【伊達公子】小さい時に勝てるテニスを完成させてしまうとプロになって限界が訪れる<SMASH>

 日本テニス界の課題の一つに、ジュニア時代までは世界と対等に渡り合えても、プロになると上位で活躍できない選手が多いという点が挙げられます。日本人は欧米人とは体格や成長期が違うことが原因とも考えられますが、私は要因は他にあると思っています。

 それは「勝ちたい」と「勝たなきゃいけない」の微妙な差です。

 プロになりたいならジュニア時代から結果を残さないといけないのは、世界中で同じではあります。しかし、日本人は「勝たなきゃいけない」が大部分を占めているようです。

 テクニック的に日本人は、小さい時に勝てるテニスをしてしまいます。欧米の選手たちは、プロになってから勝てるテニスを小さい時からするのです。

 日本人は小さい時に勝てるためのテニスを完成させてしまうので、プロの世界に入った時には、太刀打ちできません。自分のテニスを確立すると、そこから1ミリでも何かを変えようとするのは非常に困難です。そのテニスに何かをプラスして対応しようと思っても、17、18歳でプレースタイルを変えることは難しく、フィジカル的にも欧米選手たちほど大きく変化しないため、プロでの活躍が簡単ではなくなるのではないかと思います。
  それにはサーフェス(コートの種類)の問題もかかわってきます。砂入り人工芝コートでは止まって切り返すことができないため、オープンコートを作って相手を走らせれば勝てます。つまり、ミスをしないテニスをしていたら勝てるわけなので、打てるボールも打たなくなってしまいます。

 また、弾道も低いため、低いボールに対する処理はできるようになりますが、高いボールに対するイマジネーションが養われません。相手のボールが高いと、コートを広く使い、ポジションも後ろに下げられます。その時にどう対応すればいいのか。そういうことを考える機会がなく、空間認識、高低差を考えたテニスの経験を積めないのです。

 プロでもプレースタイルは様々なので、小さい時から目指すプレースタイルは人によって違っていて当然です。身体の特徴だったり、幼少期に育った環境や自分が思い描くスタイルもあるでしょう。ただし、それがプロで通用するものでなくては意味がありません。幼少期から自分の目指すプレースタイルで試合をしましょう。そのクオリティが低いのはジュニアだから仕方ありません。その質を上げていくのが上達の道です。

 最近、日本ジュニアの試合を見ていると、私が育成プロジェクトでジュニアと関わるようになって試合を見るようになった頃と比べると、ネットに行ったりドロップショットを使う選手が増えてきました。指導者の努力がうかがえます。コートに関しても、育成強化レベルになると、ハードコートでの練習環境を求めるコーチが増えてきました。

 プロになるという世界に向けての意識が高くなっているのは間違いありません。しかし、世界と比較すると、まだ追いついていないと感じます。世界のスピードについていくには、さらに段階を上げる必要があるのです。

文●伊達公子
撮影協力/株式会社SIXINCH.ジャパン

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