「信じられない勝利」10人のユベントスがCLライプツィヒ戦で逆転できた理由「モッタ監督はユーベでもボローニャ時代のプロセスを――」【現地発コラム】

 10月1~2日に行なわれたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)第2節は、レアル・マドリーがリール、バイエルン・ミュンヘンがアストン・ビラにそれぞれ敗れる波乱があった一方、ドルトムント、バイヤー・レバークーゼン、リバプール、ベンフィカなど7チームが2連勝を飾り、順位表の上位に並んだ。

【動画】ラスト30分を1人少ない状況で戦いながら、ユベントスが敵地でライプツィヒに逆転勝利

 その中で唯一のイタリア勢がユベントス。第1節にPSVアイントホーフェンをホームで3ー1と下したのに続き、この第2節でもRBライプツィヒに敵地で3ー2の逆転勝利を挙げ、勝点6を積み上げた。2試合合計の得失点差が+3と7チーム中最も少ないため、順位は7位に留まっている。しかし、チアゴ・モッタ新監督の下でチームの陣容から戦術コンセプトまでを大きく刷新して臨んだ新プロジェクトの初年度に、セリエAと並ぶ主戦場であるCLで順調なスタートを切ったこと自体が、ひとつの収穫であることは確かだ。

 しかしそれ以上に大きいのは、最後の30分を1人少ない10人で戦うことを強いられ、しかも一度はリードを許すというきわめて困難な状況に陥りながら、そこから2点を奪って逆転勝利したこと。逆境に陥りながらもリスクを怖れず攻撃的な姿勢を貫き、劣勢の試合を押し切った成功体験は、まだまだ成長途上のチームにとって貴重な糧となるはずだ。

 対戦相手のライプツィヒは、先頃J3の大宮アルディージャを買収したことでも知られるレッドブル(RB)グループのトップクラブ。強靭なフィジカルを備えた若いタレントを揃え、アグレッシブなプレスとデュエルによるボール奪取からのスピードに乗った速攻という、グループ共通の明確な戦術的アイデンティティーを貫く難敵だ。過去5年のCLでの戦績もベスト4が1回、ベスト16が3回、グループステージ(GS)敗退1回と、ユベントス(ベスト16が3回、GS敗退1回、不出場1回)をむしろ上回っている。
  前半はおおむね均衡した展開だった。ユベントスは最初の10分強でDFブレーメル、FWニコ・ゴンサレスをそれぞれ怪我で失い、交代枠を2つ消費するアクシデントに遭遇したものの、前半のボール支配率61.5パーセントという数字が示すように、安定したポゼッションで主導権を握って試合をコントロール。しかしラスト30メートルの攻略にアイデアとクオリティーを欠いて、大きな決定機は作れずに終わる。

 一方のライプツィヒは、激しいプレッシングでユベントスのポゼッション分断を試みるも、狙った形から敵陣でボールを奪うことができず、攻撃ではほぼ何もできないまま。しかし30分、前半ほぼ唯一と言っていいカウンターアタックから、195センチの長身にスピードとテクニックも併せ持った21歳のエースストライカー、ベンヤミン・シェシュコが強烈なシュートを叩き込み、ライプツィヒが先制して前半を終える。

 後半は立ち上がりから、リードされたユベントスが積極的に攻勢に出て、50分にこちらもエースストライカーのドゥシャン・ヴラホビッチが左からのクロスをニアサイドで合わせて同点ゴール。そこから両チームの攻防が一気に活発化し、双方がポストを叩く決定機を得るなど、試合はオープンかつスリリングな展開になった。
  ところがユベントスは59分、GKミケーレ・ディ・グレゴリオが、エリア外でのハンドでレッドカードを受け退場、残り30分を10人で戦うことを強いられる。1ー1というスコアと残り時間を考えれば、例えばアーセナルが9月22日のプレミアリーグ、マンチェスター・シティ戦でやったように、ボールを放棄してベタ引きの撤退守備で試合を「眠らせ」、勝点1を守り切る道を選んでもおかしくはなかった。

 しかしモッタ監督は、撤退守備どころか1人少ないにもかかわらず、前線からマンツーマンで相手のビルドアップにプレッシャーをかける前進守備を継続。勇気ある決断を下して、チームの士気を煽る。そのアグレッシブな姿勢は、65分にPKを許して1ー2とリードされてからも変わらなかった。

 そして68分、執拗なプレッシングから敵陣右サイドでボールを奪って素早く反撃に転じると、ヴラホビッチが中央右寄りから左足でファーポスト際に20メートルのシュートを決めて2ー2。さらに82分、ウェストン・マッケニーが相手のカウンターアタックを捨て身のタックルで食い止めたところから、CBピエール・カルルが果敢にドリブルで持ち上がると、そこからのパスを受けた途中出場のフランシスコ・コンセイソンが、立ちはだかるDFをドリブルでかわして狙いすましたシュートをゴール左隅に流し込み、1人少ない10人による信じられない逆転劇を完遂した。

 指揮官は試合後のインタビューでこう語っている。

「最初の1分から、選手たちは積極的に前に出ることで相手にダメージを与えられると確信しているように見えた。その確信は後半に入ってむしろ強まったし、それは10人になっても変わらなかった。だとしたらどうして後退する必要があるのだろうか。我々は前に出続けることで自分たちのサッカーを貫いた。どんな時にも自分たちは相手を上回ることができると信じ続けなければならない。今日はそれができた」
  モッタ監督はボール支配を通して主導権を握りながらも、前がかりになり過ぎるリスクを冒すことなく、攻守のバランスを保って効率的に勝利をもぎ取ることをよしとする信条の持ち主。セリエAでは開幕2連勝の後0ー0の引き分けが3試合続いたことで、これではベタ引きの堅守速攻に徹していたマッシミリアーノ・アッレーグリ前監督時代と変わらない、という批判も受けていた。

 確かにモッタは守備に重きを置くタイプの指揮官ではある。しかし同時に、その守備は単に相手の攻撃を食い止める手段ではなく、攻撃の機会を作るための重要な手段でもあると位置づけており、相手と状況に応じてゾーンの4ー4ー2ブロックによるミドルプレスと、マンツーマンのハイプレスを効果的に使い分けてきた。この試合では、後者に力点を置くことによって相手に対して優位に立てるという確信をチームと共有し、まさにその確信を通して逆転勝利をもぎ取ったと言うことができる。

 1人少ない10人という困難な状況にもかかわらず、戦術的にもメンタル的にも最後まで受動的にならず、能動的かつ攻撃的に前に出る姿勢を貫くというのは、アッレーグリ前監督時代には考えられなかったことだ。モッタは過去2シーズン率いたボローニャでも、まず守備戦術を確立することを優先し、そこから徐々にチームの重心を上げていくことで、「ゴールを守る守備」から「ボールを奪う守備」へ、そしてさらには「チャンスを作るための守備」へと進化させていった。ユベントスもその同じプロセスを着実に歩み始めている。

文●片野道郎

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