星の位置を示すパーツが製造年代を明らかにする
エマニュエル・ダヴースト氏は、フランスの都市トゥールーズにあるミディ=ピレネー天文台(OMP)に所属する天文学者です。
最近彼は、同じくトゥールーズにあるポール・デュピュイ美術館に保管されたアストロラーベを分析しました。
ポール・デュピュイ美術館にあるアストロラーベ / Credit:Emmanuel Davoust(OMP), arXiv(2023)
彼が特に着目したのは、アストロラーベのパーツの1つであり、恒星の位置を示す「リート」です。
このリートには、34個の針があり、同じ数だけの恒星の位置を示しています。
そしてなんと彼は、リートの分析により、このアストロラーベがいつ製作されたのかを明らかにすることができました。
リートにある34個の針先が恒星の位置を示す / Credit:Emmanuel Davoust(OMP), arXiv(2023)
製造年が彫られているわけでもないのに、どうしてそのようなことが可能なのでしょうか?
地球の自転軸は常に同じ方向を向いているわけではなく、下図のように約23.4°傾いています。
地球の歳差運動 / Credit:国立天文台 天文情報センター_歳差ってなに?
これを歳差運動と言いますが、この運動により、「春分点(すべての恒星の位置の基準となる点)」の位置は定期的に変化します。
また恒星自体も、固有運動と呼ばれる変化により、非常にゆっくりとその位置(天体を観測した際の座標値)を変えています。
つまり、時間の経過により恒星の座標は変化しており、この違いが特定のアストロラーベがいつ製作されたかを知るカギとなるようです。
今回、ダヴースト氏は、1400年から1700年の間の恒星の座標を50年ごとに算出し、ポール・デュピュイ美術館にあるアストロラーベの34点の座標と比較しました。
その結果、このアストロラーベが作られたのは1550年である可能性が高いと分かりました。
このように、天文学を用いた歴史調査が可能だという点も、アストロラーベが持つ魅力の1つなのです。
もし、古代のナビゲーション機器である「アストロラーベ」を目にする機会があるなら、ぜひ、その精巧さやデザインの美しさ、そして天文学における歴史の深さを感じ取ってみてください。
参考文献
The Positions of Stars on an Ancient Navigation Device Tell us When it was Made
https://www.universetoday.com/164769/the-positions-of-stars-on-an-ancient-navigation-device-tell-us-when-it-was-made/
Astrolabe
https://en.wikipedia.org/wiki/Astrolabe
元論文
Dating of a Latin astrolabe
https://arxiv.org/abs/2311.17966
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部