファンも同様だ。いま、セビージャは混迷の真っ只中にある。経営危機とチームの低迷を招いたフロントへの風当たりは増す一方で、ヘタフェ戦もキックオフ前から殺気立った雰囲気がスタジアムに漂っていたが、ナバスが交代でピッチを去る際には、万雷の拍手で包まれた。
EURO2024期間中、最年少選手ラミネ・ヤマル(バルセロナ)のお目付け役を買って出ていたナバスは自身も早熟型だった。セビージャでトップチームデビューを果たしたのは18歳の時。最初の数年間は、壊れやすいナイーブな少年がそのままサッカー選手になった印象で、重度のホームシックに悩まされ、代表への招集を辞退したこともあった。当時はこんなに長いキャリアを築き上げるとは想像できなかった。
それが2010年にW杯優勝戦士となり、EURO2012でも優勝を経験し、2013年にはマンチェスター・シティに移籍と、名実ともに一流選手の仲間入りを果たし、2017年にセビージャに復帰してからは重鎮のひとりとしてチームを引っ張ってきた。
躍動感あふれるプレーは今なお健在で、腰痛がなければ…というのは誰もが感じるところだが、チームメイトのサウール・ニゲスがスペイン紙『エル・パイス』のインタビューで語ったところによると、12月引退の決心は固いようだ。残り数か月、慢性的な故障を抱えながら、愛するセビージャのためにピッチを駆け回るナバスの姿を目に焼き付けておきたい。
文●下村正幸
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