火山の動向を探るための噴火後調査は危険と隣り合わせ

――火山噴火後の調査報告書をいくつか拝見させていただきました。早いものだと噴火翌日には調査が行われていますが、噴火後の調査はどの程度のスピード感が求められるのでしょうか。

石塚:結論から言えば、早ければ早いほうがいいですね。なぜかというと、火山の場合、噴火が起こった後に次にどうなるかを判断する必要があるからです。

地震とは異なり、火山では最初の噴火の後により大きな噴火が起こる可能性や、逆に定常的な活動に移行したり収束したりする可能性があります。これを見極めるために、様々なデータの解析が必要となります。

――噴火後に火山灰の採取やガスの調査などを行うとき、一般の方が避難している場所に研究者の方々は立ち入ることもあるのでしょうか?

石塚:基本的に立入禁止区域には研究者も入りません。例外的に、事前申請を行い、安全が確保できると判断された場合のみ、規制区域内に入ることがありますが、基本的には規制区域のギリギリまで入って行うことが多いです。

例えば、2018年に白根山が噴火した時は、火口から2キロ圏内が立ち入り禁止になっていたので、その外側の山の中を、スキーを履いて移動しながら、火山灰の堆積状況などを調べました。

―― 2キロ圏外からでも、火山灰の調査はできるものなんですね。

石塚:そうですね。火山灰は風に乗って広範囲に拡散するので、噴火の全体像を把握するには、できるだけ広いエリアをカバーする必要があります。

私たちは、規制区域のすぐ外を歩いて、次々とサンプリングポイントを変えながら、火山灰を採取していきました。

――白根山の調査では火山灰が雪に挟まれていた写真が印象的でした。


2018年草津白根山噴火(1月)で雪の中で行われた調査の様子/Credit:産業技術総合研究所 地質調査総合センター(撮影:石塚)

石塚:あのときは噴火の翌々日に調査に向かったのですが、噴火後にかなり雪が降ったので、雪の中に火山灰がサンドイッチされているような状態でしたね。これを雪ごと持って帰って火山灰の重さを測定することで調査を行いました。

――雪ごとというと、かなりの重さですよね?それを持ちながら雪山を下るというと…

石塚:そうですね。かなり体力がいります。

――少し話が変わりますが新燃岳の調査報告書では火山灰が大量に車に積もっている写真もありました。機材や車などに詰まって故障するのではと心配になったのですが、そのようなトラブルの経験はありますか?


2017年霧島新燃岳噴火(10月)での火山灰調査/Credit:産業技術総合研究所 地質調査総合センター(撮影:石塚)

石塚:通常の火山灰の量では、車や機材が簡単に壊れることはありません。

ただし、2000年の有珠山噴火の際は、粘土質の火山灰が大量に降りました。このため車のサスペンションに火山灰が詰まって固まり、ハンドル操作が困難になるなど、怖い思いをしたことがあります。

ただ、桜島のような定常的に噴火している火山の火山灰では、これまで機材が壊れたという経験はありません。

――その他にも火山灰によって困ったことはありましたか?

石塚:私はコンタクトをつけているのですが火山灰の細かい粒子で目がチカチカすることがあります。

調査の際はゴーグルの着用が欠かせません。

――ここまで火山灰の調査について伺いましたが火山ガスの調査についてはいかがでしょうか。ガスは目に見えないのでまた違った危険性があると思います。どのような安全対策を取られているのでしょうか。

石塚:火山ガスの専門家は、防毒マスクなどの保護具を着用し、細心の注意を払って調査しています。

最近では、ドローンなどの無人機を活用することで、危険区域に直接立ち入ることなくガス観測ができるようになってきました。

それでも、調査地点では硫黄臭などガスの存在を感じることはあります。よく勘違いされますが、危険な火山ガスである硫化水素は硫黄臭などなく無臭なので注意が必要です。

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まるで探偵!研究者が火山灰からわかること

―― 火山噴火後の動向を探るために火山灰を調べるとありましたが、具体的にはどのようなことがわかるのでしょうか?

例えば、マグマ性なのか、水蒸気爆発なのかというのは、どうやって判断できるんでしょうか。

石塚::まず、火山灰の量についてお話しすると、私たちは火山灰の分布を細かく調べることから始めます。

多くの地点でデータを取り、それを面的に広げていく。そうやって立体的に分布を把握していくんです。それで火山灰の総量を見積もるわけですが、これは警察の捜査にも似ていますね。

次に、火山灰の性質について。マグマ物質が含まれているかどうかで、マグマ噴火なのか、水蒸気噴火なのかの判断をします。

例えば、火山灰に発泡した軽石があるとか、新鮮なガラス片が含まれているといった特徴があれば、マグマ噴火の可能性が高いです。

ただ、こうした判断は簡単にできるものではなくて、火山灰をたくさん見て経験を積まないと、瞬時の判断は難しい。高度な知識と経験が求められる世界だと言えます。


2017年霧島新燃岳噴火による火山灰の顕微鏡写真:(赤丸)ガラス光沢のある暗色粒子、(青丸)半透明の淡色粒子、(白丸)表面に黄鉄鉱が付着する白色粒子。/Credit:産総研 地質調査総合センター

―― 火山灰の分析って、研究者の経験や能力に大きく左右されるんですね。

石塚:そうですね。火山灰の分析は、どうしても属人的になってしまう部分があります。物理学や地球化学の専門家でも、火山灰をあまり見慣れていない人には、判断が難しいかもしれません。

でも最近は、AIを使って火山灰の自動識別を進める研究も始まっています。将来的には、ある程度自動で判別できる時代が来るかもしれませんね。

―― AIで火山灰の分析が自動化されたら、研究の幅も広がりそうですね。

石塚:その通りだと思います。

ただ、最終的な結論を出すには、やはり研究者の判断が必要になるでしょう。

AIには大量のデータを分析させて、こんな感じだというところまで持っていく。その上で、人間の研究者が考察を加えて結論を導き出す。そんな流れになるんじゃないでしょうか。

―― ベテラン刑事の勘みたいなものが大事なんですね。長年の経験から培われた、目利きの力というか。

石塚:そういう面はありますね。火山灰を長く見続けてきた人には、パッと見ただけで「これは」と直感できるものがある。

もちろん、科学的な根拠に基づいた判断であることが大前提ですが、そこに研究者の勘みたいなものが加わることで、より深い考察ができる。

火山灰の分析には、そうした研究者の経験知が欠かせない部分があるんです。