【玉田圭司×名良橋晃|元日本代表が語り合う高校サッカー】ファンタジスタは消えたのか? 話題のテーマを徹底討論で深掘りした“創造性の育成”。指導の鍵は「自然体」(番外編)

 8月、ワールドカップにも出場した元日本代表の玉田圭司が、昌平を率いてインターハイ優勝を果たした。いったい、どんな指導で昌平を日本一に導いたのか。小さくない興味をしっかり深掘りするべく、同じくワールドカップを戦った元日本代表の名良橋晃氏にインタビュアーを担当してもらった特別対談企画、元日本代表が語り合う高校サッカー。

 前編、中編、後編の3本立てでお届けしたが、番外編ではサッカーの戦術発達により時折話題に挙がる「ファンタジスタは消えたのか?」というテーマで徹底討論してもらった。指導者として育成年代の現場に立つ玉田監督と、解説者のなかでも屈指の高校サッカー通である名良橋氏は何を感じているのか。

 高校サッカーとファンタジスタ、議論が白熱するなかでふたりの元日本代表が掘り下げたのは“創造性の育成”。指導の鍵となるのは「自然体」かもしれない。

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――現代サッカーでは創造性あるプレーを見せるファンタジスタが減少傾向にあると言われていますが、「ファンタジスタは消えたのか?」というテーマに関して、高校年代ではどう感じますか?

名良橋 僕の印象では、それこそ昌平には創造性溢れる選手が多いと思っていますよ。大谷湊斗選手や長璃喜選手などからはファンタジスタの匂いを感じますし、彼らはプレーに華がありますよね。

玉田 ファンタジスタの定義が難しいので一概には語れないですが、僕は「こうしろ!」と言うように選手のアイデアを制限する指示はしていないです。選手たちには考えることをすごく求めています。監督の指示に忠実な選手も必要かもしれないですけど、指示以外のプレーに僕は期待しているんですよね。たとえば、大谷と長の名前を挙げてもらいましたけど、試合にあまり出せていない山口豪太も練習では「すげーな!」と唸るようなプレーを見せてくれます。あとは、1年生に根津優羽という選手がいるんですけど…。

名良橋 あ! インターハイに出ましたよね? FC LAVIDA出身ですよね?

玉田 はい。あの子は上手いですよ。

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名良橋 やっぱり。根津選手に期待しているんですか?

玉田 期待していますよ。まだまだ足りない部分はありますけど、インターハイに入れて良かったなと思うのは、「こんなに!?」と驚くほど意識がすごく変わりました。ひとつ例を挙げると、今までは片付けしなかったんですよ(笑)。片付けを3年生がしているのに1年生が見ているという(笑)。

名良橋 ハハハ(笑)。ボール回収とか?

玉田 ボールだけではなく、ビブスを片付けるとかも。

名良橋 1年生がまったくしないんですか?

玉田 1年生というよりかは、根津がやらなくて。でも、ちょっと指摘したら、片付けをやるようになるだけではなく、プレーでも自分に足りない部分を自ら分かるようになってきた。だから高校生、特に1年生は意識次第ですごく成長するんだなと思うと、指導はすごく面白いですよね。

名良橋 最も大事なのは選手本人の意識を促すことですか?

玉田 そうだと思います。やらされている感にならないよう、ちょっとだけ言って、あとは自発的に行動するようになるほうが、たぶん覚えていくんですよね。

名良橋 そこも指導の楽しさですか?

玉田 はい。だから選手に考えさせることは結構やっていますね。
 
名良橋 それは練習から?

玉田 そうですね。なので、僕はそんなに指示しないんです。

名良橋 試合でも、練習中も?

玉田 そうですね。

名良橋 じゃあ、練習でプレーを止めて指示することも少ない?

玉田 そうです。あまり止めず、とにかくやらせる。

名良橋 だって、自分がまだまだボール蹴れるでしょ? それだけで説得力あるから(笑)。

玉田 いやいや、僕は中でやらないですよ(笑)。

名良橋 じゃあ、外から見ながらもプレーを止めずに流して練習していると。

玉田 はい。最初は練習を止めて指示していました。でも、最近は自分が提示した練習メニューを選手がしっかり表現してくれているので、あんまり止めなくなりました。

名良橋 ちなみに練習後の片付けも今はスムーズに?(笑)。

玉田 スムーズですね(笑)。
 
――ちなみに、影響を受けた本田裕一郎先生があまり指示しない監督だったんですか?

玉田 本田先生からは、あんまりサッカーの話をされなかったですね。練習もコーチが指導してくれていたので。

名良橋 でも、オーラだけでピリッと(笑)。

玉田 ですね。獣みたいな(笑)。

名良橋 僕の1個下の仲村浩二(現・尚志監督)も習志野出身で、「ピリッとする」と言っていました。みんなが思っているんだから、本田先生はやっぱりすごいなぁ。

玉田 そうなるとたぶん、選手の発想力が生まれますよね。

名良橋 自分でなんとかしなければいけない状況に置かれた時にですよね。
 
――選手の創造性を大事にしたい一方で、監督としてはチームの勝利も必要になってくると、指導の際に難しさを感じませんか?

玉田 難しいですけど、僕は勝ちにこだわっても、勝つためだけに指導していないんです。プレミアでも勝つためだけが目的なら、もっと違う戦い方を採用していました。特に最初は後ろでボールをつないでロストして失点し、負けたり、引き分けた試合もあったので。そこで割り切ってボールを蹴れば、勝てたかもしれないですけど、サッカーを楽しんでこその勝敗だと僕は思っていて、チャレンジしたからこそ点を取れた、もしくはチャンスを作れたシーンだって絶対ある。サッカー観、指導論は人それぞれなので一概にどれが良いか分からないですけど、選手がトライしたうえでのミスに関して僕は絶対に怒らないです。逆に褒めるくらい。

名良橋 トライしないミスのほうが良くないですよね。

玉田 はい。消極的なミスには怒りますけど、意図のある積極的なトライというのは、僕は練習からでもめちゃくちゃ褒めます。

名良橋 じゃあ、あとは練習を見させていただければと。

玉田 見てくれるんですか?

名良橋 当たり前じゃないですか! 見て学びます!

玉田 そんなに大した練習やらないですよ。見て学ぶって(笑)。

名良橋 見学! 僕は字のごとく、見て学びます!

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 練習を見学していた名良橋氏が思わず呟いた。

「みんな自然体ですよね」

 確かにグラウンドには飾り気のない空気が流れていた。まるでサッカーを楽しむ少年たちが公園に集まっているかのような雰囲気なのに、要所で玉田監督がコーチングすると、肝の球際では日本一のバトルが繰り広げられる。高強度で良質なトレーニングのなかで、とりわけ攻撃陣はアイデア溢れるプレーを見せていたのも印象深い。

 夕暮れに練習見学を終えてピッチをあとにする時、筆者はふと思った。

「面白かったなぁ。また見に来たいな」

 もうすっかり、玉田監督率いる昌平に魅了されていた。本来あるべきサッカーの真髄に、改めて気づかせてもらったと感じている。

<了>

取材・文●志水麗鑑(フリーライター)

PROFILE 
玉田圭司(たまだ・けいじ)/80年4月11日生まれ、千葉県出身。高校時代は習志野高でプレーし、プロ入り後は柏や名古屋などで活躍した元日本代表FW。2006年のドイツ・ワールドカップではブラジル戦でゴールを決めた。2021年に現役を引退し、2023年から昌平でコーチを務め、2024年からは監督に就任。同年8月にはチームをインターハイ優勝に導いた。

名良橋晃(ならはし・あきら)/71年11月26日生まれ、千葉県出身。高校時代は千葉英和高でプレーし、プロ入り後は平塚(現湘南)や鹿島などで活躍した元日本代表の右SB。98年にはフランス・ワールドカップに出場した。現在はJSPORTSで放送されている『Foot!』で、高校年代の大会や選手を紹介する木曜日のコメンテーターを務めている。

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