人間なんてしょせん肉の塊
――厳しさを求めて入った警察学校はどうでしたか。
まず外との通信ができないように携帯電話を取り上げられます。髪形も男子は完全な丸刈りで女子はスポーツ刈り。起床と就寝の時間は決まっていて、まさに「学校」でした。つらい面もありましたけど、逆にその厳しさが良かったですね。
あと、教官と関係性を築くのがうまかったんですよ(笑)。毎日A5くらいのノートに日記を書いて、それを教官がチェックするんですが、そこに「教官の授業はすごくわかりやすいです」とか書いてアピールしてたんですよ。教官に気に入られるかどうかで警察学校の生活のしやすさって変わってくるんですが、私はそこはうまくやってたので楽しかったです。
――ただ、いざ警察官になって交番勤務になるとうまくいかなかった。
楽しくなかったですね。あまりにも仕事ができなさすぎて、できない自分に落ち込んでました。
あと警察官って本当に感謝されない仕事で、交通切符を切ったら怒られたり、普通に街を歩いてるだけで変なおっちゃんに「税金泥棒」って言われたり。なんでこんなに怒られなきゃいけないのかと、段々しんどくなっていきました。
――警察官時代は人の死について考えることも多かったとか。
私が所属してた署は人数が少なく、交番勤務以外もいろいろとやらされてたんです。「経験のために行って来い」って言われて、刑事さんの付き添いで大学病院で検視解剖の手伝いもしました。
解剖医に「今から頭を開けるから、下で脳みそを受け取って」と言われるんですよ。ドリルで頭をグリグリ開けて、頭蓋骨をぱかっとやって落ちてきた脳みそをトレーで脳を受け取ったり。
事件性があるかどうかを調べるので、取り出した臓器を全部写真で撮るんですけど、私は台に臓器を置く係。「食道、持ったことあるか?」と聞かれて食道を持ったこともあります。
それを見た時、人間なんてしょせんは肉の塊だなと思いました。
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同期の自殺。「明日が来るのがもう怖い」
――その体験は大きいですね。ただ警察官の仕事を続ける中で、ついには精神的にまいってしまった。
日々怒られることで、だんだんすり減っていったんだと思います。
自分でいうのもあれですが、警察学校ではすごくできた方でした。運動もできたし、勉強もできて、教官にも褒められることが多かった。でも、現場に入ったら自分は何もできなくて。完璧にやらなきゃって思ってたから、自分でも自分を追い込んで、それで病んじゃって。仕事を始めて3〜4か月くらいの頃です。ストレスの捌け口は食で、急に太っちゃって。そんな自分にもさらにストレスを感じてました。
そんな時、勤務中にテレビをつけたら同期の子が自殺をしたというニュースが流れたんです。警察学校の時にはずっと成績1位で、めちゃくちゃ優秀な子で、警察学校時代はクラスも違ったし、そこまで仲が良かったわけではないですけど、しゃべったことはある子でした。
ただでさえ心がきついのに、知っている人が自殺をして、もうショックで…。
――精神的に追い込まれた状態で、そのニュースはきついですね。
その頃には本当に精神的にしんどくて、眠れない毎日でした。で、ある日、ずっと寝られず、深夜4時に涙が止まらなくなってしまって。これはもうダメだと思ってお母さんに電話したんです。「明日が来るのがもう怖い」って。
お母さんから、「もう、とりあえず仕事場に行かなくていいから、上司に電話しなさい」と言われたので、朝、上司に電話してその日は休みました。お母さんもその日、私のところに来てくれて。「もう辞めてもいい?」って聞いたら「いいよ」って言ってくれたので、警察を辞めました。
(#2へつづく)