アイリスダイアル
さて、このZ200で最大の物議を醸しているのが、3連リングを採用せずに2連リング仕様にし、アイリス操作をダイアルにした点だろう。そのアイリスダイアルは、鏡筒部分に添えた左手から指が届く位置ではあるのだが、撮影内容によっては使いづらい位置になると評価する。
カメラを構えるスタイルとして、左手をレンズ筐体の上方から包む「順手」と、レンズを下から支えるように添える「逆手」がある。どちらが順で逆でも良いが、ここでは前述のように定義づける。
Z200のアイリスダイアルの位置で「順手」持ちをした場合は、人差し指か親指でダイアルを操作することになるが、かなり不自然な指の体勢を取らないとダイアルを触れれない。
また、この指の体勢になった時点で、ズームリングやフォーカスリングを同時に操作することが困難であり、フォーカス・ズーム操作をすればアイリス操作が、アイリス操作をすればフォーカス・ズーム操作がワンテンポ遅れることになる。筆者は基本的には「順手」持ちをするので、実際のロケでも、それぞれの操作が常にワンテンポ遅れての操作になってしまった。
カメラマンは極力レンズ鏡筒から指を離したり、指の体勢を変えたくないと思っている。即応できる状態を維持するのは勿論、画角やフォーカス感を指の角度などで覚えているからだ。
そのため、同じダイアルでも「IRIS AUTO」と書かれた位置や、HVR-Z1Jのように筐体下部にレイアウトされていれば、左手のポジションを変えることなく、自然な指の体勢で触れただろう。
また、筐体側面の中央に配置するにしても、この出っ張った土台の上ではなく、本体と同一平面にあれば、HVR-V1Jのようなレイアウトで、操作性は向上したと思われる。
「逆手」の場合は、左手の親指がフォーカス/ズーム/アイリスを順次移動して操作するスタイルになる。「逆手」でのアイリスダイアル操作は自然に行え、指のストレスはない。しかし「逆手」は基本的に親指によるリング・ダイアルの順次操作になるため、「順手」操作より全ての操作がワンテンポ遅れる。また、先述の「指の形が覚えている…」というのが通用しない。
また、三脚に載せて運用する場合やハイアングル気味だと「逆手」のスタイルは取りづらい。
なお、Z200のアイリスダイアルの”ひと回し”は、明るさ一段分の変化にとどまる。大きく明るさを変える場合は、グルグルと何度かダイアルを回す必要があることには要注意だ。
手持ち撮影に限って言えば、右手グリップ部分に人差し指で操作できるダイアルが用意されていれば良かったのになぁ…と思う。そうすれば、左手は2連リングから離れることなく、右手人差し指でアイリスをアサインしたダイアルを操作できるからだ。
一点、ソフトウェアで追加して欲しいのが、アイリスダイアルの回転方向の設定だ。現在のアイリスダイアルは、上に回すとアイリスを絞り(暗くなる)、下に回すとアイリスが開く(明るくなる)。確かに「アイリスリング」と同じ挙動なのだが、不思議なことにリングではなくダイアルになった途端に、その回転方向に違和感を覚えてしまった。
感覚的にはダイアルを上に回すと明るくなって、下に回すと暗くなるリバース設定も付けて加えてほしい(現在は、アイリスダイアルの設定項目はなし)。
リングアサイン機能(予定)
2025年6月に予定されているアップデートで、2連リングに機能を割り当てることができるようになる。アサインの詳細については、別途案内があるようだ。
ソニーとしてはオートフォーカスに大きな自信を持っており、フォーカスはオートに任せて、ズームとアイリスは従来通りレンズリング操作で…。あるいは、ズームはズームシーソーを使って操作し、フォーカスやアイリスをリングに割り当てるなどの構想もあるようだ。
しかし実際の現場では、必ずしもオートフォーカスが的確に動作する「被写体認識」できる被写体ばかりを撮影するわけではないし、ズームシーソー操作もバラエティー向きではない。
ところで、もしもアイリス操作をレンズリングにアサインできるようになった場合、元々備わっている「アイリスダイアル」はどのように扱われるのだろうか。無効になるのか?「アイリスダイアル」「アイリスリング」ダブル対応になるのか…。
可能であれば「アイリスダイアル」を「フォーカスダイアル」として使用できる選択肢を作って欲しい。そうすれば基本はオートフォーカスで使用して、必要な時に「AFアシスト」として「フォーカスダイアル」で介入操作をできる様になる。
完全にオートフォーカスに任せるというのは、プロの世界では難しい。仮に、意図していない被写体にピントが合い続けてしまったり、オートフォーカスが迷ってボケてしまったりして、大切な瞬間を撮り逃した場合、ソニーが責任を取ってくれるのだろうか?
マニュアル操作で失敗した場合は自分の腕が未熟だったと認め、責任を取ることも納得できるが、機材のせいで失敗したことをカメラマンに押しつけられるのは納得できないだろう。どれだけ「機械の性能がぁ…」と言い訳したところで、クライアントや視聴者には関係のない話だ。
オートを上手く使いこなすのもプロには絶対必要なスキルだと考えているが、オートだけに頼った撮影というのはリスクしかない。ぎりぎりのリスクヘッジとして、AFアシストでオートフォーカスに介入できるように、アイリスダイアルへのフォーカス割り当てなどは検討してほしい。
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最短焦点距離(M.O.D)
さて、ズームの挙動の課題や、アイリスダイアルとのつきあい方などを見てきたが、ソニーZ200の購入を私が考えるときに一番ネックとなっているのが「最短焦点距離」の長さだ。最短焦点距離(M.O.D:Minimum Object Distance)とはピントが合う最短距離のことだ。特に問題になるのが望遠側でのM.O.Dである。
M.O.Dはイメージセンサ―Z200ならCMOSの撮像面からの距離であるのだが、Z200には距離基準マークが印字されていないので、正確なM.O.Dはわからない。
そのため、レンズ前玉から被写体までの距離「ワーキングディスタンス(W.D)」を基準に話を進める。
Z200の望遠端でのW.Dは「100cm」。おそらくM.O.Dは110cmを超えるだろう。これは、デジとしては、かなり長いW.Dだ。つまり、ズームレンズを最望遠にしてアップで被写体を撮る場合、カメラのレンズ先から1m以上離れていないとピントが来ない、ということになる。
バラエティーロケをやっているカメラマンなら、このW.Dはかなり厳しいということがわかるだろう。演者の手元にズームアップするとピントが来ないことがしばしば起きるということだ。
もちろんクローズアップレンズを取り付ければ最短焦点距離の短縮は可能だが、会話軸でカメラを振り回している最中にクローズアップレンズを付けたり外したりすることは不可能だ。
実際、8月初旬から何度もZ200をテレビロケに連れて行って撮影を行っているが、このW.D=1mにかなり泣かされている。
「W.Dが1mなら、対象から離れれば良いだけでは?」と思うかも知れないが、そうはいかない場面というのがロケにはしょっちゅうある。特に演者の作業する手元を肩越しに撮影するとか、調理シーンの撮影などだ。
確かにカメラマン自身が少し離れればフォーカスを持ってくることはできるが、例えば鍋で調理をしているとか、深さのある箱の中で工作をしている…などといった行程は、離れてしまうと容器のフチなどで中身が見えなくなってしまう。Z200を使ったバラエティーロケは身長180cmを超える高身長カメラマンぐらいしか生き残れなくなる未来が見える!
冗談はさておき、今までのデジであれば問題なくピントが来ていた距離感が通用しなくなることは確かだ。
ちなみに、ロケデジのデファクトスタンダードであるソニーHXR-NX5RのW.Dはというと。ワイコンなしで77cm、x0.8のワイコン装着時で53cmとなる。
53cmである!
NX5Rでロケをしている場合は、ほぼワイコン装着仕様だと思われるので、ほとんどのバラエティカメラマンは、この55cm前後のW.Dに慣れており、その感覚でカメラを振り、ズームワークをしているはずだ。
当然ながら、インサートで商品接写などを行う場合はクローズアップを取り付けることで解決はする。しかし、NX5Rならクローズアップレンズを取り付けるまでもないような雑感インサート的なカットでもクローズアップがないとピントが来ないなど、煩わしい場面に何度も遭遇した。
このM.O.DやW.Dの問題はファームウェアのバージョンアップではどうしようもない。光学設計の段階でハードウェア的に決まってしまっているのだ。
しかし、一つだけ解決方法がある。まぁ、絶対にソニーはやらないであろう対応方法だが、解決策としてここに書き残す。それはハイブリッドズームの併用だ。ハイブリッドズームとは光学ズームとデジタルズームを混合したズーム方法。パナソニックがそういう呼称を使っていたような気もする。
Z200の場合、デジタルズーム処理は光学ズーム域を使い切ってから全画素超解像ズームが始まる。しかし、キヤノンやJVCのデジタルズームは違った処理を行っている。キヤノンだとアドバンストズーム(XF605)、JVCだとダイナミックズーム(GY-HC550)という機能名で実装されている。
これらのズームは光学ズームとデジタルズームを同時に行うズーム方法で、光学的にズームを始めると同時にデジタルズーム処理も並行して始まり、望遠端で光学的にもデジタル的にも最大望遠になる。メリットは、光学域とデジタル域を意識せずに使えること。XF605のような端付きズームリングでも使えること。デメリットは光学のみと比べると画質的には不利になることだろうか。
なお、この機能はオーバーサンプリングから必要解像度を得ている記録フォーマットに限るので、多くの場合はHDフォーマットでのみ有効になる機能だ。
そして、このハイブリッドズームはM.O.Dの改善に繋がる。例えば、キヤノンXF605の場合だと光学15倍の望遠端(z99)でのW.Dは57cmである。しかし、アドバンストズームを使った場合、光学15倍で得られる画角(アップのサイズ)をデジタルズームが併用されることで約80%(z81)の焦点距離で得ることができた。M.O.DやW.Dは広角ほど短く、望遠ほど長くなるため、光学の最望遠端(z99)よりも手前であるこの焦点距離(z81)だと、W.Dが11cmとなり
、光学ズームだけでアップにするよりも短いW.Dを得ることができるのだ。
実際、キヤノンXF605でアドバンストズームを常用するようになってから、料理接写ですらクローズアップレンズを付けることがなくなった。調理場での調理工程と客席テーブルでの料理接写を行ったり来たりするようなロケでは大助かりだ。
光学ズームとデジタルズームの組み合わせを、概念図にしてみた。話を判りやすくするために、広角25mmで光学20倍ズーム、デジタルズームでx2.0という架空のレンズを想定して、ソニーの全画素超解像ズーム/ハイブリッドズーム/デジタルエクステンダーによるズーム概念図を描いてみた。
ハイブリッドズームに関しては、画質を維持するためにデジタルズーム処理が単純なリニア変化になっていないと思われる。XF605の挙動を参考にした値で、参考例を提示している(正しいかどうかは不明)。
ここで見るべきポイントは、500mm相当を達成するのに、光学ズーム値(z値?)がいくらになっているかということだ。同一の焦点距離の画角を作るのにz99よりも小さなz値で達成できるため、より短いワーキングディスタンスを利用できる。
仮にZ200にハイブリッドズームが搭載された場合、HDフォーマットであれば光学望遠の約80%(z80)で最大光学望遠(z99)と同じ画角を得られると仮定する。その場合、z80の焦点距離でのW.Dは77cmとなり光学20倍の望遠端ではフォーカスが来ない100cm未満の距離でもアップの撮影を行うことができる。
同じような効果は、デジタルエクステンダーでも得られるが、その場合はワイド端の広さが犠牲になるので、振り回しのロケ向きではない。だが次善策としては使えるので、上記のようなハイブリッドズームを搭載しなくても、せめてデジタルエクステンダーを実装してほしい。なおデジタルエクステンダー(x2.0)の場合ならz50で光学ズームのz99と同じ焦点距離を得られることになる。その場合のZ200のW.Dは36cmとなる。これはこれで魅力的だ。