“引退”を表明したウォジナロウスキー氏。名物記者が報じた“トップ5スクープ”を米メディアが発表<DUNKSHOOT>

 NBAファンにとってはすでにお馴染みの存在ともいえる『ESPN』の名物記者エイドリアン・ウォジナロウスキー氏が、レポーター活動から引退することを現地時間9月18日(日本時間19日、日付は以下同)に自身のXで発表した。

 現在55歳のウォジナロウスキー氏がメディアのキャリアを開始したのは、まだ高校生だった37年前。地元コネチカットの日刊紙『Hartford Courant』がそのスタート地点だった。2007年からヤフー・スポーツの専属ライターとなり、7年前からは、これまでも寄稿者として執筆していた『ESPN』の専属となった。

 ちなみに引退を発表したメッセージの書き出しはこう始まっている。

「自分はESPN キャンパス(放送センター)から2マイル(約3.2km)のところで工場労働者の息子として育ち、スポーツライターで生計を立てることを夢見ていた」

 彼は実際にその夢を叶え、『ESPN』の看板記者になったのだった。
  ウォジナロウスキー氏といえば、なんといっても十八番はトレード情報のスクープだ。突如投下されて威力を発揮するその驚愕のスクープは“Woj Bombs”(ウォジ爆弾)の異名をとった。守備範囲も広く、NBAはもちろんのこと、高校バスケや欧州のユーロリーグへの移籍といった情報も、彼はいち早くキャッチしては世に送り出していた。

 そんなウォジナロウスキー氏がこれまで発信した中で最もインパクトが大きかったと思われるスクープのトップ5を、『USA TODAY』がピックアップしている。

1:新型コロナウイルス感染拡大のためNBAがシーズンを中断すると報じた投稿(2020年3月12日)

2: 当時ユタ・ジャズにいたドノバン・ミッチェルがコロナ陽性になったことを告げる投稿(2020年3月12日)

3:クリス・ポールのロサンゼルス・レイカーズ行きについて、NBAのオーナーたちがデイビッド・スターン・コミッショナーに圧力をかけ、契約を破棄させたという投稿(2011年12月9日)

4: ポール・ジョージのロサンゼルス・クリッパーズへのトレードを報じた投稿(2019年7月6日)

5:アンソニー・デイビスのレイカーズへのトレード(2019年6月16日)
  1については、いかに新型コロナウィルスが深刻な問題かを世に知らしめることになった、影響力絶大の投稿だった。2はミッチェルが親しい人物に、ルディ・ゴベア(NBAコロナ陽性第1号)がロッカールームでチームメイトを触ったり、彼らの持ち物にも触れるなど不用意な行動を取っていたと漏らしていたことも記されている。

 ポールのレイカーズ行きが実現しなかったことについて、オーナーたちが阻止したという陰謀説は噂の域を過ぎなかったが、3の投稿により、ウォジナロウスキー氏はこれが事実であったことを決定的にした。

 4はまったくノーマークの情報だっただけでなく、ウォジナロウスキー氏は「歴史的な数のドラフト指名権とともに」という詳細も書き加えており、実際オクラホマシティ・サンダーは5つの1巡目指名権と、ふたつの1巡目指名を交換する権利を手にした。5の方は噂にはなっていたが、やっぱり本当に実現するのか!とファンをエキサイトさせた投稿だ。
  まだまだこのほかにも数えきれないくらい存在しているが、何よりも“出所がウォジナロウスキー記者だと、ほぼ確実である”という信頼性は天下一だった。

 彼は駆け出しの頃から、選手であればベンチプレーヤー、コーチ陣ならアシスタントと親密な関係を築いていたそうだ。彼らがやがてクラブスタッフやヘッドコーチなどになった時に、ウォジナロウスキー氏にそっと情報を漏らしてくれる、強力な情報源になったことは想像がつく。

 しかし彼はそうしたスクープ記事専門なわけではなく、コラムや本も執筆している。高校バスケの伝説的コーチ、ボブ・ハーリー氏に密着した著書『The Miracle of St. Anthony』は高い評価を受けていて、ベストセラーにもなっている。

 年間ベストコラムニスト賞にも選ばれているが、一方でレブロン・ジェームズ(レイカーズ)について書いた否定的な記事など、物議を醸したものも存在している。

 最近では『The Athletic』のシャムズ・シャラニア記者が、スクープ記者として台頭してきた。
  ウォジナロウスキー氏とシャラニア記者、どちらが先にスクープを発信したかというライバル関係もSNSなどでは話題になっているが、シャラニア記者はもともとウォジナロウスキー氏に触発されてヤフー・スポーツで働き始めており、ウォジナロウスキー氏こそがシャラニア記者を育てた人物。よってライバル関係というよりも、ウォジナロウスキー氏は後輩が十分に育ったことで、自分の役割はもう終わったと感じたのかもしれない。

「時間には限りがある。これからはその時間をより自分にとって意義のあることに使いたい」
  そう語ったことを理由にウォジナロウスキー氏はスポーツメディア界から身を引くが、母校であるセント・ボナベンチャー大の男子バスケットボールプログラムのゼネラルマネージャーに就任した。今後もバスケットボール界でその能力を振るってくれるだろう。

 長くて覚えづらい名前ながら、NBAファンなら誰もが知っていた名物記者ウォジナロウスキー氏。彼の新たなキャリアでの活躍を祈って。

文●小川由紀子

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