秋の欧州競馬を締め括る中長距離チャンピオン決定戦、凱旋門賞(10月6日/G1、ロンシャン・芝2400m)が迫ってきた。今年は日本からシンエンペラー(牡3歳/栗東・矢作芳人厩舎)が単騎参戦。また、武豊騎手がアイルランド調教馬のアルリファー(牡4歳/J.オブライエン厩舎)の手綱をとって出場する。
そこで本稿では、この2頭を中心に、秋の大一番の見どころをご紹介する。最初に取り上げるのは、日本馬悲願の制覇へ臨むシンエンペラーだ。
シンエンペラーは、父シユーニ(Siyouni)、母スターレッツシスター(Starlet’s Sister)、母の父ガリレオ(Galileo)という血統で、2020年の凱旋門賞を制したソットサス(Sottsass)の全弟にあたる超良血馬だ。フランスで生産され、2022年に行なわれた仏アルカナ社のオーガスト・イヤリング・セール(秋の1歳馬市場)にて、藤田晋オーナーの命を受けた代理人の矢作芳人調教師が210万ユーロ(当時のレートで約3億円弱)で落札。まさに”凱旋門賞を獲るため”の、攻めの購買だった。
輸入後、ノーザンファーム早来で育成・調教を受けたシンエンペラーは昨年11月の新馬戦(東京・芝1800m)でデビュー。ここを楽勝すると、続くラジオNIKKEI杯京都2歳ステークス(GⅢ、京都・芝2000m)も素晴らしい末脚を見せて快勝した。
その後はホープフルステークス(GⅠ、2着)、弥生賞(GⅡ、2着)、皐月賞(GⅠ、5着)、日本ダービー(GⅠ、3着)と勝ち鞍には恵まれていないが、クラシック戦線を堂々と走り抜いた。 その後は休養を経て、予定通りに欧州遠征へと出発。8月27日にドイツ・フランクフルト空港へ到着し、馬運車で滞在先となるフランス・シャンティイの清水裕夫厩舎へ入った。9月8日には凱旋門賞の舞台となるロンシャン競馬場まで輸送してスクーリングと追い切りを敢行するなど順調に調整を進め、13日にアイルランドへ輸送。遠征初戦となるアイリッシュチャンピオンステークス(GⅠ、レパーズタウン・芝10ハロン=2000m)に出走した。
レース前から、日本の酷暑が影響して「この馬の本当にいい状態には、残念ながら達していない。いいところ7、8割でしょう」と明言していた矢作調教師。しかしそんな状況でも、フランス生まれ、日本調教の優駿は激走する。坂井瑠星を鞍上に中団の4~5番手を追走したシンエンペラーは手応え十分に直線へ向くが、他陣営に囲まれてなかなか進路が開かない苦しい展開となるが、最後の1ハロンでようやく前をこじ開けて末脚を伸ばし、勝ったエコノミクス(Economics)、2着に入ったディープインパクト産駒のオーギュストロダン(Auguste Rodin)に、クビ+3/4馬身差の3着に食い込んだ。
レース後、矢作調教師は「アイルランドには勝ちに来ているので、3着というのは悔しい結果ですが、次に向けては良いレースだったと思う部分もあります。シンエンペラーはダービー以来の休み明けでしたが、適性のある馬を連れてくれば十分通用するなという手応えは掴めたと思います」と語り、本番への自信をのぞかせた。
その後、シンエンペラーは上昇曲線を描きながら本番へ向けての調整がなされている。9月25日の1週前追い切りは、アイリッシュチャンピオンステークスのときと同様にクリスチャン・デムーロ騎手を招致(同騎手は2020年にソットサスで凱旋門賞を制覇している)。強めに追われて、藤田晋オーナー所有の帯同馬ラファミリア(牡3歳/栗東・矢作芳人厩舎)をぶっちぎる豪快な動きを披露した。
10月2日にはシャンティイのラモルレイ調教場(ダートの周回コース)において、調教助手を背に軽めの追い切りで調整された。スタッフは成長と仕上がりの良さに自信を深めている様子だったという。
アイルランドでは欧州のタフな馬場をこなしたシンエンペラーだが、道悪になりやすいこの時期のロンシャンの馬場はまた別物と言えるほどにヘビーになりやすい。さらに、アイルランドでは8頭立ての少頭数だったが、本番は16頭立てとなる予定。人気になるほど他馬からのマークが厳しくなるのは当然の流れで、かなりタイトな状態でのレースを強いられることも覚悟しなければならない。
それでも、ラヴズオンリーユー(2021年ブリーダーズカップ・フィリー&メアターフ)、マルシュロレーヌ(21年ブリーダーズカップ・ディスタフ)、リアルスティール(16年ドバイターフ)、リスグラシュー(19年コックスプレート)などを率いて世界中でG1タイトルを積み上げる「世界の矢作」が自信を持って送り込んだシンエンペラーは、その血統背景も含めて期待するなというほうが難しい。伸び盛りの坂井瑠星騎手の手腕を含めて、大仕事の達成に願いをかけたい。
文●三好達彦
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