ソニーの6年ぶり新型カメラ「PXW-Z200」。プロの視点で見る新世代ハンドヘルドカメラ Vol.02 [Camcoder Odyssey-カムコーダの現在値2024-]

ズームレンズ

Z200は光学20倍のズームレンズを搭載している。同じ1インチセンサーを採用するZ150(2016年3月発売)は光学12倍であったため8年あまりの歳月の流れは大きい。

 
  


1インチセンサーによる余裕のある画作りを感じる
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広角端

注目すべきはズーム比よりも、ワイド端の広角化だ。私の記憶する限りでは、ソニーの業務用ハンドヘルド機としては最広角の焦点距離を持つはずで、次点はPXW-X180/160の26mmだったと思う。

現在、テレビロケのフィールドで活躍している代表的な3機種のワイド端を比較すると、Z280:30.3mm/Z190:28.8mm/NX5R:28.8mmとなっており、手持ちで振り回しロケを行うにはちょっと広角が足りない…。ワイコンを取り付けての運用は必須という感じだった。

当然ながらワイコンを取り付けると、重量の増加や光学的特性の劣化など、広角を得るのと引き換えにしなければならないデメリットも出てくる。

重量の増加に関しては、例えばNX5R対応のワイコンZunow WCX-80だとプラス290gとなる。

NX5Rのオペレーション重量約2.5kgにAZDEN SGM-250LXとZunow WCX-80を追加すると、2.91kg。Z200をワイコン不要で考えると2.52kgだったので、NX5Rとの差は約400gにもなる。今はバッテリーをZ200はBP-U35、NX5RはNP-F770で計算しているため、それぞれBP-U70とNP-F970の現場標準仕様にバッテリーを増量すると、少し差は埋まるかもしれない。

それでもワイコンでカメラ前方が重くなるのではなく、バッテリーでカメラ後方に重量が増す分には、手持ち撮影でも手首や腕への負担の掛かり方はかなり違う。

さて「Z200はワイコン要らず…」と言っているが、本当にワイコンは不要なのだろうか?

NX5Rのワイド端28.8mmにZunow WCX-80のx0.8ワイコンを取り付けた場合、焦点距離は23.04mmとなる。これがデジロケに慣れているカメラマンの身に染みついているデジのワイド端だろう。それと比べると、Z200のワイド端は24.0mmと1mm近く狭い。広角側の1mmなので、その差は決して小さくはない。

しかしながら実際にワイコンなしのZ200でロケを行ってみると、ワイドの広さで困ることはほぼなかった。極端に狭い場所に行っていないというのもあるだろうが、24mmといえばミラーレス一眼カメラなどで使い慣れている画角というのもあり、カメラの位置取りに悩むことはなかった。

 
  


24mmの広角端
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では、Z200にワイコンを付けた場合はどうなるだろうか?
幸い、Z200はNX5Rと同じ72mmのフィルター径を備えるので、NX5Rユーザーはレンズフィルター類をそのまま流用できる。

フィルター径は72mm。NX5Rなどのフィルター類が流用できる

仮にZunow WCX-80(x0.8)を取り付けたとすると、Z200の広角端24.0mmは19.2mmへと広がリ、一昔前のショートズームレンズ「キヤノン HJ11×4.7B」のワイド端に迫ることになる。

…が、そうは上手くいかない。Z200に0.8倍のワイコンを取り付けると四隅がケラレてしまうのだ。これは、Zunow WCX-80が焦点距離28~29mm台のNXシリーズの広角端を前提に設計されたワイコンであるので、広角端24mmのZ200に合わないのは当然である。現行ワイコンの全モデルを試したわけではないので確証はないが、恐らく現行のワイコンをZ200で使用するのは難しいと思われる。

72mm径のワイコンも取り付けられるが…

 
  


NX5R用のx0.8のワイコンだと四隅にケラレが発生する
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ただ現実問題もう少し広角が必要という場面は出てくるだろう。レンズ交換式ではないデジの場合は、ワイコンなどで対処するほかない。ソニーから純正ワイコンが出ることはなさそうなので、サードパーティ製でZunowあたりがx0.9ぐらいのワイコンを出してきてくれないだろうか…。

望遠端

望遠側は、光学20倍だが24mmスタートとなるため、NX5R(576mm)と比べると少し控えめの480mmとなる。しかし、全画素超解像ズームを併用することで4K撮影モードは1.5倍の720mm相当、HD撮影モードは2.0倍の960mm相当まで寄れる。テレビのデジロケの場合、その多くはHD収録になるだろうから全画素超解像ズーム2.0倍が使えることになる。

 
  


480mm(光学20倍)の望遠端
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全画素超解像ズーム(x2.0)による960mm相当の望遠端
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望遠端の画質だが、光学20倍での望遠端は目立った歪みや滲みもなく、解像感も悪くない。そこへ全画素超解像ズームを使うと、解像感は低下するが極端なデジタル臭さは感じず、そのまま光学特性が劣化していったような、ある意味で自然な画質になる。

また、Z200の全画素超解像ズームは、光学ズームの望遠端を使い切ってから機能が有効になるデジタルズームの一種だが、その切り替わりはほとんどわからないレベルでシームレスに移行する。常用で機能を有効にしていても問題ないだろう。ただし、ズームの速度によっては多少切り替わりを感じることがある。

ズームレスポンス

ハンドヘルド機の操作性で一番気になる性能の1つが、ズームリング操作によるズームレスポンスだ。Z200の場合、いくつか領域を分けて評価する必要がある。

まず、短距離のズームレスポンスはかなり良い。メカ式ズームを除けば、サーボ式ズームでこれほどレスポンスの良いズームはこれ以上は望めないと思える。

人にZ200のズームリングのレスポンスを聞かれて私がいつも答えるのは、「ENGなら寄れるタイミングだが、NX5Rなどのデジだと寄るのを躊躇する時があるはずだ。それが、Z200ならかなり自信を持って寄り引きできる」と。情報バラエティーなどの振り回しカメラであれば、遠慮なく会話に合わせてズームワークを行える。

一方、問題もある。まず、広角端から望遠端までの全域ズームに必要なリングの回転角度が大きい。ENGレンズの場合、その光学倍率に限らずズームの全域はリングを90°回転することで完結する。そのため、デジに求められるズームの操作系も全域ズームは90°で行われることが理想だ。というのも、90°であればリングを操作する指の形(体勢)を変えずに、ズーム操作をどの領域でも行うことができるからだ。

しかし、Z200は全域ズームを行うのに120°以上の回転角を要する。そのため、ズーム域の末端になると、人差し指だけ、もしくは親指だけでリングを送り出す操作になってしまい、多くの指がレンズ鏡筒から離れてしまう。

ちなみに、クイックに90°程度の角度でズーム操作を行うと、全体の70%程度の遷移率になる。

次に、「広角域から中望遠域」と「中望遠域から望遠域」のそれぞれのズーム領域で、ズームリングによるズーム遷移率に差があることだ。どうも望遠域の方が同じリングの回転量でもズームの動きが遅いようで、ぬる~っとした動きになる。

人物撮影なら、2ショットから1ショットは素早く寄れるのだが、その1ショットからさらにアップに行こうとすると、さっきのリングの回転感では寄り切れないというフィーリングに苛まれる…。

さらにズームアウト時の勝手な加速だ。望遠域~中望遠域をスタートにして広角端まで一気にズームアウトしようとすると、広角端付近で一気に加速したようなズームワークになる。

この場合も、カメラワークが並行して行われているため、カメラワークの決まりとズームワークの決まりが合わず、着地点が意図しない画角になる。

これらの問題点を抱えているため、Z200を使ったカメラマン達は「自分のカメラワークが下手になったかと思った…」と感想を漏らしている。実際のカメラワークはズームとともにパンワークも併用されるため、こうしたチグハグな動きが起きると、カメラの動きとズームの動きを連携させるのが難しくなる。

全域ズームの回転角度の問題は、サーボモーターの出力の問題も関係してきそうで、改善は難しいかもしれないが、他の2つに関しては、エンコーダーとアクチュエータの連携処理の問題であるはずなので、ファームウェアアップデートで改善できるなら手を入れてほしい部分だ。

スローズーム

Z200ではスローズームができるようになった。ソニーのデジはHVR-Z5Jあたりを最後にスローズームができなくなっていた。正確に言えばカメラで行える最低速ズームの速度が速すぎて、慚無い…情感の乏しい低速ズームしか行えなかったのだ。そのため、NX5RやZ280/Z190ユーザーは現場でのスローズームを諦めて、編集でのデジタルズームに任せることにしていた。

筆者のタイムコード・ラボでは、この10年あまりはソニー製デジは導入せず、JVC GY-HM600シリーズやキヤノンXF605をメインアームとして使用。これらのカメラは放送用ENGレンズばりのスローズームが可能であるので、撮影時に意図したスローズームを行っている。

しかし、NX5R指定のロケやクライアント所有のPXW-X200(2014年発表)を使用する際は、やはりスローズームは撮影時に行わず、編集に投げていた。

スローズームは、料理や商品撮り表現の他、音楽ライブ撮影などでも必要なワークである。高速駆動するサーボ性能と同等に、スローでじんわりとズームできる性能も大切なのだ。

また、一切映像が動かないFIXだと3秒しか視聴が保たないカットが、スローズームだと5秒保たせられるなど、尺調整にも重要な役割を果たす。実際、FIXで撮ったカットをディレクターが勝手に編集でスローズームを掛けているので、やはりスローズームはディレクターも欲しいカット表現なのだ。

Z200では右手グリップ部分のズームシーソーで可変速なスローズームが行えるほか、ハンドル部分のズームレバーでもスローズームが可能。速度を「1」に固定すれば、低速ズームを安定して行うことができる。

個人的にはJVC機に搭載されているような「プリセットズーム」機能が欲しい。この機能はユーザーアサインボタンに割り付け可能で、指定した画角まで指定のズーム速度で自動的にズームワークを行ってくれる。ボタンを一度押せば、あとは勝手にズームが進捗してくれる。そのためカメラ本体に触れ続ける必要がなく、ブレのない安定したスローズームができる機能で、JVC機で重宝している。

ところで、スローズームに関しては一点宿題もある。ズームリングによるスローズームがガクガクズームになってしまい、手動でのスローズームが難しいのだ。

これは、8月上旬にお借りした試作機だけの問題で、その後の製品機では改善されているとソニーから聞いているのだが、実際に製品版を手にしたユーザーや、また今回のレビューでお借りしたシリアル番号付きの個体でも、ガクガクズームが発生している。

個体差があるのか、私を含めて声を上げている全員が手動スローズームが下手くそなのか…、今一度検証する必要がある。

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手ブレ補正

Z200には光学機構でのみ手ブレを補正する「手ブレ補正スタンダード」と、さらに電子的な補正を付加する「手ブレ補正アクティブ」が搭載されている。

「手ブレ補正スタンダード」だけでもかなり強力でかつ自然な補正を行ってくれるため、ほとんどの手持ちシーンではスタンダードで十分だろう。強力に補正するが、カメラワークを行うときに妨げとなる様な画角の貼り付きも起きず、頼れる手ブレ補正だ。

「手ブレ補正アクティブ」を使うと、さらに強力な手ブレ補正が掛かり、望遠撮影や歩きながらの撮影などでしっかりとブレを押さえたい場合に有用だ。ただし、クロップが掛かって画角が狭くなる点には留意しなければならない。

アサインボタンに割り付けられる手ブレ補正項目

さて、ここまでは精度の違いはあれ、従来機と同等なのだが、嬉しい改良点もある。手ブレ補正自体の機能ではないのだが、手ブレ補正の有効/無効を切り替えるアサインボタンへの割り付け方法に選択肢が増えた。

NX5Rなどの場合、手ブレ補正の切替はOFF→スタンダード→アクティブ→OFFという順繰りの切替が行われていた。例えばスタンダード使用中からOFFにしたくても、アクティブを経由してしかOFFにできないため、一旦は画角が狭く変化してしまう問題があり、録画中や生放送・配信中は触ることができなかった。

Z200では、従来の順繰り切替も残しつつ、OFF⇔スタンダード/OFF⇔アクティブという設定も可能になった。早速、アサイン1にOFF⇔アクティブ/アサイン2にOFF⇔スタンダードを割り付けて使用した。

…と非常に有り難い改良が行われたのだが、ここで新たな問題が明らかになった。

スタンダード有効からOFFへと切り替えると、画角が大きくスライドするのだ。光学系で補正しているレンズ群が、OFFになるとセンター位置(デフォルト)に戻るため、ガクッと画が動いているのだろう。それだけ大きなブレでもしっかりと補正してくれていると言うことなのだが、結局OFF⇔スタンダードができるようになっても、録画/生放送・配信中は切替は行えないことになる。

それでも、ワンアクションでOFFと求める手ブレ補正を切り替えられるようになったのは、ありがたい。