今回のテーマはテニスラケットに巻く「グリップテープ」です。カラーバリエーション豊富なグリップテープがたくさん販売されているのに、どういうわけかプロ選手が巻いているのはほとんど「白」……その理由はなんでしょうか?
日本のプロトーナメントのオフィシャルストリンギングを担当することがあるJRSA(日本ラケットストリンガーズ協会)のSNSでは、会場のストリンギングルームの様子などが紹介されています。それを見ると「プロ選手って、決まったように白いグリップテープだなぁ」と実感します。
ズラッと並んでいる張り上がりラケットのほとんど全てに白いテープが巻かれていて、「ほぼ8~9割の選手が白!」というのです。
巷のテニス専門店に並ぶグリップテープには、黒・青・赤・黄色・ピンクなどのカラーバリエーションがあります。なのに……選手はみんな『白』?
この機会に、選手やショップの方、メーカーの担当者など、色んな方に訊ねてみました。その結果、一般プレーヤーでも白を選択するお客様が多いとうことでした。
でも白って、めちゃくちゃ汚れが目立ちやすいです。巻き替えたばかりの頃はツルツルと光沢があり、手のひらに吸い付くような心地よさがありますが、数回使うとしっとりさも薄らいで、汚れが目立ちます。
その反対が『黒』で、汚れがほとんど目立ちません。吸い付き感はなくなっていても、見た目に疲労感がわかりにくいので、頻繁に巻き替えないプレーヤーは、黒を選ぶ傾向があるようです。
それでも一般プレーヤーの多くが白派なのは、やはりトッププロがみんな白いグリップテープを巻いていて、カッコよく見えるせいもあると感じます。
1980年代、グリップテープは「ドライタイプ大全盛期」で、ウェットタイプを使う方はとても少数でした。でも、松岡修造選手が純白のグリップテープを巻いて世界で活躍する姿は、なんか王子様っぽくってカッコよかったんです。考えてみれば、あれから白いウェットの時代が始まったような気がします。
でもやはり気になるのはコスト。現代のプロの場合は、ストリングとグリップテープは毎試合ごとに全て新品に取り替えます。メーカーと契約している選手は、費用のことは全く考えなくて済みますが、自分で購入しなければならない選手でも、試合前には「張り替え・巻き替え」が常識。それは勝つための必要経費として織り込み済みなわけです。
つまり彼らにとっては、それくらい「ストリングとグリップは大切」なんですね。手のひらに吸い付いてくれることで、ちょっとくらいインパクトが芯を外してもグリップは耐えてくれて、ミスショットから救ってくれます。スイングのパワーを確実にラケットへ伝えるには、白いグリップテープが一番いい! と考える選手が大半だということです。
彼らは、汚れやすいとか、耐久性がどうとか、まるで考える必要がないわけで、それで「白がほとんど」ということは、性能的にそれが一番優れていると認識しているからなのでしょう。
今回、とても多くの方に話を伺い、プロが白を好むのは「やっぱり柔らかいからでしょ」という意見が多かったのは事実です。メーカーの立場としては「色による違いはある」とは言えないでしょうが、実際にはどうなのでしょう?
テープの製造に詳しい方々に伺ってみると、やはり白は「他の色よりも、しっとりした感じが強いかも」という印象を得ました。
それは「白は染料が入っていないから」ではありません。白いテープにもしっかり「顔料」が使われているのです。全くの「無色」のウレタン剤は、やや白っぽい灰色だそうで、白いテープ用の塗布剤には「白い顔料」が混ぜられて初めて、あの純白が実現するのだそうです。
ただ、白の場合は混ぜる顔料の量も少なくて済むことや、黒のように濃い色ほど顔料としての硬さがあり、それを多く使わなければならない色ほどしっとりみずみずしい感触は薄れるという理由もあるようです。またプロが白を選ぶのは「心理的に軽そうに感じるから」「集中力が高まるから」という見解もありました。
一般市場でウェットタイプを非常に多く販売しているヨネックスには、伝説のテープ『ウェットスーパー』というモデルがあり、発売から“地球6周分”(地球1周4万キロ、グリップ1本は1・2メートル)の売り上げに達したとのこと。このモデル全11色のうち白の販売比率は37%(海外39%、国内34%)。海外国内どちらもホワイトが1位で、2位のブラックは海外19%、国内32%と差があるというデータを頂きました。
今回の取材から、一般プレーヤーでもテニスに高い意識を持っている方は、白いテープのメリットを体験的に感じており、性能が低下したなと感じたら巻き替えるため、巻き替え周期も短い……だから汚れたテープをいつまでも巻いていないわけで、ならば「白がいい!」と選ばれているんだなという印象を得ました。
文●松尾高司(KAI project)
※『スマッシュ』2022年10月号より抜粋・再編集
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