次々と欧州へ。日本サッカーのブランド力向上の半面、確実に進むJリーグの空洞化。打開策を見出せなければ、代表との格差はますます――

 サッカー小僧たちは世情に敏感で正直だ。ある指導者がジュニア対象のクリニックを実施し、「Jリーガーになりたい人?」と声をかけると、1人も手が挙がらず、観戦経験のある子も数人だけだった。

 もはやサッカー小僧たちは、Jリーグを飛び越してワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグを夢見ている。だから若い選手たちは、夢の実現から逆算して行動する傾向が顕著になっている。
 
 この夏も多くの日本人選手たちが海外移籍を果たしたが、象徴的だったのは塩貝健人の選択だ。

 国学院久我山高校のエースだった塩貝の才能の大きさを、真っ先に知らしめたのは横浜F・マリノスだった。慶應大学2年に進級する頃には卒業時のプロ内定を出し、特別強化指定選手として抜擢するとJ1でもゴールを決めた。

 だが、この19歳の才能には、既に欧州市場も注目していた。いくつかのクラブ間の争奪戦を経て、オランダのNECが4年契約で獲得。結局横浜は、せっかくの内定を解除することになった。
【画像】逸材が次々と新たなステージへ!2024年夏に海外で新天地を求めたサムライたち
 また、ロアッソ熊本のアカデミーで育った道脇豊は、15歳で同クラブとプロ契約を果たすが、18歳の今は、ベルギーのベフェレンでプレーしている。NECやベフェレンは、必ずしもJリーグより格上とは言い切れない。

 しかし、三笘薫がプレミアリーグのブライトンでブレイクする前に、ベルギーのユニオン・サン=ジロワーズで暫くプレーしたように、彼らは未来のビッグクラブへの移籍に備え、現地で助走期間を過ごしているわけだ。

 こうして欧州でも日本の才能は、もはや代表レベルに留まらず、10代から幅広くスカウティングされている。日本サッカーのブランド力が急上昇している証でもある。
 
 ただし反面、日本サッカー界の好況は、確実にJリーグの空洞化を進めている。スペインで土台を固めた久保建英は、18歳の誕生日が来るのを待って再び日本を飛び立ったわけだが、今では日本で生まれ育った選手たちでも久保と変わらぬスピード感で欧州進出を描くようになった。
 フットボーラーの寿命は短い。最近は三笘、守田英正、古橋享梧らのように大卒選手の欧州進出も目立つが、早く現地に順応した方が可能性も広がるのは目に見えている。逆に大卒で獲得してきても、数年間で欧州進出が見えてくる現況は、Jクラブの強化担当の頭痛の種かもしれない。

 だが、日本に限らずトップレベルの才能が流出していく状況は、欧州でもイングランド、スペイン、ドイツ等わずかな例外を除けば変わらない。既に1998年に自国開催のワールドカップで初優勝を遂げたフランス代表の主力の大半は、セリエAでプレーしていた。

 では欧州の2番手以下の国々では、なぜ空洞化現象に陥らないのか。現在オーストリアリーグのザンクト・ペルテンでテクニカルディレクターを務めるモラス雅暉氏に話を聞いたことがある。
 
 オーストリアでは「毎年4~5人に1人程度の選手たちが外国へ移籍していく」そうだ。しかし出て行く分を新しい才能が埋める仕組みが整っている。同国ではトップチームが1部なら、セカンドチームも最高2部リーグまで上がれる。また、業務提携制度が進み、シーズン中でも貸し出した選手を必要な時には戻すことも可能なので、開幕時には貸出先の2部でプレーしていた選手が、後半は本来所属する1部で活躍することもあるという。
【PHOTO】“世界一美しいフットボーラー”に認定されたクロアチア女子代表FW、マルコビッチの厳選ショットを一挙お届け!
 日本では高卒から大卒まで(18~22歳)の実戦経験を補う明確な仕組みが確立されていない。それが高校やユースを経た選手たちの海外流出の要因にもなっているわけだが、その結果、Jリーグは欧州2番手クラスの国々に比べて年齢層が高くなっている。一時はJ1の3クラブがU-23チームをJ3に参戦させたが消滅。最近は育成型のレンタル制度が活用されるようになっているが、ベテラン選手との共存の仕方も含めて過渡期の感が否めない。
 
 日本の若い才能は、欧州から青田買いの対象になるほど悪くはないのに、依然として多くのJクラブはチームの成績を重視するあまり、経験値優先に走りがちだ。もちろん町田や神戸のように、欧州から戻る選手たちの有効活用も今後の重要なテーマだが、やはりアジアの近隣諸国への展開も視野に入れた業務提携システムや、セカンドチーム活動の見直し等は、せっかく確立されている育成システムを有効活用するためにも急務だろう。

 地上波放送がほとんどないJリーグは、4年に1度、五輪という大々的な露出の場を持つ様々なアマチュア競技と比べても、国民的な関心度が薄いかもしれない。このまま有効な打開策を見出せなければ、日本代表活動とJリーグの格差は、ますます広がってしまう可能性がある。

文●加部究(スポーツライター)

【記事】「話にならない」内田篤人、海外移籍について若手の“姿勢”に物申す「行けば。どこでもいいじゃん」

【画像】日本代表を応援する麗しき「美女サポーター」たちを一挙紹介!