メディシンボール投げや垂直跳びに加えて読解力テストも――アメリカの「ドラフトコンバイン」形式で行われる西武の入団テストに感じた大きな可能性<SLUGGER>

 ドラフト候補の高校生全員が受験すべき――3年目に突入した西武の入団テストを取材して、改めてそう思った。

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「入団テスト」と聞くと、どうしても12球団トライアウトのような雰囲気を想像してしまうが、西武が目指している逸材発掘はそれとはまた別の次元にある。

「MLBのドラフトコンバインのようなイメージですね。本当を言うと、12球団でやりたい。たくさん測定をしてデータを採るんですが、そのメニューは一律でいいと思います。どこを評価して、育成につなげるかはそれぞれですから。言ってみれば、そこが球団の専門家たちの腕の見せ所。いつかはそうなってほしいですね」

 そう語るのは、西武の統括部室長を務める市川徹氏である。

 ドラフトコンバインとは、NFLやNBA、MLBなどでアメリカのメジャースポーツで実施されているもので、ドラフト候補が一堂に会して短距離走などさまざまなテストを受け、身体能力の数値を測定したり、面談を行ったりする。球団にとっては、選手個々の能力を可視化することで指名の根拠としたり、入団後の育成法のヒントを得るメリットがある。トラックマンの数値などを自ら売り込むドラフト候補生もいると聞く。

 西武のプロテストもそれに倣っている。トライアウトのような投手対打者の対決も実施するが、それらはあくまで数値とスキルのすり合わせのようなもの。午前中のほとんどの時間を使って行うのは選手の能力を可視化する測定会だ。

 50メートル走はただタイムを測るというものではなく、光電管の光の反応とともにスタートする。その反応スピードを見ているのだ。20メートル、30メートルの位置にもタイムが取られ、20メートルまでは速いが50メートルはそれほどでもない選手、あるいは逆の選手など、それぞれ特徴が出るのが興味深い。 育成統括ディレクターの秋元宏作氏は言う。

「50メートルはそれほどでもなくて、20メートルが速い選手はひょっとしたら盗塁に向いているのかもしれない。そういった、普段は見ることができないところで選手を評価するのがこのテストの狙いでもあるんです」

 この他にも、メディシンボール投げや垂直跳びなども計測し、光電管の光に合わせて反復横跳びのように動き回るテストもある。そして、測定会の最後には、自転車を短時間漕いで出力量を図る。また、読解力テストも実施していた。測定はライオンズの選手たちが日常的に行っているから、彼らとの対比もできる。一軍の選手の数値と比較して個々の成長度を見極めることは、育成においては重要だろう。

 秋元氏は続ける。

「基本的な考え方としては、スキルはいまひとつだけど、フィジカルが伸びしろとしてついた時にスキルも伸びる。あるいは、スキルはある程度持っているけど、フィジカルのある部分がもっと伸びれば成長できるんじゃないか。現在持っているものと将来的な伸びしろを堀り下げていきたいなと思っています」

 言い換えれば、スカウトの判断とはまた別の要素で選抜される可能性があるということだ。本人がまだそれほど自覚を持っていない能力が見出され、そこから「将来の可能性」を評価されてプロ入団に近付くというのであれば、これほどの機会はないだろう。 ここ2年はスピードのある野手が指名に至っているという傾向はあるものの、今後はまた別のスキルを持った選手が指名される可能性は十分ある。

 その一方で、合否に関係なく、高校生がこのプロテストを受ける意義があることも見逃せない。彼らにとって、ここでしか得られない収穫があるからだ。

 今回のテストに参加した6人の高校生のうち、最大の注目選手はこの夏の甲子園にも出場した聖カタリナの有馬恵叶だ。甲子園では初戦で敗退したもののストレートの最速は146キロを計測。ドラフト候補の一人に上がっている。実は、プロテスト受験時点では西武からの調査書はまだ届いていなかった。

「甲子園が終わってから監督に受けてみたらどうかと言われました。受けたことが噂になって価値が上がったりするのかなって。受けてみて、ストレートは持ち味を出せたかなと思います。すごい環境も整っている。自分もやったことないテストがあったんで、『何でこのテストをやるんやろう』とか、『この瞬発力、ここに生きるのか』とか考えてすごいなと思いました」 ドラフト候補と注目されながら、神奈川県大会の初戦で敗退した平塚学園のエース三村幸次郎はこう語る。

「県大会では初戦で負けてしまって、言い訳みたいになるんですけど、大会前の練習試合で爪が割れちゃって、カットボールやスライダーが全然曲がらなくなってしまった。それで試合に負けて、8月くらいに監督から受けてみたらどうかと言われて受験しました。キャッチボールの相手の方がリリースの時にパチンという音がして、そんな人を見たことがなくて、上には上がいるんだなと思いました。テストの測定も初めてやったものばかりで、プロはこんなところも見るんだというのを知りました。マウンドで投げている時に、隣のベルーナドームの応援が聞こえてきて、今ままではファンとして見てきたんですけど、本当に一軍のマウンド立って投げたいなって思いました」

 プロの施設でテストを受け、最新の機器で数値を見てもらえる。さらにすぐ隣で一軍が試合をしている様子が聞こえてくる中でのプレーというのはなかなか体験できるものではない。

 選手たちの輝いた目を見ていると、このテストが彼らにとって絶好の機会であることがよく分かる。例えドラフト指名につながらなかったとしても、自分が今後どんな能力を伸ばしていくべきかの指針を得られるに違いない。球団側にとってはもちろん、高校生にとっても貴重で有意義な体験になったはずだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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