1983年、本家アメリカ国外では初となるディズニーランドが千葉県・舞浜に開園し、昨年で40周年を迎えた。今なお国内有数のテーマパークとして君臨する一方、同時期に開発された周辺の町では、夢や魔法では解決できない厳しい現実も浮き彫りになっている。
ほとんど利用者のいない“玄関口の反対側”
東京ディズニーリゾートの最寄駅であるJR舞浜駅。南口には東京ディズニーランド・東京ディズニーシーなどのパークやホテルミラコスタなどの公式ホテル、複合施設・イクスピアリなどが点在し、パークを訪れる人を歓迎するかのごとく、降りた瞬間から幻想的な雰囲気が醸し出されている。
一方、“夢の国”に対してまざまざと現実を感じさせるのが北口だ。ほとんどの利用者は南口からディズニーリゾートやイクスピアリに向かうため、北口周辺がどのようになっているのかすらあまり知られていないだろう。
ここには、改札を抜けた瞬間から草原・高速道路・駐輪場が広がり、“夢の国”の玄関口として賑わう南口とは、駅舎を隔てただけとは思えないほど対照的な光景となっている。
北口は事実上、近辺に住む人だけが利用する出入口になっており、歩道橋を進むと舞浜2丁目と3丁目へのルートに分かれる。両地区はいずれも道路に囲まれ、その土地だけで独立した島のような住宅街になっている。
建ち並ぶのは、都内では確実に億を超えるであろう立派な一戸建てばかり。区画整理も完璧なほどに行き届いていて、等間隔に立派な家が並ぶ様は、まるで住宅展示場に迷い込んだかのようだ。
一方で築年数が古そうな家が多く、住民が長年住んでいる様子もうかがえる。実際、2020年の国勢調査データによると、舞浜2丁目の人口1979 人に対し、65歳以上が759人。3丁目も1594人に対して65歳以上が494人と、集落全体で高齢化していることがわかる。
ものの数百メートル先に夢の国が存在する陰で、なんとも現実を浮き彫りにしているこの町。シンデレラ城を頂く”城下町”は、いったいどんな事情を抱えているのか。話を聞くと、日本一のドル箱コンテンツに隣接する町ならではの歴史と、“高齢化”という日本全体の問題に直面している様子が見えてきた。
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買い物難民化で移動販売を開始
「すぐ近くだから、昔は家族でよくディズニーランドに行ってたね。歩いてものの数分だし、この辺に住む人の中には毎日のように、公園に行く感覚で行く人もいたんじゃないかな。すぐ行けるからと年間パスポートを買う人もいたと思う。でも、最近はそういう人も減ったんじゃないかな。自分もだけど、もう年取ってしんどくなってきたし」(70代女性)
「家が高そうって言うけど、別にこの辺りはフツーの家ばかりですよ? ディズニーランドと同じころに開発されて、わりと余裕のある人が住んできた。だからしょっちゅうディズニーランドに行ってる人もいたけど、最近は高齢化も進んでるしねぇ」(70代女性)
「今はやってないけど、昔は自治体からチケットがもらえたりしてね。子どもと行ったりもしていたけど、結婚したり就職したりで出ていくと行かなくなるよね。遊び回るのも、年取って体力的にしんどくなるし。最後に行ったのはいつだか忘れたけど、孫と息子夫婦と行ったかな」(80代男性)
高齢者となった近隣住民は、さまざまな事情から、かつてほど東京ディズニーリゾートと関わりがなくなったようだ。さらに深刻なのは、生活のライフラインでもある買い物だ。
近辺では舞浜2丁目にコンビニがある程度で、区画内にスーパーはなく、高齢化も重なって“買い物難民”も出ているという。これを解消するため、同3丁目では自治会が移動販売の取り組みも始めたそうだ。
「このあたりは近くにスーパーがなくて、車で10分くらいかかるの。買い物難民みたいな人が増えていたから、何年か前に移動販売が始まって、いろんなお店が出店して便利になった。でも結局どこも一緒じゃない? 多摩ニュータウンなんかもさ、昔は人がたくさんいる団地だったけど、今じゃ高齢化して買い物にも困ってて、移動販売とかやってるってテレビで見たわよ」(70代女性)
「3丁目では移動販売をやっているけど、2丁目からは結構歩くからね。結局コンビニが一番近い。サミットとかイオンとか大きいスーパーもあるけど、車は絶対必要だね」(70代男性)
東京ディズニーリゾートとともに歴史を歩むも、近隣住民は夢や魔法ではなく、現実と向き合っているようだ。さらに、周辺の事情に詳しい地元の市議会議員はこうも語った。