京都国立近代美術館で9月13日(金)から11月24日(日)まで、ファッションとアートを組み合わせた展覧会「LOVEファッション―私を着がえるとき」が開催されています(その後、熊本、東京を巡回)。今回は、この展覧会に作品を出展している現代美術家・澤田知子さんに、芸人ライターとして活動する、例えば炎・田上がインタビューをさせていただきました。芸術にまったく精通していない僕みたいな人が、どうやってアートを鑑賞すればいいのか、どう楽しめばいいのかということを聞きました!
出典: FANY マガジン
澤田知子(さわだ・ともこ)
成安造形大学写真クラス研究生修了、現在は同大学客員教授、関西学院大学非常勤講師。キャノン写真新世紀、木村伊兵衛写真賞をはじめ国内外で審査員としても写真にかかわる。学生のころからセルフポートレイトの手法を使って内面と外見の関係性をテーマに作品を展開、世界各地で展示。
2000 年度キヤノン写真新世紀特別賞、2003 年度木村伊兵衛写真賞、NY 国際写真センターThe Twentieth Annual ICP Infinity Award for Young Photographer など受賞多数。
作者が「自分で理解できない」アート?
――本日は、よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
――本当に申し訳ないんですが、美術とかぜんぜん詳しくなくて、めちゃくちゃ的外れな質問とかしてしまうかもしれません。すみません。
ぜんぜん大丈夫ですよ(笑)。私の作品って、ご存知ないですよね?
――まったく知らないのはマズイと思って、澤田さんのことをいろいろと調べてみたら、教科書に載っていて、「あー、この作品見たことある!」となりました。
教科書に載ってます! この作品じゃないんですが、「School Days」のシリーズが教科書に載ってます! この作品「ID400」は見たことはないですか?
――先日、澤田さんを調べたときに出てきたので見ました。こちらはどういった作品なんですか?
この作品は、私のデビュー作なんです。人間って服装が変わると、まわりの反応がすごく変わるなっていう、本当に単純な疑問から撮った作品なんです。
私は中学、高校と女子校に通っていたんですけど、制服を着ているときと土日の服装が変わったり、土日の服装のなかでもいつもと違う服を着たりすると、まわりの態度や対応が変わったりするのが、自分という人間は一緒なのに「なんでかなあ」とずっと思っていたんです。
出典: FANY マガジン
――そんな日常の疑問が、この作品の出発点なんですね。
そうなんです。この作品は旧式の証明写真機で撮っているんですけど、そもそも証明写真って、この人がこの人であると証明するものなのに、それを同じ人がいっぱい変装して作ったら、それはどうなるのかな、と。
簡単に外見は変わっても「私が私である」ということは変わっていないはずなのに、まわりの反応は変わってくる……それってどういうことなのかな、という疑問から、この作品を作ってみたんです。
――なるほど!
美術館にあまり行ったことない方や、美術はハードルが高いと思っていらっしゃる方って、たぶん作品になにか答えがあると思っているんじゃないですか?
――そう思ってます! この作品にはどういう答えがあるんだろなあと思って見ようとします。
実は、私もこの作品を100%理解できていないんですよ。
――えー!? 作品を作った人が理解できていないことってあるんですか?
あるんです! この作品を通して、人間の外見と内面の関係性ってなんなんだろうなと、ずっと答えを探求している感じです。
たとえば、田上さんの中の“外側と内側の関係性”、田上さんのことを見ている人が思う田上さんの“外側の内側の関係性”、そのほかにもいろいろな関係性があって、それってすごく矛盾していて、それがどういうことなのか知りたくて私は作品を作り続けているんです。
出典: FANY マガジン
答えがわかってやっているアーティストって、たぶん少ないと思うんです。答えがすぐわかるんだったら、作る必要がありません。なにかを知りたくて作っているけれど、ぜんぜん答えがわからない。この作品のほうが、私よりも先を行ってしまってるんですよ。
――えー、衝撃です! 作品を作っている人よりも作品のほうが先を行くことなんてあるんですか?
ありますよ。私は作品に追いつくのに必死で、ぜんぜん追いつけないんですよ。私の場合は、作品ができてから、作品に聞いて教えてもらうことのほうが多いです。お笑いでもそういうことないですか?
――同じ感覚かわからないんですが、自分たちの漫才の中で、なんでここがウケてるのかわからない箇所が出てくることがあるんですが、そういう感覚ですか?(笑)
あ、それかもです! それが作品のほうが先を行ってる感覚に近いかもです(笑)。
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答えを見つけなくていい
――アートは遠い世界だと思っていたんですが、お笑いに通じるところがあって急に身近に感じてきました。
よかったです。アートがわからないとおっしゃる方は、けっこういらっしゃるんですが、そういう方は、さっき言ったみたいに作品の答えを見つけようとして、わからなくなってしまっていると思うんですよ。私でさえ、私の作品についての答えがわからないので、作品の答えを見つけようとしたら混乱してしまうと思います。
でも作品を見て「好き」とか「嫌い」とか、「こういうことなんかなあ」と思うことはできると思うんです。たとえば、歌手でもアイドルでも、お笑い芸人さんでも、見に来ている人は、なんか面白いとか、楽しいとか、カッコいいとか、なにか感じるから来ていると思うんですよ。だから、アートも同じように作品を見て何かを感じるだけでいいんです。
出典: FANY マガジン
――何かを感じるだけでいいんですね! それならできそうです!
そういう気持ちで、ぜひ美術館に足を運んでほしいです。美術館のハードルが高いなら、1人ではなく誰かと行くとか、気軽にいろんな作品を見てほしいです。
お笑いと同じで、いろんなネタを見たら自分がどういうネタをする人が好きかわかるみたいに、いろんな作品を見ていくなかで、自分はどういう作品が好きか、というのがきっとわかってくると思います。