古代のナビゲーション機器「アストロラーベ」とは? / Credit:Wikipedia Commons_アストロラーベ

人類はコンピュータやGPSが発明される前から、太陽・月・星の位置、時刻、航海中の現在位置を知ることができました。

そしてそれらを測定するための「アストロラーベ」と呼ばれる特殊な天体観測器も存在しました。

これは古代の天文学者や占星術者たちに広く使用されてきたもので、「ある種のアナログ計算機」だと言えます。

現在では、その精巧さや美しい見た目から、工芸品として高い人気を誇ります。

これまでに数多くのアストロラーベが作られてきましたが、最近、フランスの「ミディ=ピレネー天文台(OMP)」に所属する天文学者エマニュエル・ダヴースト氏は、アストロラーベのパーツを分析することで、製造年代を特定することができました。

研究の詳細は、2023年11月29日付で、プレプリントサーバ『arXiv』にて発表されています。

製造年代まで知ることができる「古代の機器」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

ここでは、古代から中世にかけて活躍した「アストロラーベ」をご紹介します。

目次

古代・中世に活躍したアナログ計算機「アストロラーベ」とはアストロラーベの構造星の位置を示すパーツが製造年代を明らかにする

古代・中世に活躍したアナログ計算機「アストロラーベ」とは


1400年代に作られたパリ製の「アストロラーベ」 / Credit:Sage Ross(Wikipedia)_Astrolabe

アストロラーベとは、天体の高度や方位を、計算ではなく、視覚的な操作で知るための道具です。

スタンダードなアストロラーベは直径15cmの真鍮製です。

もちろん様々なタイプが存在しますが、そのほとんどが容易に持ち運びできるサイズであり、薄い円盤のような形をしています。

このアストロラーベは、現在の「星座早見盤」のルーツでもあると言われているようです。


北半球用星座早見盤。星座早見盤のルーツはアストロラーベにあった / Credit:Wikipedia Commons_星座早見盤

そのためいくらか使い方も似ており、円盤やパーツを回転させながらメモリを合わせることで、正確な天体の位置や現在の経度を知ることができます。

アストロラーベの開発者は不明です。

紀元前2世紀に天文学者によって開発されたなど、諸説ありますが、確かなのは、この機器が古代から存在してきたということです。

例えば、4世紀ごろのアレクサンドリアには既に存在しており、8世紀ごろにはイスラム圏に伝わって大きく発展したと言われています。

イスラム圏の各地に伝わったアストロラーベは、それぞれの地で多くの機能が追加され、より複雑なものとなりました。

10世紀の天文学者が、「アストロラーベの様々な機能には1000の応用例がある」と推測したほどです。

そして12世紀には多くの天文学の知識と共にヨーロッパにもたらされます。

15世紀から16世紀のヨーロッパではアストロラーベが広く使用されており、天文学教育の基本ツールとして一般的なものになりました。


1208年のペルシアのアストロラーベ / Credit:Wikipedia Commons_アストロラーベ

コンピュータのない当時に、自分で一から計算せずに、太陽や星の位置、航海中の現在位置や時刻などを知ることができるため、特に天文学者や占星術者、航海士たちから重宝されたようです。

そんな中で、アストロラーベには美しい装飾が施されるようにもなり、工芸品としても人々の目を引くようになっていきます。

しかし、17世紀の「振り子時計」、18世紀の「六分儀」などの発明により、アストロラーベは徐々に使用されなくなっていきます。

ついには、アストロラーベが製造されることもなくなりました。

とはいえ、現代まで時間が進むと、逆にアストロラーベの価値が高まることになりました。

「古代のアナログ計算機」という貴重な収集品へと変化したのです。

オークションなどでは、アストロラーベ1つが50万ドル(約7000万円)で取引されることもあるのだとか。

次に、アストロラーベの構造を見てみましょう。

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アストロラーベの構造


アストロラーベの分解図 / Credit:Elrond(Wikipedia)_Astrolabe

アストロラーベは複数のパーツから成り立っています。

まず「メーター(Mater)」と呼ばれる中空の円盤があります。

これはアストロラーベの土台のようなもので、メーターの縁の外周には、時刻メモリや角度メモリが刻まれています。

そしてメーターの内側には、「ティンパン(Tympan)」と呼ばれる平らな板が入っており、高度・方位を表す線が等間隔で刻まれています。

通常、1つのアストロラーベには緯度別に複数のティンパンが備わっており、現在地に対応した緯度のティンパンを入れ替えて用います。

またメーターとティンパンの上には、「リート(Rete)」と呼ばれる星の位置を示す回転盤が備わっています。


中央の画像はリートだけを取り出したもの。曲がりくねった針の先が恒星の位置を示す。 / Credit:cgoncemire(YouTube)_El astrolabio funcionamiento- The astrolabe how it works-L´astrolabe le fonctionnement(2015)

このリートは透かし彫りで作られており、複数の針が美しい模様を作りながら縁から伸びています。

そしてこれらの針の先が示すのは、主だった恒星の位置です。

リートを、星座早見盤のように回転させて使用することで、現在の星空を把握することができるのです。

ちなみに、どの恒星を含めるかは特に決まっておらず、恒星(針)の数も10~100個以上と幅があります。

アストロラーベを構成するパーツの中でも、特にリートは目立つ存在であり、デザイン性を重視した美しいリートが数多く存在しているようです。

(リートの上には、赤緯の目盛りが付いた時計の針のようなパーツ「ルーラ」が付属することもあります)

最近では、このリートを分析することで、アストロラーベの製造年代を知ることもできるようです。