Credit: canva

「新型コロナのロックダウンで月面温度が下がる」という驚きの現象が起きていたことが明らかになりました。

これはインド・物理学研究所(PRL)による最新報告で、2020年4〜5月の最もロックダウンが厳しかった期間に、月面の夜間温度が平均8〜10℃も下がっていたことがわかったのです。

これは人間の活動が、いかに大きな影響力を持つかの新たな証拠と言えるでしょう。

研究の詳細は2024年9月18日付で科学雑誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letters』に掲載されています。

目次

なぜロックダウンが月を冷やすのか?ロックダウン中に月面温度が8〜10℃も下がっていた!

なぜロックダウンが月を冷やすのか?

月世界は地球とは違って、人が生身で生きられるような場所ではありません。

月は大気が非常に薄いため、地球のように太陽熱を大気層で和らげることができず、昼間は相当暑くなります。

また逆に、大気の薄さから太陽熱を吸収して保持できず、すぐに宇宙空間へと放熱してしまうため、夜間は急激に冷え込みます。

そのため、月の表面温度は日変化が異常に大きく、昼間は約110℃まで気温が跳ね上がり、夜間はマイナス170℃程度まで急落するのです。


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一方で、地球も同様に太陽熱を受けており、その一部は大気に吸収され、残りは宇宙空間に放熱されています。天気予報で寒い日に「放射冷却の影響」と説明しているのを聞いたことがあると思いますが、それがこの宇宙空間への放熱を指します。

月面はこの地球からの放熱の影響も受けているわけです。

これを踏まえて研究チームは「地球からの放熱量が少なくなると、それに伴って月面の温度も少し下がるのではないか」との仮説を立てました。

特にその影響が顕著に確認できると予想されるのは、夜間の月です。

昼間は太陽からの放射熱や月面の内部熱流などがあるため、地球の放射熱の影響を見分けるのはほぼ不可能でしょう。

そこでチームは今回、地球の放射熱が月面に与える影響を調べるため、新型コロナ期間の「ロックダウン」に注目しました。


Credit: canva

2019年末に始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、翌2020年から世界中でロックダウン(都市封鎖)を展開させるに至りました。

中でも最もロックダウンが厳格に行われたのが2020年4〜5月にかけてです。

この期間は人的活動が世界規模で激減し、温室効果ガスやエアロゾルの排出量も大幅に減少して、地球から宇宙空間へと放出される熱量が下がりました。

つまり、ロックダウンによる地球の放射熱の減少が月面の夜間温度にも影響を及ぼした可能性があるのです。

チームはこの仮説が正しいかどうかを検証してみました。

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ロックダウン中に月面温度が8〜10℃も下がっていた!

本調査では、NASA(アメリカ航空宇宙局)の月周回無人衛星「ルナー・リコネサンス・オービター」が収集した月面の温度データが使用されました。

ルナー・リコネサンス・オービターは過去数十年にわたり、月面の平均温度データを記録し続けています。

チームは今回、月面の温度データが収集されている6つの場所に焦点を当てました。


月面の6つのスポットの夜間温度を分析 / Credit: K Durga Prasad et al., Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letters(2024)

その中には、月面の西側にある「嵐の大洋(Oceanus Procellarum)」と呼ばれるエリアや、月面の北東に位置する「晴れの海(Mare Serenitatis)」、月面の北部にある「雨の海(Mare Imbrium)」といったエリアが含まれています。

6つのスポットは表面積900〜2500平方キロメートルの範囲となっています。

そしてチームは最も厳しいロックダウンが世界規模で行われた2020年4〜5月を境に、その前後3年間の月面温度を分析。

2017年〜2023年の計7年間における月面6カ所の夜間平均温度を比較し、グラフにまとめてみました。


月面6カ所の温度変化をグラフにまとめたもの。2020年4月から温度が下がっていた / Credit: K Durga Prasad et al., Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letters(2024)

その結果、6カ所すべてにおいて、2020年4〜5月の間に夜間平均温度が有意に下がっている証拠が見つかったのです。

全体の平均値を取ると、ロックダウン中に月面の夜間平均温度は8〜10℃も下がっていることが判明しました。

2020年の間は一貫して月面温度が下がっており、ロックダウンが緩和して人的活動が世界的に再開された2021年以降に月面温度が再び元の状態へと戻っていました。

チームはこの結果が太陽活動や季節的な気温変動のせいではないことも確認しており、月が一時的に冷えたのは地球の放射熱の減少によるものだと断定しています。


6カ所それぞれの夜間温度変化のデータ / Credit: K Durga Prasad et al., Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letters(2024)

しかし、ロックダウンによる人的活動の減少が直接的に月面を冷やすことにつながるとは驚きでしょう。

今回の研究は、地球上の人間活動が月のような遠く離れた天体の温度にさえも影響をもたらすことを浮き彫りにした貴重な成果です。

参考文献

How staying home during Covid lockdown cooled down the Moon’s temperature by around -250 degrees, says new study
https://economictimes.indiatimes.com/news/science/moons-temperature-dipped-8-10-kelvins-during-covid-19-lockdown-on-earth-says-new-study/articleshow/113802726.cms?from=mdr

Moon’s surface cooled down during strict COVID-19 lockdown, Indian study claims
https://www.wionews.com/india-news/moons-surface-cooled-down-during-strict-covid-19-lockdown-indian-study-claims-763103

Covid lockdown impacted the Moon’s temperature, reveals study
https://www.connectedtoindia.com/covid-lockdown-impacted-the-moons-temperature-reveals-study/

元論文

Effect of COVID-19 global lockdown on our Moon
https://doi.org/10.1093/mnrasl/slae087

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部