ワールドカップにも出場した元日本代表の玉田圭司が、昌平を率いてインターハイ制覇。しかも監督就任からわずか4か月で、チームにとっては初の全国優勝という箔もついて――。
新指揮官の玉田監督は、いったいどんな指導で昌平を日本一に導いたのか。小さくない興味をしっかりと深掘りするべく、インタビュアーを担当してもらったのは、同じくワールドカップを経験した元日本代表の名良橋晃氏。解説者のなかでも屈指の高校サッカー通で、インターハイも現地取材している、打ってつけの聞き手だろう。
世界を知るワールドカップ戦士によるスペシャル対談企画、元日本代表が語り合う高校サッカー。中編のテーマは、現代の高校サッカーを取り巻く環境だ。整備されたリーグ戦、中高一貫指導などに、玉田監督は自らの高校時代と比べて何を感じるのか。「プロに近い」という高円宮杯プレミアリーグでは新指揮官の志向を象徴する采配も見せている。
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名良橋 今大会のインターハイは、昌平、神村学園、帝京長岡、米子北と高円宮杯プレミアリーグ(以後、通称のプレミアで表記)に所属するチームがベスト4を独占しました。結果から見てもリーグ戦の重要性が明らかですが、監督としてプレミアを戦い、何か感じることはありますか?
玉田 大きなやりがいを感じています。僕らの高校時代にもプレミアのようなリーグ戦があれば、もっとレベルの高い試合を毎週できて、選手の個も伸びただろうなぁと。羨ましいくらいですよ。
名良橋 高体連とJクラブの下部組織がリーグ戦で対戦できるのは、毎節いろんな違いが見えてきて面白いですよね。
玉田 そうなんですよ。だから毎試合、対戦相手をスカウティングするのもすごく楽しくて。プレミアは特徴があるので、対策を練るのもすごく楽しい。インターハイはスカウティングする間もなくずっと試合だったから、自チームのコンディションや戦い方にフォーカスしましたけど、プレミアは1週間間隔で試合があるので対策を練る時間があり、プロに近いですよね。
名良橋 試合へのアプローチ方法が?
玉田 そうです。
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名良橋 そこで気になるのが、去年の基本フォーメーションは4-2-3-1でしたけど、今年に玉田監督が就任してからは4-1-4-1でスタートするゲームが多くなった点です。システム変更はどういう狙いですか?
玉田 より攻撃的で、よりテクニカルな選手を起用し、オフェンス重視にしたかったんです。システムというよりかは、攻撃志向を植えつけました。
名良橋 大谷湊斗選手のアンカー起用も、もっと攻撃的なサッカーにしたい狙いで?
玉田 はい。4-1-4-1というか、4-3-3とも言えるシステムでは、アンカーが最重要のパーツだと僕は思っています。攻撃的なサッカーで勝つためにはアンカーの出来次第だと考えていたので、大谷を抜擢しました。インターハイの途中からは大谷を一つ前で起用しましたけど、代わりに他の選手をアンカーに入れても遜色なくやれていた。それは大谷が最初にアンカーの手本になってくれたおかげです。大谷はFC LAVIDA出身ではないなかで(中学の所属クラブはアメージングアカデミー)、チームにとって良いアクセントになってくれています。
名良橋 やっぱり、中学のクラブチーム、LAVIDAと連係して中高一貫で指導しているのは、監督としてチームの指揮を執るなかでも大きいと感じますか? プレミアの高体連では青森山田や神村学園、静岡学園なども中学とつながっていますし、重要なポイントなのかなと個人的には感じています。
玉田 すごくプラスだと思いますね。やっぱり長い間、同じ選手と一緒にいれば、プレーの特徴だけではなく、私生活の面でもすごく仲良くなる。いろいろな会話のなかで人間性も育まれるし、お互いの性格も分かりながらサッカーできるのはプラス要素です。
名良橋 監督としてもチーム作りしやすい?
玉田 はい、すごくやりやすいです。ある程度ベースができているのはすごく大きいですね。
名良橋 ところで、大谷選手がU-18、LAVIDA出身の長璃喜選手と佐々木智太郎選手がU-17日本代表に選ばれましたね。世代別代表に選ばれる選手からは、玉田監督の代表経験を聞かれたりしますか?
玉田 ないんですよ。
名良橋 まったくない? 玉田監督から話すのは?
玉田 いや、特にないですね(笑)。
名良橋 なぜですか?
玉田 昌平での活躍を評価されて代表に選ばれたなら嬉しいですけど、代表経験を僕から話して日の丸を意識させようと思わないんです。代表に入るために頑張る選手はいないので。名良橋さんも現役時代、そうでしたよね?
名良橋 確かに、そうですね。僕も代表のために頑張ったというよりかは、鹿島アントラーズで結果を残したからこそでした。
玉田 そうですよね。まあ、鹿島で活躍すれば、もう、すぐ代表ですから(笑)。
名良橋 いやいや、玉田監督はワールドカップでブラジルから初めてゴールを奪った日本代表ですけど、僕なんかワールドカップで初めてポストにシュートを当てた選手ですから。(笑)。[注釈=玉田氏のゴールは2006年ドイツ大会のブラジル戦、名良橋氏の該当試合は1998年フランス大会のジャマイカ戦]
玉田 初ポスト?(笑)。
名良橋 そうです、ブラジルからのゴールとは大きな違いです(笑)。僕の初ポストという冗談はさておき、話は変わりますが、9月から再開しているリーグ戦に向けて、インターハイ優勝後は選手たちに変化ありましたか?
玉田 プレーはあまり変わっていないですね。でも、インターハイ後のフェスティバル、奈良遠征では静岡学園に引き分けて興国に負け、名古屋遠征では名古屋U-18に敗れました。コンディションが影響したとはいえ、負け続けて「俺らインターハイで優勝しただけで実力はまだまだ」と選手たちが感じてくれたので、うぬぼれてはいけないと自覚させる意味では良かったです。プレミアや選手権を見据えたチャレンジもできましたし。
名良橋 リーグ戦が整備され、フェスティバルも多く、中高一貫指導と、昔と今の高校サッカーは環境が異なるなかで、玉田監督自身の高校時代と比較してみると、今の選手たちに玉田少年との違いを感じる部分はありますか?
玉田 今の子たちのほうがしっかりしていると感じますよ。
名良橋 具体的には?
玉田 特に昌平は勉強も疎かにしない文武両道の高校なので、勉強もサッカーも手を抜かないです。
名良橋 となると、テストの点数が低いと練習参加禁止とかあるんですか?
玉田 いや、それはないですね。あと、僕は教員ではないから、学校生活については顧問の先生に任せているので、あまり関わっていないです。それに僕は習志野高校時代、勉強しなくてもサッカーを頑張ればいいでしょ、ってタイプだったし。大げさに表現したら、ですけどね(笑)。
名良橋 ちなみに僕は習志野に憧れていましたよ。
玉田 そうなんですか?
名良橋 学ランに!
玉田 え、学ランに?(笑)。
名良橋 黒ブチのボタンがカッコ良くて。サッカー部にも憧れて。行けなかったけど。
玉田 なんで習志野に行けなかったんですか?
名良橋 ちょっと、大人の事情で(笑)。
玉田 ハハハ(笑)。なんですか? 大人の事情って(笑)。でも、先輩だったかもしれないんですね。
<後編に続く>
構成●志水麗鑑(フリーライター)
PROFILE
玉田圭司(たまだ・けいじ)/80年4月11日生まれ、千葉県出身。高校時代は習志野高でプレーし、プロ入り後は柏や名古屋などで活躍した元日本代表FW。2006年のドイツ・ワールドカップではブラジル戦でゴールを決めた。2021年に現役を引退し、2023年から昌平でコーチを務め、2024年からは監督に就任。同年8月にはチームをインターハイ優勝に導いた。
名良橋晃(ならはし・あきら)/71年11月26日生まれ、千葉県出身。高校時代は千葉英和高でプレーし、プロ入り後は平塚(現湘南)や鹿島などで活躍した元日本代表の右SB。98年にはフランス・ワールドカップに出場した。現在はJSPORTSで放送されている『Foot!』で、高校年代の大会や選手を紹介する木曜日のコメンテーターを務めている。
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