9万年前に起きた「日本最大の巨大噴火」の被害範囲の全貌が明らかに! / Credit: canva

巨大カルデラ噴火は火山下のマグマが一挙に地上に噴出する壊滅的な噴火を指し、将来的に日本で必ず発生すると言われています。

特にその可能性があるのが熊本県に位置する「阿蘇山」です。

もし阿蘇山で巨大カルデラ噴火が起きたら、日本は一体どれほどの被害を受けるのでしょうか?

産業技術総合研究所はその答えを探るため、約9万年前に発生した日本最大の巨大噴火「阿蘇4噴火」の被害範囲の全貌を明らかにしました。

それによると、噴火に伴う火砕流は九州中部〜北部にいたる平野部の大半に到達。

さらに阿蘇から約1600キロも離れた北海道東部でも、空から降下した火山灰がところにより1〜15センチの厚さで積もっていたとのことです。

本研究の成果は、将来的な防災対策や国土利用計画への活用が期待されます。

目次

日本で最後に巨大噴火が起きたのは約7300年前だが…火山灰は1600キロも離れた北海道まで広がる

日本で最後に巨大噴火が起きたのは約7300年前だが…

巨大カルデラ噴火は、広大な範囲を火砕流によって壊滅させ、国土の全域におよぶ火山灰を引き起こすと予想されます。

特に火砕流は、超高温の火山ガスとマグマの混合物が時速数十〜四百キロという猛スピードで流れるため、飲み込まれれば命はありません。

また巨大カルデラ噴火は、その名の通り、壊滅的な噴火のあとに直径2キロ以上にわたる窪地(カルデラ)を作り出します。

火山下のマグマ溜まりが噴出によって空になり、その天井が崩れることでカルデラとなるのです。

これは過去に何度も巨大カルデラ噴火を起こした阿蘇山にも見られます。


阿蘇カルデラの空撮(2014年5月) / Credit: ja.wikipedia

日本で最後に巨大カルデラ噴火が起こったのは、今から約7300年前の縄文時代です。

それ以降は幸運なことに発生していませんが、地質学的な証拠から「将来的には100%発生する」と専門家は指摘します。

そのため噴火の再発に備えて、被害範囲を正しく予測し、事前に対策を整えておくことが不可欠です。

そこで研究チームは、9万年前に阿蘇山で起きた国内最大の巨大噴火「阿蘇4噴火」の全体像を明らかにすることにしました。

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火山灰は1600キロも離れた北海道まで広がる

阿蘇山は、九州中部の熊本県に位置する日本有数の活火山であり、約27万〜9万年前にかけて4度の巨大カルデラ噴火を起こしています。

年代の古い順に「阿蘇1噴火(約27万年前)・阿蘇2噴火(約14万年前)・阿蘇3噴火(約13万年前)・阿蘇4噴火(約9万年前)」と呼ばれ、中でも阿蘇4噴火は日本で最大、世界でも2番目に大きな巨大噴火です。

阿蘇4噴火の火砕流は九州北部まで広がり、一部は約170キロ離れた山口県内にも到達していることが示唆されていました。

しかしそれらの被害情報は断片的なまま散在しており、これまでまとまった”火砕流の分布図”が作成されていなかったのです。


上空から見た阿蘇カルデラの地形図 / Credit: ja.wikipedia

そこでチームは、火砕流の詳細な分布、堆積物の層の厚さ、日本全域に堆積した火山灰の分布などをデジタルデータで整備することで、阿蘇4噴火の被害の全貌を調査。

それにより、これまで簡略的にしか分かっていなかった「阿蘇4火砕流の分布図」を完成させました。

こちらは九州を中心とした火砕流の分布図です。

中央の阿蘇山を中心に、

・北西方向では約120キロ離れた佐賀県西部や長崎県内

・南西・南東方向では約100キロ離れた熊本県天草諸島や宮崎平野南部

・北東方向では約170キロ離れた山口県中部

まで被害が確認できます。


阿蘇カルデラ阿蘇4火砕流堆積物分布図 / Credit: 産総研 – わが国最大の巨大噴火の全体像が明らかに(2023)

火砕流は九州中部〜北部にかけての平野部の大部分に到達し、さらに福岡市・北九州市・熊本市の3つの政令指定都市を含む7県の範囲を覆っていました。

また阿蘇山に近い熊本県・大分県内では厚いところで50~100メートル以上、佐賀・福岡・宮崎県内では厚いところで10メートル以上の火砕流の堆積が見られます。


福岡市および北九州市付近の拡大図 / Credit: 産総研 – わが国最大の巨大噴火の全体像が明らかに(2023)

それから、噴火により上空に舞い上がった火山灰の主な到達地点も確認されました。

それによると、阿蘇カルデラから1600キロ以上も離れた北海道東部でも、火山灰がところにより15センチの厚さで堆積していたのです。

火山灰の影響は国土のほぼ全域に及んでいます。


火砕流に伴う阿蘇4火山灰の分布図 / Credit: 産総研 – わが国最大の巨大噴火の全体像が明らかに(2023)

神戸大学のマグマ学の専門家である巽好幸(たつみ・よしゆき)氏は、もし阿蘇山の巨大噴火が起きると、日本は次のような事態に陥ると指摘しています。

「まず九州が焼き尽された後、中国・四国一帯では昼なお暗い空から大粒の火山灰が降り注ぐ。

そして降灰域はどんどんと東へ広がり、噴火開始の翌日には近畿地方へと達する。

その後、首都圏でも20センチ、青森でも10センチもの火山灰が積もり、北海道東部と沖縄を除く全国のライフラインは完全に停止する。

水道は取水口の目詰まりや沈殿池が機能しなくなることで給水不能となる」

氏の指摘は今回明らかになった分布図と一致しており、たとえ熊本から遠く離れた場所でも被害が十分に及びうることを示しています。

研究チームは今後、約13万年前以降に日本で起きた他の12件の巨大噴火についても同様の調査を行う予定です。

いつ起こるか分からない火山の噴火を日頃から心配している人は、そう多くないかもしれません。

しかし、日本で巨大噴火が起こる日は必ずやってきます。

そのときのために、あるいは私たちの子孫に命を守るヒントを残しておくために、今から対策と準備を進めておく必要があるでしょう。

参考文献

阿蘇4火砕流堆積物分布図【産総研マガジン・研究者にきいてみた!】
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20230413.html

わが国最大の巨大噴火の全体像が明らかに
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20230412/pr20230412.html

“700万人瞬殺”の悲劇を防げ──阿蘇山・カルデラ噴火の恐ろしさ
https://www.gqjapan.jp/culture/column/20160606/mount-aso-the-supervolcano

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。