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やす子のポスト(Xへの投稿)に対する不適切発言で、個性派タレントのフワちゃんが芸能活動を休止しているが、最近は有名人に限らずSNSでの言動が炎上するケースが少なくない。

「バイトテロ」や「バカッター」などと揶揄される不適切動画などはその最たるものであるが、露出多めのコスチュームでUSJに出かけた若い女性の投稿が「下着ユニバ」と顰蹙を買ったことは記憶に新しい。

また、最近では「見知らぬ女性が突然生理になって困っていたら、自分が持っていたナプキンを渡すかどうか」という議論で「渡さない」と明言した女性らが人格を否定されている。

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「備忘録代わりに日常を投稿しているだけなのに『承認欲求のかたまり』とか言われる」「子育ての苦労を愚痴っただけなのに『母親失格』よばわりされた」

など、SNSでは匿名のユーザーから悪意を向けられることも少なくない。そういったSNSの特性をきっかけにメンタルに支障を来してしまった女性がいる。その1人が小西百合子さん(仮名34歳)だ。

「SNSを始めたのは22歳の時です。入社したばかりの会社でフェイスブックが盛んだったので影響を受けた感じですね。同僚のプライベートの様子を知ることができたり、疎遠になっていた友人と繋がったりして楽しかったし、情報収集もできて当時はすごく有意義な使い方をしていたと思います」

そう話す小西さんは、10年ほど前に(旧)ツイッターを始めてから生活に異変が起きるようになったという。

「いわゆる『ツイ廃』というヤツです。一度ツイッターを開くと何時間でも見ちゃうんです。他人のつぶやきや世の中の出来事や流行などに敏感に反応するようになりました」

 

夫が子供を望んで対人恐怖症との板挟みに

根が素直なせいか「周囲の影響を受けやすい性格」だという小西さんは、見ず知らずの人間の投稿に同調することが増え、自分にはまったく無関係な内容であるにもかかわらず、憤ったり悲観したりして精神的に不安定になった。

「極端に言うと世間が『許せないこと』だらけになった感じですね。匿名性を利用して、気に入らないツイートに誹謗中傷などを書き込んだこともあります。インスタグラムも始めたんですが、他人のリア充な投稿を目にしては嫉妬から毒づいたりしていました。そんなことを繰り返しているうちに自分がどんどん荒んでいくのが分かったんです」

「このままでは私という人間がダメになる」…そう気が付いた小西さんは一切の書き込みを止めて「見るだけ」にするのだが、SNSの影響からは逃れられなかった。

「公共の場での言動が晒されて、批判や非難の的になることがあるじゃないですか? ああいうのを見ると、自分も常に監視されてるような気がするし、他人の目が気になり過ぎて平常心が保てなくなるんです」

人前に出ることを極端に恐れるようになった小西さんは仕事を辞め、ニート生活を数カ月送った後に結婚している。

「夫とはマッチングアプリで知り合いました。彼は心療内科医なので私のメンタルにすごく理解があるんです。経済的に余裕があるので私は働きに出なくてもいいし、家事さえこなせばずっと家に引きこもっていられるという恵まれた環境にいるんですが、目下の悩みは子づくりですね。夫がすごく子供を欲しがっているんです。妊娠さえすれば、検診や出産は自宅でもできるみたいですけど、育児が無理です。外出が苦手で対人恐怖症気味の私にとっては、公園デビューとかママ友とか不可能だし、『子連れさま』が何かと炎上している今の世の中で子育てする勇気はありません」

SNSによって歪んでしまった妻のメンタルを最優先に考え、日頃からその意思を尊重している夫が、唯一妻に求めているのが「子供」だそうだが、心療内科という立場上、夫は妻以上に悩んでいることだろう。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)
1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。